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ここは終末世界、私は女子攻生と旅をする。  作者: 播磨播州
300年前の私の物語編
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5話 人ではない者たちと唐突な死

 初老の男性は山崎と名乗った。

 RLLの職員とのことだが、どういう部署かも、どうしてこの国で拳銃を持っているのかも、それが本物かどうかも教えてくれなかった。


 裏口から研究所に入ると、所内の電灯もその殆どが消えていた。避難用の非常灯の灯りだけで建物内の構造が浮かび上がり、一層不安感は増した。

 山崎は銃を構えたまま、裏口から続く横幅の広い一本道の廊下をゆっくりと歩く。私も離れないようにその背中を目印としてついていきながら、私は小声で聞いた。


「あの、何が起きてるんですか」


 しかし山崎は答えない。聞こえていないわけではなく、言えないから黙っているという雰囲気だ。

 最近の私と関わろうとしなくなった父。その父から突然連絡が来たと思えば、このような何も知らされないまま何かに巻き込まれていくような状況。


 だんだんと私は腹の底から怒りが生まれてきた。


 何か馬鹿にでもされているんだろうか。ドッキリにでも引っ掛けたいのか。時刻はとうに私の誕生日を過ぎ去っていた。それがまた惨めさを増長させた。


 守衛室、リネン室、廃棄物一時保管室といった部屋の札が駆けられた入り口を横目にしながらまっすぐ進むと、廊下の突き当りにエレベーターがあった。一般的なエレベーターよりも少し大きい。搬入用のエレベーターだろうか。右を見ると、ドアの無い小部屋があり、中には自動販売機が二機と、ゴミ箱が設置されていた。


 山崎がエレベーターを呼ぶボタンを押そうと指を伸ばした時、エレベーターの起動音が鳴り、階数表示のパネルが点灯した。


「ルィ様、こちらに」


 山崎はそう言って、私を連れて右側の自動販売機のある部屋に向かった。山崎の声は、どうしてか緊張感を帯びていて、部屋に入るとゴミ箱の影に隠れてエレベーターから体が見えないようにした。


「どうしたんですか」


 山崎は口元に指を一本あてて、私を見た。


「声を出さないように」


 山崎の迫力に押されて、私は素直に従ってコクリと頷く。

 パネルの階数表示は地下10階から上昇してくる。そして、私達のいる一階で表示は停止して、ゆっくりと扉が開いた。



 中からは白衣を着た男性が2人と、女性が1人降りてきた。白衣の下はみんな色はまちまちだが清潔そうなシャツを着ていて、首からはネームカードを下げていた。年齢はみな20代ほど。ここの研究員だろう。

 山崎は変わらずに息を潜めている。どうしてあの人達から隠れる必要があるのだろうかと私は不思議でしょうがなかった。


 やっぱりこれは父の趣味の悪いドッキリなんじゃないか? 長年会話のなかった娘とのコミュニケーションを図るために考えた、くだらない遊び。男親というのはどこまでも娘の理解をすること出来ないとはよく言ったもので、私の父も例に漏れずにこのような行為に走ったのではないだろうか。


 そう考えると隣にいる山崎は上司である父の命令に逆らえずに、こんなくだらない役回りを与えられたわけだ。同情に値する。しかたない、この人のためにももう少しだけ騙された振りをしてあげるか。


 そう思った私は、精一杯健気にも騙された少女を演じようとした。


「山崎さん、これって一体?」


 そう私が声を出した瞬間、エレベーターから降り立った研究員三人の顔が一斉にこちらを向いた。一斉というのは、寸分違わず同じタイミングでということだ。

 隣の山崎が急に立ち上がったと思うと、銃を構えて続けざまに発砲した。乾いた音が廊下に響き、何発かの銃弾は壁に当たって跳ね返ったのか耳障りな音を発した。


 私は驚きと恐怖で目と耳を塞いだ。

 発砲音が消えると、ゆっくりと目を開けた。火薬の強い匂いが鼻を刺激する。


「……本物?」


 偽物にしては精巧すぎるのではないか。だって、本当に弾丸が発射されているわけだから。いや、それってつまり本物……と、私の思考はパニックでぐるぐるしていた。


 山崎は銃を構えたままじっと立ち尽くし、視線を動かさないでいる。私はゆっくりとゴミ箱の影から顔を覗かせて研究員達に視線を向けた。

 3人の研究員たちは全員床に倒れ、その頭部からは鮮血が流れ出して床を染めていた。

 震える声で私は言った。


「こ、殺した?」

「いえ、これくらいでは死にません」

「は?」


 山崎の言った通り、倒れていた研究員は3人とも体を震わせたと思うと、ゆっくりと起き上がった。3人の顔には、山崎が打ち込んだ弾丸が空けた穴が空いており、女性研究員に至っては、目玉に直撃したのか眼球が破裂してポッカリと眼窩に穴が空いていた。


