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行方知れずの私  作者: 秋月カナリア
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恭子8

 二人に見つからないようについていった。

 声をかけようと思ったのに、咄嗟に隠れてしまったのだ。


 二人が昇降口の扉から校舎の中に入るのを見て、しばらく間を置いてから自分も扉に近づいた。

 鍵は開いていた。

 そっと扉を開けて、隙間から中を伺うけれど、暗くてよくわからない。


 耳を澄ましてみても、二人の足音がほんの小さく聞こえているだけだった。


 校舎に入る前に、私がここにいることを誰かに知らせたほうが良いかもしれないと考えて、友達に簡単なメッセージを送っておく。

 その友達からすぐに返事がきた。

 事情は聞かずに、ただ「了解」とだけ。

 その文字を見て意味もなく一つ頷き、私は校舎に入った。


 通路を通り廊下に出る。

 照明はついていないけれど、窓から入る光で明るい。 


 もう二人の足音は聞こえなくなっていた。


 外からはわからなかったけれど、隣にはもう一つ校舎があって、渡り廊下で繋がっている。

 入り口から一番近い校舎なのだから、この校舎に管理事務所のような場所があるはずだ。


 とりあえずはそこを探そう。

 今日誰かに貸しているとしたら、人がいるかもしれない。そこで、涼子の参加していたイベントサークルについて聞く。


 勢い余って現地まで来てしまったけれど、電話やメールでも事足りるのだから、今日何もわからなくても時間がきたら帰ろう。


 そう決めてから、校舎を歩き回った。

 貸し出されているわりに、校舎内は雑然としていた。掃除はされているようだけど。


 中のものが完全になくなっている教室や、反対に机や椅子が集められてバリケードのようになっている教室もあった。蛍光灯が取り外されてしまっている場所もある。

 どの黒板も何も書かれていない。

 各階にあるトイレの手洗い場で、蛇口をひねってみると水は出た。


 全ての教室を見て回ったけれど、管理事務所のような場所はなかった。それに、廃校になってから何かに使われたようには思えなかった。


 ここは本当にレンタルスペースなのだろうか。


 近くの教室に入ると、埃を払ってから椅子に座る。


 もう一度廃校について調べよう。


 来る途中は、ここの住所の確認をして、ちょっとした説明を読んだだけだった。

 レンタルスペースなら公式のサイトがあるはず。


「あの」


 いきなり背後から声が聞こえた。


 息と悲鳴を飲み込む。


 勢いよく振り返ると、男性が一人、廊下からこちらを見ている。さっき見た男性とは違う人だ。


 この人かもしれない。

 見た瞬間に思った。

 涼子の好きな人。

 綺麗な人だと言っていた。

 薄暗い中でもわかる。

 整った顔立ちをしている。

 神経質そうな眼差し。


 私は立ち上がって、携帯電話を両手で持って、一歩下がった。


 でも、向こうからしたら私のほうがあやしい人物だろう。


「あの……」


 私もそう言って、続く言葉が思いつかなくて黙った。


 男性は入口の壁にあった照明のスイッチを押して、教室内に入ってくる。

 急に明るくなったので眩しい。


「ここ私有地なので、勝手に入られては困ります」


 敬語だけれど、無表情で話すからぶっきらぼうに聞こえる。


「ここの管理の方ですか? あの、友達が家出しちゃって、鏑木かぶらぎ涼子りょうこっていうんですけど、あのこちらにいませんか?」

「いませんね」


 即答だった。

 けれど折れるわけにはいかない。


「連絡もつかなくて……友達はここによく来てたみたいなんです。一人参加のイベント……」


 そこで男性は「ああ」と言うと黙った。鋭い視線が、私からカーテンの下がった窓のほうへと移る。


「そういったイベントは確かにこの学校で行われています。でも今日はやってないし、ここは見ての通り廃校で、人が住めるようにはなっていない。家出先として、なんでうちが疑われているんです?」


「いや、あの、疑っているわけではなくて」


 確かにそうだ。

 でも別の可能性は他の人でも探れるけれど、このルートで涼子を探せるのは、今のところ私だけだ。可能性が低いからこそ、誰かに相談することはできない。少なくても涼子がここに来ていたという証拠がなければ。


「高校生がこんなところに一人で来るのも危ないですよ。警察に言って探してもらったほうが良い。私はそのイベントに立ち会ってますが、参加者同士の連絡先の交換は基本的に禁止しているので、そこで出会ったメンバーの家にいるというのは可能性低いと思いますけど」


 いえ、私はあなたのところにいる可能性を考えています。


 そう言ってしまおうかと思ったけれど、はぐらかされるかもしれないのでやめた。


 そのとき、遠くから足音が聞こえた。


 男性もハッとして、二人で廊下のほうを見る。

 足音はこちらにやってくると、立ち止まることなく通り過ぎていった。

 来るときに見た二人だ。


 男の子のほうが、軽く会釈をしてくれた。先を歩きていた男性は、こちらを見向きもしなかった。


 男性は誰もいなくなった廊下をそのまま見ているので、私も同じようにしていると、白い手が扉のふちにかかった。


「ねーねー見た? トオルのとこの子。小さかったねー」


 軽薄な声と一緒に、もう一人、また別の男性が顔を覗かせた。



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