お別れ
「しかし、いつまでも玉座の間に置いておく訳にもいきません」
最初は楽しかったが……だんだん宇宙人にも飽きてきた。金魚すくいの金魚やヒヨコ釣りのヒヨコ、亀釣りの亀だ。――お土産にもらった「まりも」とは口が裂けても言わない。言えない。せめて食べられるお土産の方がよかったとは言えない。言わない。
「ペットにしては可愛げがないし、何を食べるのか分からないし、……水代もかかる」
檻の中にとりあえず魔王様が食べ残したポテチの粉と紙の皿に水を入れて与えたのだが……ぜんぜん食べも飲みもしない。
どうやらプライドが邪魔をして食べないようだ。腕を組んだまま不機嫌な面をして立ち尽くしている。微妙にこの宇宙人は……可愛くない。
マジックで書いた「へのへのもへじ」のせいなのかもしれない。もう笑えない。笑い過ぎたから。
有機溶剤でマジックを拭いてもう一度違う顔を書いたら楽しいのかもしれないが……。
「逃がしてやりましょう」
ずっと玉座の間に置いておくは嫌です。銀色が目に煩わしい。やっぱり宇宙人だ。見ていてもぜんぜん目に馴染まない。
「だが、このまま逃がすのは危険ぞよ。どこでどんな悪さをするか分からぬ」
「たしかに」
逆恨みで人間共にちょっかいを出すかもしれない。人間は宇宙とか宇宙人とかが好きそうだからなあ……。
「体にGPS発信機を埋め込んでおくぞよ」
「おやめください」
GPS発信機って何ですか。冷や汗が出ます。そんな禁呪文はやめましょう。
「最近のペットはマイクロチップが首のところに埋められているぞよ。GPSくらい平気ぞよ」
「おやめください!」
私には首から上が無いのですが、思わず首の周辺を触って確かめてしまった。知らない間に魔王様に得体の知れない物を埋め込められていそうで怖い。
五分にも及ぶ討論の末、魔王城から外へと逃がすことにした。
黒いゴミ袋を頭からスッポリかぶせて魔王城内に徘徊しているスライム達にバレないようにお姫様抱っこで運ぶ。これなら誰がどう見ても燃えないゴミを魔王城の外にあるゴミ置き場に持っていくようにしか見えない。完璧な作戦だ。
「デュラハン、燃えないゴミは火曜日だぞ」
「そうそう、違う日に出しちゃダメだぞ」
ちっ。
こんな日に限ってスライム共が口を挟んでくるのが煩わしい。四天王をちっとも偉いと思っていないのがさらに腹立たしい。
「これはね……燃えないゴミじゃないからいいんだよ」
笑顔でスライム達に説明する。首から上は無いのだが。
「そうぞよ。燃やしたら燃えるけれど、燃やしちゃいけない……ゴミぞよ」
「ゴミぞよ」の声にビクッと反応するな! 動いたらバレるやろが!
「さらには、ぜんぜん萌えないぞよ」
「――たしかに!」
ウケル~!
「……?」
スライムのキョトンとした目が可愛らしい。宇宙人の目と大違いだ。
魔王城の玄関で外履きに履き替えると、魔王城から出て裏山の登り口までやってきた。
周りを確認して黒いゴミ袋から宇宙人出す。ゴミ袋は……また使えそうだから折り畳んでポケットに仕舞っておこう。
「さあ、どこへでも行け」
これに懲りたら魔王城周辺をうろつかないことだ。
「お礼などいらぬからもう二度と来るな。面白くもない」
魔王様は最後まで宇宙人にはお厳しい。お礼って……。
「宇宙人で楽しもうとしないでください」
さんざん笑ったのは内緒だ。
山道に数歩入ったところで宇宙人が振り返った。
「オボエテイロヨ」
――!
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