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第30話 おやすみなさい

「眠った?」


 布団に入ってから三十分ほどして、美月の小さな声が耳に届いた。多分、時間は深夜の二時を過ぎている。


「いや……」


 短く答えた。疲れてはいた。けど、本当に久しぶりにファッションに触れて興奮冷めやらないのも事実だった。


「私たち、小学校の頃みたい……ね」


「そう……だな。あの頃も夜寝ないで一緒に夢中になって夢に向かって進んでたな」


「懐かしいいわね」


「懐かしいな」


 二人して、言葉の余韻に浸る。


「でもそんなに昔の事じゃないの……よね」


「五年前か……。ちょっと前のことだけど、遥か昔の事にも思える」


「失敗したわね」


「そうだな。失敗は、した」


「でも私にとってはそのやり直しでもあるの。リベンジ」


「リベンジ……か……」


 昔の事を思い出す。以前ほどの強烈な苦さ、苦しさはない。美月も言葉を切って、思いにふけっている様子だった。


「そう。今度は失敗しない。成功させる」


 美月の抑揚は意志を感じさせる。


「私たちがダメだったのは、あの時の一度の失敗で挫けたこと。失敗なんてするものよ。だから……リベンジ」


「そう……だな」


 俺も同意した。


「たった一度の失敗であきらめることなんてなかったんだって、今ならわかる」


 俺の同意に対する美月からの応答はなかった。寝ているから美月の姿や表情は見えない。でも、俺の言葉を受け止めてくれている優しい気配が伝わってきた。


「でも……私の『予言』した通りでしょ」


「予言……?」


「そう。最初に私が晴人に告白した時、再び私と一緒に前を向いて歩いてゆくことになるっていったでしょ。その通りになってるわね」


「確かに……そんな事言ってたな……。そういう意味……だったのか……。あの時から今を見越していた……。いやいや、さすがにそれはない……だろ!?」


「それはどうでしょう?」


美月の、ふふっという不敵な笑いが聞こえた。


「もう眠りましょう。明日も学校はあるわ。彩雲祭のショーも成功させたいけど、高校も出ておきたいの」


「そうだな」


 俺も答える。


 二人して、きょう二度目の『おやすみなさい』をして、今度は本当に眠りについた。

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