39話 決死
「この体の女子攻生もそうだったよ。仲間を楯にしたら、すんなりと寄生することができた。お前達は人間に作られた兵器だろう? なのに、どうしてか人間と同じような精神……人格を入れられている。それがお前たちの急所となるとも知らずに」
「オーを離せ!」
キューは何度も彼女に向かって斬りかかった。
しかし、どれも片手で弾かれる。基礎的な力の、応用的な能力の、その全てでキューを上回っている。
触手と化した彼女のもう片方の手の先には、依然オーが貫かれたままだ。オーは意識を失い、だらりと浮かんでいた。
「やはりお前は極端に弱い。本当に女子攻生か? まだ鍛えた人間の方が手応えがあるぞ」
「うるさい、うるさい!、うるさい!!」
キューは怒りに任せて刀を降った。彼女がキューに突き刺す、言葉を掻き消すように。
だが、一度突き刺さった言葉は、わずかであってもキューの心の深い所へと侵入し、ぐちゃぐちゃにかき混ぜ始めた。
「私は……私は………!」
弱い。
その言葉が何度も頭の中を、心の中を渦巻く。
これまではその弱さのせいで生まれたものは、自分の世界だけで完結していた。
弱さのせいで生まれた痛みも、弱さのせいで生まれた蔑みも。自分が我慢すればいいだけだった。
けど今は違う。
目の前で、自分の弱さのせいで何もかも失う瞬間が生まれようとしていた。
300年の時を経て、弱いままではいけない理由ができてしまった。
「あぁぁ!!」
キューは無我夢中で彼女に向かっていった。今では不安も、恐怖も、何もかもの全ての感情が入り乱れ暴風雨のようにキューの心の中で吹き荒れている。
だが、その刃は届かない。
それが、キューの限界だった。
アイは呆れたような表情になると、手に持った大鎌を翻して軽々とキューを切り裂いた。
今度は深く、キューの肩口から下腹部までが大きく裂けた。
キューは声も無く、膝から崩れ落ちる。
痛くて叫びそうだが、それを凌駕する自分自身に対しての失望感がキューの声を奪っていた。
「お前は寄生する価値も無い。かと言って、その辺の動物のように食う気にもならん」
彼女の大鎌の刃先が、キューの首元に当てられた。
「通り道に生えた枝先のように、刈り取るだけだ」
エネルギーが無くなったわけでもないのに、キューにはもう、刀を握る力は無かった。
彼女が大鎌を構えた。
「終わりだ」
キューの首めがけて切っ先が振り下ろされた。
「まだ終わってない」
途端、アイの胸を矢が貫いた。驚いた彼女が咄嗟に振り返ると、触手に貫かれたままの、オーが立っている。
手には、全ての矢が握りしめられていた。
オーは矢を再び彼女に突き刺した。アイは避けようともがくが、オーは許さず、次々に矢を突き刺していく。
5本あるうちの4本を突き刺した時、アイはオーから離れるべくついに地面を蹴った。
だが、オーは逃さないように自分とアイを繋ぐ、体を貫いたままの触手を握りしめ、力いっぱい引いた。
中空に浮いていたアイは、オーの眼前まで引き寄せられた。
オーの赤い瞳が、アイの薄紫の瞳を見つめる。
「アイ。遅くなってごめん」
オーは胸に突き刺さった触手と、オー自身の体を縫うように、最後の矢を突き刺すと、呟くようにして言った。
「〈システムオーバレヴ・フェイルノート〉」
オーの両の瞳が煌々とした赤に輝くと、二人に刺さっている矢が帯電を始め、空気を切り裂く音が加速していった。
「お前……」
アイが言葉を言い終わる前に、オーとアイはキューの目の前でまるで小さな太陽が生まれたように光り輝き、轟音と衝撃波を放ち、爆発した。
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