魔王様、宇宙人を虐めてはいけません
「なぜだ!」
広い玉座の間に魔王様の声が響き渡る。いつものようにとは言わない。毎日のような気もする。
「もはや日課にございます」
「日課ではない! 予は魔王ぞよ。恐怖の大王ぞよ。予がその気になれば無限の魔力で……ドえらいことになるのだぞよ」
その気にならないで~! いったいどの気だというのだ、まったく。
「その気なんの気、気になる気でございます」
冷や汗が出る。古過ぎて……。
無限の魔力を持つ我ら魔族の王、俗に言う魔王様は、魔王様らしからぬ優しい心の持ち主で皆がドン引きするくらいなのだ。
「ドン引きするでない! さらには俗に言う魔王様って酷いぞよ~」
「申し訳ございません。度が過ぎました」
不機嫌な表情を見せる魔王様の横顔がまたお美しい。お悩めかしい。
「ですが、普段はそれほどにまで穏便な魔王様らしからぬ行為でございます」
――宇宙人を虐めてはいけません。イジメ、ダメダメ、ゼッタイでございます。
「我ら魔族の敵である人間共にさえお優しい魔王様が、何故ゆえに宇宙人を虐めるのでございますか!」
天敵である勇者にさえ塩を送るような魔王様なのに。
女勇者に夕食をご馳走するような魔王様なのに。
「予は宇宙人を虐めるのではない! 駆除するのだ――」
もっと怖いぞ!
駆除って……鳥肌が立つ。私は全身金属製鎧のモンスターなのだが。
「よく考えるのだデュラハンよ。ここは剣と魔法の世界ぞよ」
「御意」
でも、あんましそれ言わないで。剣と魔法の世界ってやつ。
「冷や汗が出ます。ですが、だからこそ宇宙人がいてもよいのかと……」。
「剣と魔法の世界に――宇宙人は不要ぞよ」
断言された。不要ぞよは酷い気がする。
……今朝、魔王城の裏山でタケノコ掘りをしているときに……偶然捕まえたのだ。どんくさい宇宙人を。
タケノコを掘る私と魔王様のすぐ近くで同じように地を掘る一匹の宇宙人……最初はてっきり新種の魔族だと思っていたのだが……。
「おはよう、朝からご苦労ぞよ」
「――!」
魔王様の挨拶を聞くや否や急に逃げ出したのだ。
「貴様、魔族としてありえない無礼!」
魔王様のお顔を見忘れたのか。それとも、タケノコ泥棒か! タケノコマンか?
「予の顔を見忘れたか! ……いや、ひょっとすると……魔族ではないぞよ!」
「え、魔族ではない? さては新種の人間ですか」
ひょっとすると……子供? にしては体の形がちょっと違う。妙に細いし頭はデカい。
「アンバランスでございますなあ」
タケノコ掘りを続けようとしたのだが……。
「いやいや、追い掛けて捕まえるのだデュラハンよ! あやつは宇宙人だ」
「宇宙……人?」
えー。それを捕まえるの? いやだなあ……。
「でも……掘っているタケノコはどうするのでございますか」
タケノコ掘りを続けようとする。早く見えなくなるまで逃げて欲しい。
「タケノコは逃げぬ!」
たしかにその通りなのだが……。
「猿に横取りされます。猿もタケノコが大好きなのです」
先っちょの柔らかいところだけを食べてしまいます。猿たちはグルメです。
「猿はこんなに大きく育ったミサイルのようなタケノコなど食わぬわ。それよりも追え、追うのだ! ハリーアップ!」
ハリーアップって、カタカナ英語やめて。
「……御意」
結局いつもこうなるのだ。損な役回りばかりだ。しかし、魔王様のご命令は絶対――。絶対の命令≒パワハラ!
逃げる未確認動物を後ろから追い掛け、――両足にがっつりタックルして捕まえた。
ズザザザザ――! 竹の葉っぱはよく滑る。
「貴様、魔王様のお声掛けに対してなぜ逃げたのだ」
魔族であれば謝罪するはず。魔族語を喋れるはず。
「……」
「黙秘権発動か」
最初は暴れて抵抗しようとしたが、握っている腕をギュッ~と強く握ると……おとなしくなった。ちょっと痛かったならゴメン。
全身銀色のモンスターなど……たしかに初めて見る。私も全身銀色と言えば……銀色なのだが、こんなアルミホイルを巻いたような銀色ミイラとは違う。――材質がぜんぜん違う!
「ひょっとしてお前は……バーべーキューで最初にコンロに入れておいて食べるのを忘れられた……サツマイモのホイル焼きの出来損ないか――!」
「……」
なぜ黙っているのだ――言っている方が恥ずかしいではないか――!
「そんな訳なかろう。アホかデュラハン」
「申し訳ございません」
アホは酷いぞ。ちゃんとノリツッコミしてほしかったぞ。シクシク。
何も喋らないから絶対に不審者だと決めつけ、魔王城玉座の間へと連れて帰ったのだ。早朝だから誰にも会わなかったのが幸いだ。スライムとかに見つかるとややこしい。
あいつらは歩く拡声器だから。
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