恐ろしいベタ宇宙人
玉座の間に小さな檻を組み立てて置き、その中に閉じ込めた宇宙人。
パッと見た感じは……魔族のモンスターにいても許される範囲のキャラだ。足は2本で手も2本。大きな青色の目と銀色の全身タイツ……。
ベタと言えば……ベタな宇宙人だ。どこにでもいそうで、どこにもいない奴だ。
「許容範囲でございます」
こんなモンスターがいても不思議では御座いません。
「ぜんぜん範囲内ではない! どこを見ておる!」
「どこって……外見」
さすがに中身はよく分からない。銀色の中身は虹色の油ゼリー状なのかもしれない。かやくご飯なのかもしれない。
「こやつら宇宙人の体にはこの星に存在しない未知なる微生物やウイルスがタップリ付着しておる。言わば外来種ぞよ! 全魔族や全人類が瞬時に滅びるかもしれない危機ぞよ!」
そんな恐ろしいものにはちっとも見えない。体格も見るからに弱そうだ。
「ウイルスでございますか……」
全身銀色だから……銀イオンとかで抗菌されてそうな気がするが……。
「銀イオンを過大評価するでない。予が自ら殺菌してくれる。地獄の業火!」
「ギャー!」
「――!」
魔王様の両手から数千度の炎がほとばしり銀色の宇宙人が悲鳴を上げる。
「喋れないくせに叫び声は出せるのか~」
「――おやめください!」
なんてことするのっ! 慌てて檻の外からフーフーして宇宙人の炎を消した。冷や汗が出る。首から上は無いのだった。
魔王城内で火気の使用は……勘弁してほしいぞ。火事になったら洒落にならない。
「――デュラハンよ、卿はなぜ宇宙人の味方をするのだ」
「別に味方をしている訳ではないのですが……」
なんか……マズいだろう。本当に宇宙人なら。
「また一人だけ格好つけて、予のファンを奪うつもりか」
「めめっめ、めめっめ、めめめめ滅相もございません! ファンの数は比べようにございません」
私のファンの方が圧倒的に多いから論外です――。とは言わない。フッ。
「フッって、やめい! 古くてダサダサぞよ。卿は四天王の一人であろう。予への忠誠心を忘れたか!」
「申し訳ございません。私は魔王様の忠実なる僕でございます。ですが、私は宇宙人の味方をしているのではございません。私のお話を聞いていただきたく存じます」
「……うむ、聞こう。話してみるがよい」
魔王様はローブを翻して玉座へと座られた。いつものように私は魔王様の前に跪く。
「私めは、この宇宙人が可哀想とか怖いとかではなく……未知なる宇宙人の仕返しが怖いのです」
「仕返しだと?」
切れ長の美しい目を細められる。
「ほら、よくある話ではありませんか」
宇宙人を虐めたら大きなマザーシップがやってきて地球を滅ぼそうとするとか……。月の裏側に大きな大きな宇宙船が隠れていたとか……。彗星の中に隠れていたりとか……。スマホ型の宇宙人に全人類が今や釘付けとか……。宝箱を開けたらお爺ちゃんになってしまったとか……。
「SFのお約束でございます」
鉄板です。アイアンプレートです。板金とはちょっと違います。
「ここは剣と魔法の世界であり、SとFの世界でない。Sも無ければFも無いのだ。無限の魔力を持つ予にとって恐れるに足らぬ」
「御意」
――でも恐れて。宇宙人をむやみやたらに虐めないで。Sは無いけどFはありますから……。
「だいたい、目つきが気に入らぬぞよ」
「……」
全身銀色タイツに大きな青い目。典型的な宇宙人の姿にがっかりする。……個性のなさに……冷や汗が出る。目つきが悪いとまでは思わないが……たしかに無表情だ。口もない。でも、顔が無い私にとっては羨ましい。
大きなお目めが羨ましい~。
「マジックで目の玉を書いてやるぞよ」
「――!」
「おやめください!」
今日の魔王様、いくぶん暴走気味だ。……なにか嫌なことでもあったのだろうか。
「チョコボ○ルがハズレだった……」
「――!」
たったそれだけの理由?
「――いや、あれはほとんどハズレでございます!」
思わず立ち上がりツッコミを入れてしまった。
「今までの人生において銀色のエンジェルを2回しか見たことがないですっ!」
冷や汗が出る。もっと食べなくては当たらないのかと……。玩具の缶詰が……欲しい。ガクッ。
キューッ、キュッキュウッ。
「……」
……宇宙人の大きな青い瞳に無造作に黒マジックで「ヘ」の字を書き込まれて……ちょっと愛嬌のある顔になった。魔王様もニンマリご機嫌な様子でなによりなのだが……。
「……」
絶対に怒っているぞ。怒りをヒシヒシと感じるぞ。
キューッ、キュッキュウッ。
「……ック」
「へのへのもへじ」と顔に書かれた宇宙人に……思わず吹き出し大爆笑してしまった。
「プップッププ!」
「アーッハッハッハ! ヒーヒー!」
二人の笑い声が……玉座の間に響き渡った。魔王城は今日も平和だ……。
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