41話 起動
真っ暗闇。また、闇だ。
キューはそう思った。三百年間、閉じ込められていたあの、闇だと。
もはや懐かしさすら感じる。そこに恐怖は無かった。
闇は溺れてしまえば良いのだから。何も考えることはない。不安に思うこともない。ただ、自分も闇の一部だと思えばいい。
「キュー……」
はるか遠くからくぐもったルィの声がする。自分を呼ぶ声。自分に助けを求める声。
キューは答えようとした。だが、口を開こうにも、今は闇の一部だ。
動けたとして、どうすることもできない。もう、自分にやれることはない。
さらに深く、キューは闇と同化しようとした。
『キューはどうしたいんだい?』
脳裏にオーの言葉が蘇る。戦う前の、彼女の言葉。
あの時、キューは「戦う」と答えた。数ある選択肢の中から、選ぶべきもの……いや、選ばざるを得なかったものを。
消去法なのだ。キューにとって「戦う」という選択肢は。
じゃあ、本当はどうしたい?
誰の声かわからない声が脳裏に生まれる。オーの声か、ルィの声か、はたまた自分の声なのかはわからない。
『本当はどうしたい』
声が大きくなった。
逃げたい。心のなかで叫ぶ。弱いのだから。勝てないのだから、と。
どこまでも逃げて、逃げて、逃げ続けたい。
『本当に?』
本当……だとも。
「キュー……!」
再び、ルィの悲痛な声が聞こえた。
『どうしたい?』
答えはある……けど、
「どうすることもできないんですよ」
キューは心の中でつぶやいた。
闇は一層濃く、深くなる。
「……キュー」
オーの声が聞こえたような気がした。記憶の中でも、心の中にでも無い。
現実の中で、耳に届いた。
「……キュー」
自分の名を呼ぶ。こんな弱い、自分の名前を。
「キュー……るんだ」
この真っ暗闇の中に、どうにか消えないように侵入してきた、憧れの『英雄』の声。
「……起動……するんだ」
幻聴じゃない。英雄の声は間違いなく聞こえた。
「起……動……?」
キューは今にも体全体がすり潰されそうな中、残された酸素を絞り出して聞いた。
「そうだ……女子……攻生を」
女子攻生を起動する? キューはそんなこと、聞いたこともない。
「言ったはずだ……君はまだ……器の力を……」
オーの言葉は続く。
「存在理由を……見つけるんだ」
それ以上、オーの声が聞こることは無く、同じくしてキューの体をすり潰そうとする力が増し始めた。
存在理由。
自分が、この世界に存在すべき、理由。
そんなものは無いと思っていた。
人類を守る兵器として生み出されながら、欠陥品として眠りにつかされていた自分には。
オーダーを受けたのに、まともに対象者を守れない自分には。
「キュー……助け……て」
再び、ルィの声が聞こえた。
聞こえた時、反射のようにキューの心の中に言葉が生まれた。
それは消去法ではない。
確かに生まれた言葉。ようやく生まれた言葉。
欠陥品でも、弱くても、すぐに死んでしまったとしても。
自分が存在する理由はただ一つ。
それを与えてくれた、あの子を守ること。
「私は、ルィを、守りたい!」
そう、ここの中で強く思った時。
キューの奥底で、「カチッ」と何かがハマった音が聞こえたように感じた。
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