43話 旅は続く
その後、私とキューはすぐにオーの元に駆け寄った。
キューが抱き起こすと、オーはゆっくりと目を開けた。
「おめでとう……キュー」
「オーのおかげです」
「違う……私は、君の背中を少し押しただけだ……起動させたのは、君の心なのだから」
そう言うと、オーは激しく咳き込んだ。口元を血が流れる。
「守護神様!」
振り向くと、ミミとリウが駆けてきていた。ふたりとも怪我で腕が真っ赤に染まっている。
「ミミ、リウ! 大丈夫なの?」
「私達は大丈夫です。ルィさんも無事で良かった……けど」
ミミとリウはオーを見つめる。
「オーは……」
「いいんだ。このまま……私は死なせてほしい」
「守護神様! そんなこと……」
リウが叫ぶ。その声は、涙声だった。
「オー……本当にいいんですか。オーは、この村を守ってきたんでしょう? この村のために、ずっと」
「それが、私の願いだから。存在理由を無くした私に……これ以上、生きる時間は苦痛でしかない。それに村の子たちは強い。今回のような苦難を何度も乗り越えてきた」
「オー。村を守ることだけが、あなたが必要な理由じゃないでしょう?」
「それは……」
オーの言葉を遮るように、ミミがオーに抱きついた。
「守護神様、死なないで!」
「すぐヒラマのオッサン連れてくるから! 待ってて!」
そう言って、リウは医者のヒラマを呼ぶべく駆け出した。ついにミミはオーの胸の中で泣きはじめた。
「死んじゃやだ……死んじゃやだよう……」
オーは少し驚いたような顔でミミを見ている。
「みんなからすれば、オーは守護神であると同時に、家族のようなものなのでしょう? 家族がいなくなれば、誰だって悲しみます」
「家族……」
「羨ましいよ」
私はつい、口にした。キューとオーが私を見つめる。
「私はもう家族なんていないし、キューだってそうでしょ。オーは、300年間っていう時間、残された人の為に生きた。だから、家族が出来たんだよ。たくさんの」
オーはじっと私を見つめたままだ。あれ、何かおかしなこと言ったかな。
と、不安に思っていると、オーの口元が少し緩んだ。
「家族か」
ついにオーは小さく笑った。
「オー、約束します。この旅が終わったら、必ず私はここに戻ってきて、あなたを殺します」
「ころ……えっ!?」
突然のキューの危険な言動に私は度肝を抜かれた。ミミもピタリと泣き止んでキューを見ている。「あっ」と言って、キューから弁明を受けたが、それでも物騒な約束だという印象は変わらなかった。
けど、それが女子攻生という人間に生み出された兵器にしかわからない、背負ったまま下ろすことが出来ない重しなんだと私は思った。
「約束……できるのかい?」
「ええ。約束します」
オーはキューの目をしばし見つめた後、口を開いた。
「しょうがない。もう少し……キューの旅が終わるのを待つくらいは、生きてみよう」
「オー……!」
「守護神様!」
キューとミミの顔に笑顔が戻った。
オーは生きることを決めた。
それは、手放しには喜べないことなのだろうと思う。三百年間死ねず、生きる目的も失ったまま生き続けたオーにしかわからない苦痛。
だから。その時、どう思うかはわからないけど……旅を終わらせて、必ずまたオーに会いに来よう。私はそう、心の中で誓った。
「キュー。だから、君のエネルギーを少し分けてくれ。それで回復する」
「はい! ……えっと、どうやって?」
キューがワタワタと自分の体のいろいろな部分を探るように見る。どこかにエネルギーを分け与える器官でもあるのだろうか。
「あぁ……女子攻生同士はエネルギーのやり取りができるんだけど、その……体液をくれればいい。体液ならなんでも。それを飲めば……」
「……え?」
私も、キューも、ミミも動きが止まる。
「急いでくれ。じゃないと死ぬ」
キューがまた不安そうな表情になって、私を見つめた。
インルーラーとの戦いから1週間が過ぎた。
村の人は半分近くまで減ってしまったし、家や畑なんかも多く壊された。けど、生き残った村の人達は数日ほど喪に服すようにしめやかに過ごした後、これまでと変わらないくらい活気を取り戻して生活を始めた。
これが、この終末世界に生きる人々の強さなのだろう。
キューからエネルギーを分け与えられ(結局あの後、キューは私達をその場から離れさせたのでどうやって、どの体液を与えたのかはわからない)無事に死の淵から回復したオーは、今では歩けるくらいにまで回復した。だが人間の食料から得るエネルギーで、戦闘ができるくらいにまで回復するには数年かかるそうだ。
