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第16話 神楽国際総合ファッションショー②

 そして十二歳になって。私はまだプロのモデルにはなれていなかったけど、晴人のデザイナーとしての活躍は認められていて、晴人は初めて神楽国際ファッションショーで自作品の服を披露することになった。


 神楽国際ファッションショーは、父が作り上げた日本で一番権威のある国際ファッションショーだった。だから二人して跳び跳ねて喜んだ。


 その晴人に与えられたテーマは『制服』。


 だから二人して制服について、その制服のデザインについて毎日夜通し語り合った。


 スケッチをのぞき込んでいる私に、晴人の吐く息が熱い。


「セーラー服よりはブレザーの方が神楽ショーでは『ハマる』と思う。セーラーはシンプルで古風というイメージがあるけど、ブレザーなら海外からも受け入れられやすいはず」


「私もブレザーがいいと思う。ダブル? シングル?」


「ダブルだと硬すぎるからシングル。……となると、よくある学園服になるから、どう差別化をはかるか……ってとこ」


「色は?」


「ダーク系……と言いたいところだけど、ここは深めのブルー。チェック柄の生地を使用したスカートで特徴を出したい。制服そのものというより、よりカジュアルに寄せた卒服的な」


 すらすらと、もうベテランの域に達している晴人は、コピックでラフスケッチを描いてゆく。


「こんな感じ」


 私に見せてくれた絵を見て、素直に驚かされる。晴人はもう完全に、その業界のプロの人なのだと思わせられて、まだプロになれない私は焦りも感じたが、でも嬉しかった。立派な、そして業界でも地位のある位置に立派に立っている晴人が眩しくて、その楽しそうな顔を見ると私も頑張ろうと勇気が湧いてくる。


 そんな私に晴人が続けてくる。


「ネットで全国の学園の制服を見て……」


「うんうん」


「あとは学生の多い街――原宿とか渋谷とかのファッションを実際にチェックしてみて……」


「そんなことまでしてるんだ?」


「いや、そんなんじゃ全然足りない。神楽塾の、制服をデザインしたことのあるプロの話も色々聞いてみたんだけど……」


 もう晴人は夢中で話してて、私もその熱量に卒倒しそうになりながら、のめり込んでゆく。


「桜見女子と阿多海学園が一部参考になるって思って」


「見せてそれ!」


 言った私に晴人がスマホをタッチして見せてくれる。


「いいじゃない!」


「いいよね」


「うん!」


「いや、そうじゃなくて。制服っていいよね。大人っぽくて」


「はるとくんももう大人の仲間入りしているデザイナーじゃない」


 私が答えると、晴人はまだまだと被りを振ったのち、未来を想像して憧れるような表情を見せる。


「早く大人……高校生になって、みーちゃんと一緒に制服着て学園に通いたい! 一緒の高校に通おうよ!」


「うん。そのとき私はプロのモデルになってるから。だから私の制服姿、とっても素敵だからはるとくんになら特別に見せてあげる」


「高校生になったみーちゃんの制服姿、きっと本当に素敵だろうって思う。早く見たい!」


「まだまだお預け。はるとくんがファッションショーで成功して、私がプロのモデルになった暁の二人へのご褒美」


「わかった! じゃあ、約束! 指切りげんまん」


「そう。約束」


 そして……私たち二人は指切りをして約束を交わした。


「これで僕たち、ずっと一緒の契約したよね。僕、デザインを考えてて、制服の胸に『朝顔』の絵柄を入れようって思ってたんだ」


「『朝顔』……?」


「そう。朝顔。花言葉って言うんだって。朝顔の花言葉は『絆』。神楽塾の子が教えてくれたんだ」


 私を見て嬉しそうに微笑む晴人の顔に、私も胸が熱くなり……ドキドキしてくる。この時、私の心はもう既に晴人でいっぱいだったのだと今ではわかるし、神楽ショーのあと晴人と別れ別れになってからもいつもいつも思い出しては胸を焦がし、挫けそうになる自分の勇気の源にすることが出来た事に今でも感謝し続けている。


 このような過程の結果、早熟で若くしてデザイナーとして認められた晴人は、制服を着て歩く大人としての高校生へ強く憧れたから、「自分が大人になったら着たい理想の制服」をデザインすることとなり……。私とは、一緒にその制服を着て学園に通おうね! と約束したのだった。


 晴人の自分の作品への情熱と制服への憧れ。私の晴人への想い。


 恋だった。


 そして……二人のせいでショーは失敗した。


 悔しさに顔を歪めて歯を食いしばる晴人と、泣きじゃくる私。


 二人の気持ちはすれ違ったまま……晴人はデザイナーを止め、離れ離れになった。

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