表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それは硝子の函の中  作者: 縁
1/5

1.認識の齟齬があるようです

文章書きなれないですが、よかったら読んでやってください。

連載にしたけれどできるだけコンパクトにまとめたいとは思っています(;'∀')


絵画が、ありましたねぇ。


色々な名画を持っていましたが、客間に飾られているのはリアム様の作品ばかりだそうで。いや、素人とは思えない出来で、試しに尋ねたこともありますが譲ってはくれませんでしたよ。(コミュ力高めの貴族の子弟談)


もちろん、すごく仲が良かったので、誕生日には毎年高価な衣装やら装飾やら贈り物を、なんなら自分の家紋付きの物も渡したことがあるようですよ。それがあれば、ローレンス様のご実家と誼のあるところには顔パスでツケで出入りできるとか!もう実質結婚!きゃー!(噂好き腐女子なメイド)




お手製の絵画で客間の壁を埋めることもなければ、贈り物を贈られることもない。ジークが与えられたのは彼のその身体ひとつだった。

これからの国の防衛を率いていくとされる白騎士ローレンス。彼は”案件解決の褒章の長期休暇”という名目で、黒騎士の死を悼みうちひしがれ、屋敷にこもっていた。そこへ"黒騎士の形見"の復元の報告へ何度か訪れたのが王立魔法研究所所属のジークである。ある日の訪問で彼の屋敷へ行った時、後悔と寂しさに身をやつし、ひどく酒に酔った彼に手を伸ばされてからずるずると今の関係に至る。


己に与えられない権利が別の者に与えられていたという事実に、不安になったり腹を立てているかと言われたら答えは否である。元よりそんな関係ではないし、そんなもの彼には生まれてこのかた、手に入ったことはなかった。そして、今後も手に入るとは思ってなかった。

男爵家の次男に生まれたジークは、継母もいなければ、決してシンデレラのような生活をしていたわけではなかった。しかし、期待・尊重は兄に、溺愛・甘やかしは妹に向けられてきた。そして自身もその中で無難な次男であろうとした。

それでもめげずに魔法具研究には一生懸命向かい無事王立の研究所で働いているが、花形の仕事とはいいづらい部署。顔が良ければインテリだが、このように平凡なら魔法ヲタクだ。素敵な女性に一途に愛されたり…なんてこともなかった。だからむしろ、そんな深い愛をこんなにも近くで見れることは貴重だった。死してなお、たった一人を思える愛が存在すること。この世界には美しい愛なるものが存在することを彼は信じられた。硝子の函に入った綺麗な宝石。箱の中の2人にしか触れない尊いもの。それを覗き見れるのだ。

己には決してないもの。だからこそ美しい。ローレンスと共にある時。それは硝子の函が乱反射しないほど近い距離で、中身を鑑賞できるときである。やり場のない想いをぶつけられながら、遠くを、在りし日を見つめている瞳がは本当に綺麗で好きだった。嗚呼、確かにそこに愛は在る。揺さぶられながら、今日も尊い美しいものを確認するのだ。


しかし、強い愛情は裏表で、その想いが彼を蝕みつづけていることも確かだろう。これ以上己の我儘でその針の筵に座り続ける彼をそのままにするのも、哀れに思えてきた。それは己が彼を愛しく思い始めたからなのかもしれない。

長期の休暇―喪に服す期間―を経て、彼は復帰し、軍の小隊長として舞い戻った。未来の騎士団長を担うとされた男が2人して急にいなくなられては軍の方も大層困ったらしい。しかし、彼は今でも、あの人を忘れ得ぬようだった。―邪竜討伐により亡くなった、黒騎士リアムのことを。


今日もローレンスの私邸を訪れる。

夜も更けた。月も頂点を過ぎ沈む方へ向かい始めた。

褥の上、なかなかに激しい時間を過ごし、熱が冷めてきたころ、夜着を身につけながら、最近思っていたことを彼に告げてみる。

「…その、俺がいうのもなんなんですが…貴方もそろそろ次の恋に進んでもいいんじゃないですか?」

ローレンスは綺麗な金色の瞳を見開いた。騎士として強いだけではなく、彼は顔もいい。羨ましい限りだ。

「それは…一体どういうこと?」

「いやぁ、そろそろ3年が経つじゃないですか?その、黒騎士様が亡くなってから。…貴方が黒騎士様を深く、その、深く…あー、あ、あぁあ愛している…のは知っています。」

"愛している"という言葉が自分の口から出るのが照れ臭く、少しどもる。ジークの日常にはない語彙だ。思わず恥ずかしさから顔を片手で覆った。ローレンスから顔はそらしているものの、耳まで真っ赤な気がする。

黒騎士を喪い、白騎士までも喪に服すため軍を一時退いだ。しかし、黒騎士の形見の剣を得て白騎士が再び立ち上がったのはあまりにも有名である。訳知り顔で話したら、なにを今更と笑われるほどの通説だ。詩人がそこかしこで彼らの絆を詠っていることだろう。