 私は悲鳴を上げる。

 山崎はそんな私にお構いなしにさらに銃弾を撃ち続け、弾が無くなると胸元からマガジンを取り出して装填し、さらに撃ち続けた。山崎が捨てたマガジンが私の足元に落ちた。

 研究員たちの体には何発も着弾し、その衝撃でジリジリと奥の壁に押されていった。3人が銃撃によるエネルギーで壁に押し付けられた時には、全員真っ白だった白衣が血でどす黒く変色していた。


「こっちへ!」


 山崎は私の手を取って無理やり引き連れ、血だらけの床を踏みつけながらエレベーターに向かった。

 山崎が呼び出しボタンを押すと、扉がすぐに開いて、私達は乗り込んだ。山崎が階数ボタンを押そうとした時、ついに私は限界が来て彼の手を振り払った。


 パニック状態のようになった私は、体が震え、恐怖の色が濃い目で山崎を見ていた。


「なんなんですか……一体私をどうするんですか」

「あなたを守るためです。ルィ様」

「守るって……何から⁉」


 山崎が階数ボタンを押す。地下13階のボタンが光った。


「やつらです」

「やつら?」


 扉を閉めるアナウンス音が鳴り、駆動音が鳴り始めた。


「ええ。やつら……インル」


 山崎がそこまで口にすると、その口から白い鋭利な物体が飛び出してきた。ぐるりと山崎の眼球が上を向き、口からは涎と血液が混じった液体が垂れる。

 山崎の顔は下顎と上顎で綺麗に分断され、口から飛び出した物体の上に顔の上部分が乗っかった状態になった。

 山崎の顔の上部分はその鋭利な物体に乗ったままエレベーター内から出て行き、残された下顎から下の体は人形を落としたように倒れた。

 私は驚きで声がでないまま、その顔の上部分を目で追う。そこには先程の三人の研究員が、血だらけのまま無表情で立っており、三人ともが両腕が奇怪な見た目に変異していた。


 女性研究員の両腕は二の腕から先が何本もの長い爪のようになっていて、床まで伸びていた。


 男性研究員の一人は、両腕が腰回りくらい太くなって先端が丸く隆起していた。


 そして残りの男性研究員の両腕は、骨を削って作った分厚いナイフのようになっていて、それが山崎の顔を引き裂き分断していた。


 腕がナイフのようになった男性研究員が腕を振って山崎の顔上部分を捨てると、私に視線を移し、今度は私を突き刺そうと腕を引いた。

 男性研究員の腕が私の顔めがけて振られると同時にエレベーターのドアが閉まり、向こう側で大きな音が響いた。


 エレベーターは地下13階へ向けてゆっくりと動き出した。

 私の脳内にはエレベーターの駆動音だけが響いていたが、徐々に自分の心音がうるさい程聞こえてきた。心音は張り裂けそうなほど早く鳴っている。


 床には山崎の死体が転がっていた。顔の半分を失い、そこからバケツの中の水をこぼしたように血液が流れている。

 そこでようやく私は今の状況が脳に届き、悲鳴を上げた。できるだけ山崎の死体から離れようとしたが、狭い空間でどこへどう逃げようとしても無駄だった。


 涙が溢れ出す。呼吸が苦しくなって大きく息を吸うと、エレベーター内に充満していた血の匂いが大量に鼻に流れ込んできた。

 今にも吐き出しそうになって嗚咽する。


「なに……何が起きてるの……一体」


 エレベーターの動きが停まり、階数表示パネルの13階部分が光った。

 私を誘うように、扉はゆっくりと開いた。


プロット上だと今回の5話ではとっくに回想編は終わっていたんですが、なかなかそう上手くいかないものですね。

書けば書くほどいろいろ書きたくなります。


読んでいただいた方、ありがとうございます!

是非ブックマークしていただけますと、大変うれしいです!

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