けど「大丈夫ですよ。私達は、守護神様に鍛えられたんですから。村は私達が守ります」と、自信たっぷりに言うミミとリウを見ていれば、心配はいらなそうだと思った。
私は、まだ治療中だったオーにこっそりと会いにいって、ずっと気にしていることを打ち明けた。
それは、私のせいでこの村にインルーラーがやってきてしまったこと。つまり私のせいで、多くの村の人達の命が落とされたことだ。
オーは少し考えた後にこう言った。
「村の人間は誰もそれでルィを恨んではいないよ。村の者たちはルィを村に入れることを承諾した。その選択肢に後悔はしていないさ。だから、インルーラーがルィを追ってきたんだとしても、そして戦って死んだとしても、村の者たちは後悔なんてしない。昔の人間からすれば不思議だろうけど、これが今を生きる人達の価値観なんだよ」
「リウも同じこと言ってた」
「そうだろう? 私が教えたんだからさ」
そう言うと、オーは私に笑顔を向けた。
「それでも気になるというなら、ルィは後悔の無いように生きることだね。死んでいった人達の分も強く」
後悔の無いように。それは、普段から自分にも言い聞かせていることだ。
今の私にとって、後悔の無い生き方。
それを、しっかりと選ぼう。
更に1週間が過ぎ、私もキューも傷が完全に癒えると、オーの案内で目的の場所へと大型トラックに揺られて到着した。
そこは村のあるドームから北。あと数キロ先では死の豪雨が降り続けるエリアを望む、何も無い砂漠地帯だった。
「ここ?」
トラックから降りると、私はオーに聞いた。
「ああ。ちょっと待ってくれ」
オーはキューに手を借りてトラックから降り立つ。運転していたリウと、道中私との別れを惜しんで涙を流していたミミも降りてきた。
オーは砂の上を確かめるように踏みしめると、ある場所で立ち止まって何度か地面を蹴った。
「キュー、手伝ってくれ」
キューはオーの指示で、砂の中に手を入れて引っ張った。
すると、一メートルほどの丸い蓋のようなものが開いた。覗くと、地下へ降りていくか階段が続いているのが見えた。
「こんな所にこんな場所があるなんて……知ってた、リウ?」
「いや、知るわけないだろ」
ミミとリウも驚いている。
「ここから北で生き残った人々は皆、地下に移住した。どれくらいの広さはわからないけど、今では広大な地下空間があるはずだ」
「そこを通れば、北へ抜けられるんですね」
キューの声には希望が感じられた。当初は絶たれたと思っていた、北……シャングリラへ向かう旅路に、光明が差したからだ。
「恐らくね。ただ、現在は地下がどうなっているかはわからない。もしかしたら行き止まりかも知れないし、地上よりも遥かに危険かもしれない」
「けど、行くしかない」
私は1歩踏み出して、地下へ続く階段を見下ろした。何処までも続く階段は、数段先は闇に包まれている。
私はオーたちに振り返った。
「きっとまた戻ってくるから。それまで元気でね、みんな。ありがとう、オー、ミミ、リウ」
「ルィさぁん……!」
ミミが泣きながら私を抱きしめた。
「ずっと待ってますから。あと、怖くなったらいつでも戻ってきていいんですからね」
「どうせすぐに戻ってくるぜ」
リウが変わらず笑みを浮かべて悪態をついた。けど、その顔に私を馬鹿にする意思は無く、どこか清々しい笑みを浮かべていた。
「ありがとう、ミミ、リウ」
「キュー、君も無事で」
オーがキューに手を差し出した。
「はい。本当に色々ありがとうございました。必ず、任務を終えて戻ってきます」
キューはオーの手を握った。
「本当にいいんですか、ルィ」
オーからもらったライトを点けながら、キューが私を見つめて聞いた。
私は力強く頷いた。
「これが、私の後悔しない道だって思ったから」
「……そうですか」
キューは私に手を差し出した。
私はその手を握り、2人で階段へ向かう。
「これからも私を助けてよね、キュー」
「もちろんです、ルィ」
キューは笑って答えた。
階段を少し進み、振り返る。手を振りながら扉を閉めるオーたちが見え、その姿はすぐに見えなくなった。
前に向き直る。ライトに照らされた階段はどこまでも続いている。
この先に何が待ち受けるかはわからない。
それでも、私とキューは足を踏み出した。
ここは終末世界、私と女子攻生との旅は続く。
これにてひとまず完結です。
この先も書いてみたいとは思っていますが、次はまた別の話を書こうかなと思っています。
ここまでお読みいただいた方、本当にありがとうございました!
是非評価していただけますと幸いです。




