逃がすものか――
捨て台詞を吐いて全力疾走で宇宙人が逃げ出したのだが……。
「取り押さえるのだ、デュラハンよ」
「御意」
御意の言葉と同時に私の銀色のガントレットは宇宙人の腕をしっかり掴まえていた。自慢ではないが手は早い方なのだ。音速をも超える自信がある。秒速約340m……。
さらに宇宙人はどんくさい。
ひょっとすると走っても幼稚園児くらいの早さかもしれない……。
「ハナセ!」
「貴様! やっぱり喋れるのではないか!」
では私と魔王様の会話をすべて理解していたことになる。
「嘘つきは許せません。紳士として許す訳には参りません」
たとえ宇宙人だとしても嘘つきは泥棒の始まりです。……捨て台詞くらい、もう少し我慢できなかったのかと叱責したい。せめて聞こえないところまで離れてから言えと……。
「ハナセ! コンニャロ!」
コンニャロって、「この野郎」のことか――。
「なんだと、グヌヌヌヌ。下手に出ればつけあがりおって!」
右手で白金の剣を抜く。左手は宇宙人の手をギューッと掴まえたままだ。
声が……せめて若い女性のアニ声だったなら、もう少し掴む力を弱くしてやったものを……。
「デュラハンの鬼」
「有難う御座います」
褒められたと思っておこう。
「……コンナコトヲシテ、ブジニスムトオモウナヨ」
「カタカナ語はやめい!」
魔王様が宇宙人の頭をポカリと叩く。頭が取れないかヒヤッとしてしまう。銀色の中身はなにで出来ているのか不明だ。握る腕に骨のような感触は感じ取れない。本当にサツマイモなのかもしれない。
「イタイ! ボウ……暴力反対!」
「喋れるのなら話が早いです。魔王様、自白させましょう。禁呪文で」
「――!」
「その手があったか。さすがデュラハン。考えがエグイ」
「お褒め頂き有難うございます」
でも、考えがエグイっておやめください。褒め過ぎで有頂天になります。
「耳を塞いでおくがよい」
「御意」
首から上は無いのだが。さらには、耳を塞いでいるだけで禁呪文に掛からないのだろうか。
「禁呪文、『脳みそ垂れ流し!』」
「ヤ、ヤメーロ、ヤメーテー!」
宇宙人の頭がガクッと垂れ下がった。ヨダレが出ていて汚い。いや、宇宙人のだから綺麗なのかもしれない。
数分後、宇宙人はおとなしく地面に三角座りをしていた。
「宇宙船の場所はどこだ」
「それなら裏山です。たくさんの葉っぱで隠してあります。竹の葉っぱは小さいので……隠すのに苦労しましたよ」
流暢な喋りに……少しイラっとする。ちょっとだけ。
「どこから来たのだ」
「宇宙から。とかは駄目ぞよ」
「うう……うう」
苦しそうだ。言いたくないのだろう。
「言ってしまえ。我慢はためにならんぞ。言えばスーッと気持ち良くなるぞ」
そういって宇宙人の背中をさすってやる。
「デュラハン、怖いぞ」
「おやめください。私は宇宙人の味方です」
さっきまでは。
「うう……。x:25。y:30。z:26。……しまった! 言ってしまった!」
今頃口を抑えても、もう遅い。それに、口って……そこなん?
「フッフッフ、それさえ聞きだせれば貴様に用はない」
「……」
いったいどこのことなのかサッパリ分からないが、ここは強気に出なくてはならない。宇宙人に舐められてはならないのだ。
「い、い、命だけはお助けを! 我々は滅びゆく定めの星の民なのです。資源調査のためにたまたまこの星に着陸したに過ぎません」
たまたまだと……不埒な。
「……本当でしょうか」
魔王様の表情を伺う。
「脳みそ垂れ流しているから、たぶん本当ぞよ。だが、いつ資源欲しさに宇宙船が攻め込んで来るか分からぬ」
……それな。
ずっと言葉が分からずに喋れないフリをして嘘をついていた宇宙人なんて、これっぽっちも信頼できない。人でさえ魔族でさえ一度でも嘘をつけば大きく信頼を失い、その信頼を回復するのに長い年月が必要になる。
信頼関係は簡単には修復されない。
――だから簡単に嘘をついてはならないのだ――。見ず知らずの宇宙人とて。
「二度と来ません。信じて下さいよ」
「なぜそう言い切れるのだ」
そんなに痛いことはした覚えはない。地獄の業火で表面を軽く炙っただけだし、腕だって千切れるくらい強く掴んではいない。たぶん。
「……この星には我々が必要としている半永久エネルギー鉱物、『ンホロエタレラテスニキワロウド』が調査しても見つかりませんでした。残念だ」
「「……」」
聞いた事がない鉱物だ。地中深くに眠っているのだろうか。昔はたくさんあったのだろうか。冷や汗が出る。
「鉱物なのか好物なのか」
魔王様がお首をお傾げになる。
「おっしゃる意味が分かりません」
この星には無かったと言っているではありませんか。
「では、もう二度とこの星には来ないと言うのだな」
「はい。燃料代も馬鹿になりませんので」
燃料代を渋る宇宙人って……なんか夢がないぞ。言わないけれど。
「神に誓うか」
「はい。神に誓います。もう来ません。来たくもありません」
「貴様、本当に宇宙人か」
来たくもありませんって、普通に失礼だぞ。
「はい。宇宙人です。宇宙人、ウソツカナイ」
「嘘コケ!」
「喋れないフリをして嘘をついていたではないか!」
魔王様と私を欺くとはいい度胸だぞ。
「ごめんなさい。……テヘペロ」
「……」
「テヘペロって……やめとき」
凄くコミュ力の高い宇宙人だ。ため息が出る……ぜんぜん信用できない。
魔王様が大きく息を吐き出した。
「まあよいではないか。このへんで許してやろう、デュラハンよ」
「と、おっしゃいますと」
いいの? こんな宇宙人を魔王様は信用するってことなの。
「本当に大丈夫でしょうか」
仕返しに来ない保証がありません。
「うん。もしこの宇宙人が嘘をついて再びこの星に訪れようものなら、先ほどの座標、x:25、y:30、z:26に禁呪文、『落ちろ隕石☆ゴートゥー涅槃!』を唱え、こやつの星を超巨大隕石で木端微塵に消滅させるだけぞよ」
「「――!」」
星を消滅させてやるだけぞよって……滅茶苦茶酷いぞ――! やっていること、真逆ですぞ!
「……まさに魔王様でございます」
あまりにも御無体。開いた口が塞がりません。首から上は無いのだが。
「それだけは、ホンマに勘弁してください。マジで!」
可哀想に銀色の宇宙人の顔が真っ青だ。かなりビビっている。
マジックで落書きされた目が……「へ」の字なので表情からぜんぜん伝わらないが……。
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