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ここは終末世界、私は女子攻生と旅をする。  作者: 播磨播州
対インルーラー戦篇
41/43

41話 起動

 真っ暗闇。また、闇だ。


 キューはそう思った。三百年間、閉じ込められていたあの、闇だと。

 もはや懐かしさすら感じる。そこに恐怖は無かった。

 闇は溺れてしまえば良いのだから。何も考えることはない。不安に思うこともない。ただ、自分も闇の一部だと思えばいい。


「キュー……」


 はるか遠くからくぐもったルィの声がする。自分を呼ぶ声。自分に助けを求める声。

 キューは答えようとした。だが、口を開こうにも、今は闇の一部だ。

 動けたとして、どうすることもできない。もう、自分にやれることはない。

 さらに深く、キューは闇と同化しようとした。


『キューはどうしたいんだい?』


 脳裏にオーの言葉が蘇る。戦う前の、彼女の言葉。

 あの時、キューは「戦う」と答えた。数ある選択肢の中から、選ぶべきもの……いや、選ばざるを得なかったものを。

 消去法なのだ。キューにとって「戦う」という選択肢は。


 じゃあ、本当はどうしたい?


 誰の声かわからない声が脳裏に生まれる。オーの声か、ルィの声か、はたまた自分の声なのかはわからない。


『本当はどうしたい』


 声が大きくなった。

 逃げたい。心のなかで叫ぶ。弱いのだから。勝てないのだから、と。

 どこまでも逃げて、逃げて、逃げ続けたい。


『本当に?』


 本当……だとも。


「キュー……!」


 再び、ルィの悲痛な声が聞こえた。


『どうしたい?』


 答えはある……けど、


「どうすることもできないんですよ」


 キューは心の中でつぶやいた。

 闇は一層濃く、深くなる。


「……キュー」


 オーの声が聞こえたような気がした。記憶の中でも、心の中にでも無い。

 現実の中で、耳に届いた。


「……キュー」


 自分の名を呼ぶ。こんな弱い、自分の名前を。


「キュー……るんだ」


 この真っ暗闇の中に、どうにか消えないように侵入してきた、憧れの『英雄』の声。


「……起動……するんだ」


 幻聴じゃない。英雄の声は間違いなく聞こえた。


「起……動……?」


 キューは今にも体全体がすり潰されそうな中、残された酸素を絞り出して聞いた。


「そうだ……女子……攻生を」


 女子攻生を起動する? キューはそんなこと、聞いたこともない。


「言ったはずだ……君はまだ……器の力を……」


 オーの言葉は続く。


「存在理由を……見つけるんだ」


 それ以上、オーの声が聞こることは無く、同じくしてキューの体をすり潰そうとする力が増し始めた。

 存在理由。

 自分が、この世界に存在すべき、理由。

 そんなものは無いと思っていた。

 人類を守る兵器として生み出されながら、欠陥品として眠りにつかされていた自分には。

 オーダーを受けたのに、まともに対象者を守れない自分には。


「キュー……助け……て」


 再び、ルィの声が聞こえた。

 聞こえた時、反射のようにキューの心の中に言葉が生まれた。

 それは消去法ではない。

 確かに生まれた言葉。ようやく生まれた言葉。

 欠陥品でも、弱くても、すぐに死んでしまったとしても。

 自分が存在する理由はただ一つ。

 それを与えてくれた、あの子を守ること。



「私は、ルィを、守りたい!」



 そう、ここの中で強く思った時。

 キューの奥底で、「カチッ」と何かがハマった音が聞こえたように感じた。


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