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地味令嬢は毎日が楽しい〜推しに出会い前世を思い出しましたが、推しの幸せ以外興味が無い〜  作者: 夏祭えま(旧:ケイ)


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8/8

7. 好意

「おはようございます、アナテマ、今日はお仕事なんですね!」


「はっ?ちょっ隠れろバカ…!」


 慌てた様子のアナテマは見ていたいけれど、とソフィアは安心させるようににぱっと笑う。


「大丈夫です、私の姿誰にも見ることは出来ないので!こんなに大声出してても!」


「心臓に悪いからやめろ…!」


 可愛いなあ、と思いながらにこにことソフィアは笑い、アナテマの隣に立って見上げた。徐々に呆れた顔に変わっていきながら、ぼそりと言った。


「……お願いだから帰れ、…まあお前は帰らないんだろうがなら喋るなよじっとしとけ」


 にまーっと笑うソフィア。──本気で鼻血を出すかと思った。帰らないって分かっているんだね分かってくれたんだねかわいいね。




 ──それは、1時間前のこと。


 いつも通りアナテマの住処へと行ったソフィアは、拙い言葉で『またあした』と傷を付けられた空箱を見つけた。

 すぐにそれを切り取り新しい空箱を置いておき永久保存魔法をかけるのはまあ当たり前として、ソフィアはうーんと唸った。

 探しに行くべきか、帰るべきか。


 アナテマに会ったソフィアにとってはもう気にすることもない過去の夢を見たせいで、どうにも寝覚めが悪かった。

 些細なこととはいえささくれのようなもの、地味に嫌と思いアナテマの顔を見ようと走って来たのだから──


「──よしっ探しに行こう!」


 結論は秒で出た。



 探し方は簡単だ。


 ソフィアの天恵ギフトは『認識阻害』。

 地味令嬢、という言葉では表せないほどに存在感が無くなるだけ──ではない。



 この大陸では、天恵ギフトごとにランクが割り振られており(あくまで目安ではあるけども)、『認識阻害』は堂々トップのSオーバー。

 国家指定警戒天啓(ギフト)にも指定されているほどだ。


 誰にも認識されなくなる、というだけでも強いが──この天啓ギフトの真髄はそんなものではない。


 どんな風にでも自分の姿を認識させられるのだ。


 誰かにとっての家族、大事な人、ライバル、嫌いな人、上司、仇、恩人、恋人、伴侶──例えその人に、その関係性の者がいなくても関係がない。

 ソフィアはその人にとっての恋人である。──その人に本来恋人が居なくとも、そう思いながらソフィアが目の前に立てば、その人はソフィアを恋人と認識する。


『認識阻害』は人だけには収まらない。

 犬、猫、魚、鳥、虫──どれだけサイズが違っていようとも、ソフィアがそう見せようと思えばそう認識されるのだ。

 ドラゴンとして認識されることも出来る。これは魔物にも有効だ。──ソフィアはそうやってダンジョンに潜り、滅びの代名詞である黒竜と認識させ、楽々と踏破した。お金の稼ぎ方はそれだ。



 ソフィアは恐ろしい裏社会を牛耳る人間である。──そう思わせて、人々からアナテマに関する情報を手に入れた。もちろん話し終わったらソフィアのことを忘れるようにした。

 もう今は、なぜかは思い出せないがとても怖い思いをした気がする──それだけの記憶しか残っていないだろう。


 と、いうわけで。ソフィアの話はこれぐらいにして、気になるのはアナテマだ。

 仕事場まで着いてきてしまったが、なし崩し的に許してくれた。かわいい。


「追加の魔法具だ。媒介は髪。いつも通りにやってくれ」


 ソフィアはアナテマ一直線に向かってきたからあまり興味が無かったが、周りには数人アナテマと同じような格好をした人がいた。

 その前に、それなりに高級そうなマントで顔を隠した男が立っており、魔法具と長い金髪を1本ずつ皆に渡していった。


「出来るだけ苦しめて長引かせろ」


 その言葉と一緒に、銀貨が1枚ずつ渡された。

 ──ソフィアは適正な給金がいくらか知らない(興味がなかった)けど、これは少なすぎ…では?自分の知識の無さをソフィアは悔やんだ。

 悩んでいるうちに、指示役みたいな人はどこかに行ってしまった。



「随分顔ぶれが変わったな……次もまた、生き残ろうぜ」


 顔の半分が真っ黒に染まった男がアナテマに声を掛けて来た。

 アナテマはああ、とだけ返事をした。


「それにしても、何かお前、前より健康そうじゃないか?なんだ、他に依頼人でも見つけたのか。俺にも教えろよ」


「…物好きに施されただけだ」


「ふうん……?…気いつけろよ、家族を呪われたってやつが、何でもない顔して寄ってきて復讐されるっての、よくあるらしいぞ」


 ーーーーー


「次は絶対来るなよ…」


「実質、アナテマの知り合いさん方に恋人として紹介されたようなもの…!」


「俺と全然違う世界で生きてんのか…?………薬は、やってないよな?」


「アナテマの存在こそが私にとって特効薬、命の輝き、パーフェクトサンシャイン」


「お前は会う度に様子がおかしくなる病気か?」


「これはですね、恋の病です!それも不治の!」


 んふふ、と微笑むと呆れた目で見られた。にぱーっと満面の笑みを向けると、呆れた目で見ていたが、徐々に目を逸らされる。


「………見てただろ、俺の仕事は、顔も知らない誰かを呪うことだ。呪って、呪って、呪い返しされても呪って、顔を知られて、暗いところで生きてきたんだ…!お前、は、」


「怖くないですよ、アナテマ。言ったでしょう、私、アナテマの全部が大好きなんです!」


 自分に向けられた愛を、訝しげに見つめるその瞳が愛おしくて仕方がない。

 事ある度にソフィアを突き放そうとするのも、怖くなっただろう、もうこんな所来たくないだろう、と──何かを言われる前に、自分を守ろうとするのも。

 本当に、本当に、好きで好きでぎゅっとしたい。その可哀想さが、かわいい。


「……お前は。お前が、俺に恨みを持ってんなら、まだ、分かりやすい」


「純度100%の、正真正銘、1から100まで全部愛ですよ!」


「っ………!分からない、分からないから、やめろ!」


 取り乱してしまうのは、ずっとずっと拒絶され続けたからだろう。呪い返しはとても重いと言うし、苦しい思いを散々してきてしまったんだろう。


 もしも後遺症でもあるなら命懸けで治したい。拒絶が無くなるまでずっとそばにいたい。

 ──その気持ちは確かに本物だけど、それよりも強い興奮で背筋がぞくぞくする。


「一生そばにいさせてください。アナテマと一緒にいられるなら、何だってする」


 顔を歪ませて、アナテマは返事をしなかった。拒絶が無いのをいいことに、1歩近づいてソフィアはアナテマを見上げる。


「私、アナテマに話しかけられるまで死んでるのと一緒だったんです。あのままだったらと思うとぞっとします。…どんなあなたも、私の救いなんです!」


 心を揺らすにはまだ足りない。でもゼロじゃない。

 そっぽを向いて、今から呪うから、それを見ても同じことが言えるんだろうな、とぼそりと呟いた。


 もちろんです!と呟くと、アナテマはしぶしぶ魔法具を手のひらに置いて、息を吸った。

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