「もちろん、忘れろとは言わないですが。そのことだけを思い続けては、貴方はたぶん…ずっと、苦しい…。彼をそろそろ思い出の棚にしまって、…そうだ。女の子にしたらいいじゃないですか。彼とは違う系統の雰囲気の女性に。あなたは顔がいいし、良い人だ。そちらの家のお兄様のツテで社交界にでも顔を出せばきっとすぐにでも。」

黒騎士はどちらかというとワイルドな男だったので、淑やかな女性が、ローレンスの好みは分からないが、その方が思い出の彼と比べたりで双方の衝突も生まれづらいだろう。昔の恋人と比べるのはとても失礼で揉め事のもとだという。(妹の噂話の知識)ドヤ顔で指を立てて語ってみる。

「なに、我が国の色ボケ王子がそうだからと言って、必ずしも、初恋の相手と添い遂げなければいけないわけではないです。2人目、3人目の相手と幸せになるという話もざらにありますよ。(妹の以下略)まぁ喧嘩別れではないので、忘れがたくはあるでしょうけれども。次に進んで、貴方が幸せになる道を考えても、いいんじゃないですか…。」

身の丈に合わないようで、色恋について語るのは気恥ずかしい。なんの恋愛経験もない魔法オタクのくせに何様だと思われないだろうか?顔が真っ赤になっていることだろう。頬が熱い。夜着の前をかき合わせながら一息に喋って、傍にいる彼の顔を見た。そして驚く。

「な、なんですか、幽霊でも見たような顔をして!」

「は…?」

丹精な顔がぽかんと口を半開きにして、なんとも呆けた顔で己を眺めていた。やはり、そう思われたか。

「…呆けた顔をして!おっ…俺が色恋について語るのが、そんなにおかしいんですか?!馬鹿にしているんですか?たしかにっ…俺には色恋の経験はありませんけど…!」

「君に…色恋の…経験がない…?」

(そうだよ、それなのにあなた様のせいで非○女だけど童○だよ!未来は暗い!)

それでも彼がまた愛を見つけられたらいいと老婆心ながら思ったのだ。彼はジークにとってずっと憧れのヒーローだった。いじけていた幼いジークに夢と希望をくれた人。彼がさみしさと後悔で自らを蝕んでいるなら、こんなことでよければ役に立ちたかった。それが、人には言えない爛れた関係のお友達になることだとしても。

バツが悪く目を逸らすと、ローレンスはハッとしたように真剣な顔になり、いきなり両肩を掴んできた。

「っ…だからなんなんですか!王子を揶揄したことを怒っているんですか?こんなところで喋っても誰も聞いてないですよ。」

人払いも済んだローレンスの私邸の寝室である。滅多なことはないだろう。問うと、普段穏やかな彼の顔に焦りが見える。

「どういうつもりか聞きたいのはこっちだよ。さっきまで君と私が何をしていたか…覚えてる?」

「なっ!白騎士様ともあろうお方がそんな事を言わせたいんですかっ?!下品ですよ!こっちは真剣に心配してるっていうのに。」

やはり馬鹿にされているのだろうか?険しい顔で此方を凝視されて、たまらず睨み返すと、首が傾けられ口付けられる。思わず流されそうになり慌てて腕で距離をとる。

「ま、まままだ、足りなかったんですか?!さすがに今日はもう無理ですよ!死んじゃう。というか真剣な話の最中ですよ?」

少し苛立ち、唇を手の甲で拭いながら問いかける。ていうかまだ足りないのか。恐ろしい体力である。さすが白騎士。

「こっちも真剣に話をしているんだけどね。激しくしすぎて記憶がとんだわけじゃないね。」

やはり馬鹿にされているのでは?と眉根を寄せる。


「…」


しばし無言で睨み合う。

しかしその姿は、半裸の男と夜着の男がベッドでという間抜けな構図。俯瞰で想像したら、だんだん馬鹿馬鹿しくなり笑ってしまった。

「はっ…ははは。」

ジークが笑い出したのを見て、相手も手の力と表情を緩めた。そして、ほっとしたように口を開いた。

「…はぁ。冗談にしても、あまり趣味が良くない。恋人にそんなこと言われたら、誰でも動揺する。」


「???恋人を作る気になりました?」


再び相手の顔がこわばった。見たことのない表情だなぁと思う。それでも顔がいい。

そしてさらに、2人は沈黙して見つめあった。

「なっ…なんですか?」

あんまり綺麗な顔で見られるとこちらも動悸がするのだが。

「訊くが…君は私のなんなんだ?」

「っ!」

そう言われるとさすがに胸が痛む。

「…お節介が過ぎましたか?」

こうして共寝をする仲だ。実家にも階級差があり、軍の未来を嘱望される白騎士とただの一研究員ではある。しかし、少しは近い距離にいるから、こう言った話も許されるのではと思っていたが。彼を心配することも己には許されなかったのだろうか。

「すみません…さしでがましかしかっ」


「そうじゃないだろ!君は私の恋人じゃないのか?!」


そして今度はジークが呆ける番だった。

「…はぁ?」

(恋人、誰が…誰の…誰で…誰と…?)


「え、え、えぇ、ええええええっ!!!」


その日夜半過ぎに、ローレンスの屋敷から、ジークは人目も憚らず駆け足で逃げ帰った。

つたない文章、最後まで読んでくれた方、本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