3.幸せ
「また来た……」
「はいっ、おはようございます!アナテマ!」
「………お前、学校とか、そういうのはいいのか」
「私がいなくても誰も気づかないので、多分出席扱いになってますよ」
「………」
ソフィアは、アナテマの顔が見える近くに隣に腰を下ろした。
「今日は甘いものとしょっぱいもの持ってきました」
「…………帰れ、いらないから」
「帰っても何もすることないです!」
アナテマはしばらく無言だったが、立ち上がり、ソフィアの持っていた食べ物の入った袋を受け取った。それからまた元の場所に座り直す。
ちょっと不機嫌そうな顔をしている。伏せ目可愛すぎて可愛いすぎるな??
「今日も尊い…好きです…!」
「………うるさい」
「それはカマンベールチーズとベーコンのベーグルです!美味しいですか!!」
「………まあ」
頬張ってる1口の大きさが成人済み男性ぽさを感じさせ、モグモグ食べながら喜んでるのは幼女みがある。
つまり可愛いのだ。アナテマは可愛い。推しがこんなにも尊い。
「………」
「私はご飯食べてきたので大丈夫ですよ!お金もちゃんと自分で稼いだやつです!」
「俺まだ何も言ってない」
いつ見ても可愛いを更新していく可愛さにソフィアがニコニコしていると、アナテマが2個目のパンを食べ始めた。トマトとレタスを挟んだフランスパン。
何年も栄養失調の状態だったのか、昨日のだけでは足りなかったらしい。バクバクと食べ、あっという間に2個目も無くなった。
3個目を食べようと袋の中へと伸ばした細い腕は、途中で止まる。
顔を上げたアナテマは少し迷った素振りを見せながら、ソフィアの方をじっと見つめた。
「…………学校とか友達とか、ほんとうにいいのか」
「私はあなたと一緒にいるのが1番です」
「大事だろ、そういうの」
「うーん………なんというか、私は、目立たなくて。だから私のこと覚えてる人、あの場所には誰もいないんです」
「……………そうか」
こういうとりとめのないことを、推しと話せるなんてなんて幸せ者だろう!とソフィアの頬はつい緩んでしまう。
アナテマの少し同情したような目にも、ソフィアは興奮した。好き。
ちなみにアナテマはベリー類と甘辛い味付けが好きらしい。ソフィアはアナテマの表情の緩み度から、そう推測した。
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「送ってく」
「ありがとうございます!」
「………そもそも、こんな危ないところ、子供が来るな」
「私の姿、一目で見つけられたのアナテマだけですから大丈夫です」
「…………俺は犯罪者だぞ、もっと警戒するべきじゃないのか」
「私はアナテマが好きですから!」
夕日の中に佇むアナテマの姿を描いた絵画が欲しい。
それぐらい美しかったので、国民全員でアナテマを崇めるべきだと思う。
「明日は、俺、あそこにいないから………明後日はいる」
「はい!絶対行きます!」
「………いや、危ないから来るな」
来るなと言いつつ、いついるのかを告げるあたり───アナテマはソフィアに来てほしいのだろう。
アナテマを構成する幼さは、孤独感が原因の1つだとソフィアは思う。
アナテマは、もう自分を愛してくれるソフィアを自分から手放すことは出来ないだろう。
にんまりと、送ってくれたアナテマの背中を眺めながら、ソフィアは笑った。
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「ほんと可愛すぎてマジ神…!」
帰ってきてから緩みっぱなしの頬を押えて、ソフィアは足をバタバタさせる。
「明日の学校も明後日を考えれば余裕!」
地味すぎて誰にも見つけられない、ソフィア。
学校でソフィアを認識している人はいないだろう。それどころか、帰っていった家族にさえも忘れ去られているかもしれない。
だから何だって言うのだろう。そんなもの、興味も無い、いらない。上っ面だけの人間関係のために、一番大切なアナテマとの時間を削るなんてしたくない。
「私にはアナテマがいるから!」
───だから、大丈夫。
だってこんなにも、ソフィアは幸せだ。