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第10話~試し撃ち~

「おう、待たせたか」

「もう出来たんですか?」

「あたぼうよ。んなことより本当に使えるのか?」


 ファニーが思っていたより完成は早かった。ヴィンダーの手にあったのは装飾もなにもないシンプルな弓と剣。それでいて洗練されていて、一目で気に入るほどだった。


「試してみていいですか?」

「いいけどよ、気ぃ付けろよ」


 新しい弓を握っている。違う武器なので、当然のことではあるが前のものとは手触りがまったく違う。ヴェンダーはオロオロしながらファニーを見ていた。


 そんな心配をよそに、ファニーはいつものように構えて弦を引き絞る。ティーブは前の性能を詳しく覚えていたようで、前の弓と同じ手ごたえを感じていた。それだけヴィンダーの腕も良いということだろう。ゆっくりと弦を戻して、息を整えている。次は試し打ちしたいと思っていた。


「これ、すごく良いです」

「マ~ジで使えるんか。どうなってるんだ?」

「ファニーちゃん、すご~い」


 あんなにアスチルベのことを嫌い警戒していたのに、まるで目に入っていないかのようにヴィンダーは無反応だった。それだけ驚いているということだろう。そしてもっと試射したいというファニーの気持ちを察したようで、工房の奥から矢を持ってくる。


「矢はとりあえずこんなもんでいいだろ。まだあるが、とりあえず試してみるか?」

「ありがとうございます」

「嬢ちゃんも好きだねぇ」


 受け取った矢は前に使っていたものより良いもののようだった。矢羽根が綺麗で、矢じりもしっかりしている。


 そして工房の裏手にある試射場に案内される。壁に囲まれている場所は他の武器を試すための場所でもあり、弓用の的はいくつか並んでいるだけだった。


 ファニーは久しぶりにしっかりと弦を引き絞る感覚を感じていた。噛みしめるように引ききったまま止めて狙いを定め放つ。1射目は的の上を通り外れてしまう。前の弓よりも飛びが良いようだった。


 1射目を外してしまったことをファニーは全く気にしていない。別の弓なのだから、感覚が違うのは当たり前で、練習しないと当たらないのは言うまでもないことだ。それから受け取った矢を次々に放つ。全て射尽くす頃にはほとんどが的の中央に命中するようになっている。


「ヴィンダーさん。本当に良い弓ですね。街にいる間は練習に来ても良いですか?」


 話しかけられたヴィンダーは口を大きく開けたまま固まってしまっていた。


「ヴィ、ヴィンダーさん?」

「あ、おう。わりぃわりぃ。ここまでやるとは思わなかったんでな」

「えっ、そんな。ルイスとティーブの方が強いですよ?」

「待て待て待て。あのなぁ魔法を使える賢者とかガーダンと張り合うつもりなんか?」

「はい」


 ファニーはルイスとティーブの隣で一緒に戦いたいと思っていた。正直今までは足手まといなんじゃないかなって思っていたけど、ちょっとは自信を持っても良いのかな。


「ねぇ、ルイス、ティーブ。どうだった?」

「どうって、相変わらず良い腕だなって」

「変わらぬ腕前です」

「そっか、そうなんだね」


 雲1つない快晴の日で、弓の練習をするには良い日和であった。新しい弓の感覚をもっと掴みたいとファニーは考えていた。


「ヴィンダーさん。矢をもう少し貸してもらえませんか?」

「いや、まぁいいけどよ。あんま無理すんなよ」

「んあぁあ〜。私がわたすの〜」


 ルイスに捕まえられていたアスチルベが暴れている。手足をバタつかせて矢筒を目指しているようだ。ヴィンダーはあからさまに嫌な顔をしているが、それ程度で問題が起きるとは思えなかった。


「ヴィンダーさん。それくらいなら」

「んー。本当に大丈夫だろうなぁ。嫌な予感しかしねぇんだが」

「そ、そんなぁ。矢を運ぶだけですよ?」


 きっとそれだけ警戒したくなるほどのことがあったのだろう。ファニーはそう思いながら、仮に矢を壊されたり、どこかに転移させられたとしても困ることはないと考えていた。なにより、アスチルベがやりたがっているのであれば良いだろうと思っている。


「やった〜。よこしなさい。わ〜いわ〜い。ファニーちゃ〜ん」

「う〜ん。ヴィンダーさんにそんな言い方しちゃダメでしょ」

「む〜。だって〜」


 どうしてここまで態度が違うのか。ヴィンダーはなにもしていないのに、アスチルベから一方的にイタズラをしているようだった。


「嬢ちゃん。妖精とドワーフっていうのは昔から相性が悪いんだよ。なんでだかは知らんがな」

「そ、そうなんですね。あっ矢、ありがとうございます」

「良いって良いって。好きにしな」


 相性と言われてしまうとファニーにはどうすることも出来なかった。次に来るときは何としてもアスチルベを留守番させなければと思うだけだった。それはそれとして、ファニーは弓の練習を続けたかった。受け取った矢を番え、また弦を引き絞り、今日はあと数本だけにした方が良いと考えていた。


「ねぇねぇ、ファニーちゃん」

「ん、なに?ゴメンね、ちょっと集中したいの」

「手伝ってい〜い?」


 手伝う。アスチルベはなにを言っているのだろうか。ファニーにはわからなかったが、手伝うだけなら構わないだろうと軽く考えていた。


「じゃぁお願い」

「わ〜い。まっかせてね〜」


 アスチルベによって矢じりが赤く光る。暖かいとファニーは感じていたが、ただ綺麗に光っているだけだろうと軽く考えていた。いつも通り狙いを定め、いつも通りに矢を放ち、いつも通りに的の中心に命中する。そこまではいつも通り、そこからはいつもでは考えられない。


 ドーーーーーン。


 的に命中した矢は、爆音を発しながら燃え上がる。的だけでなく周囲の壁も爆風が包み込む。一面が焼け、熱がここまで達する。黒煙が立ち昇り、地面には小さなくぼみができてしまっている。


「なにやってんだ!!だから嫌な予感がするっつったんだ!!」

「ご、ごめんなさい」

「へへ〜ん。どうよ」


 試射場は見るも無惨な姿になってしまっていた。ヴィンダーの心配した通りのことになってしまったのだ。


「ア~ちゃん、なんてことを」

「ん〜。ファニーちゃんのお手伝いするの〜。でも、もう無理、動けない」


 アスチルベはファニーの頭の上に落ちたようだった。片手で捕まえると手の中でグッタリしてしまっている。こんなことするなんて聞いていないとファニーは思っていたが、、ヴィンダーさんは完全に怒ってしまっていた。


「ったくも〜。どうすんだよコレ」

「本当にごめんなさい。こんなことになるなんて思わなくって」

「ファニーちゃんをイジメちゃメ」

「ちょ、ちょっと大人しくしててね」


 疲れた声でアスチルベが言っているが、ますます話がコジれてしまいそうだった。そんなところにルイスがゆっくりと歩いてくるが、どうしてそんなに落ち着いていられるのかファニーには理解できなかった。


「えっと、いいかな?これくらいなら魔法で直せるから、まぁここは俺に任せてもらって。ファニー達は先に宿に戻ったら?」

「あんちゃんマジか。こ、こいつを直せるんか?」


 ヴィンダーが驚くのも当然だ。試射場を直せるとはとても思えないほど壊れている。小さい的を用意するくらいならすぐにできるだろうが、吹き飛んでしまった壁などはどうにもならなさそうだった。それでもルイスは問題ないと自信たっぷりだ。


「あっ、でもルイスだけに任せるのはちょっと」

「ん〜でも、その子を残しておくほうがねぇ」

「な、なによ〜。黒の賢者のくせに〜」

「う、う〜ん。そうだね、じゃぁルイスにお願いしちゃおうかな」


 予想できなかったとはいえ、アスチルベが手伝うことを止めなかったのはファニー自身だ。なにもしていないルイスに全てを任せてしまうのは良くないと思っていたが、アスチルベを別の場所に連れて行った方が良いというのも感じていることだった。

 少しの間考えた末に、ファニーは明日きちんと謝ろうと考えた。


「ヴィンダーさん、ごめんなさい。明日また来ます。あっ私だけで」

「おう、そうしてくれや。嬢ちゃんだけなら歓迎だ。嬢ちゃんだけならな」

「は、はい」


 もう2度とアスチルベは連れてこられないなとファニーは思った。ティーブにはルイスを手伝うように伝え、宿へと戻る。

(ルイス、1人で大丈夫かな)

 夕食時にルイスが帰ってきた。完全に元に戻すにはしばらく時間がかかるらしい。任せきりにしていることに感謝し、ヴィンダーにはちゃんと謝りに行こうと考えながらベッドに入った。


 そしてこの夜も、ルイスが1人で夜の街を出歩いていたことをファニーは知らなかった。


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