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ここは終末世界、私は女子攻生と旅をする。  作者: 播磨播州
対インルーラー戦篇
35/43

35話 インルーラーが来た理由

 インルーラーの触手が両手足、首元に巻き付き、私を容赦なく締め上げていく。手足はわずかに動くものの、巻き付いた触手を外すほどの自由度は与えられていなかった。


 よくこういう時、「ギリギリと締め上げられる」と表現するのを漫画や小説で読んだことがあったけど、まさにその通りに私の鼓膜には「ギリギリ」という不快な音が流れ込んでいた。

 そういうわけでわかったのだが、これは触手が出す音ではなくて、触手が私の皮膚を強く擦る事で発生しているようだ。


 つまり、痛い。とにかく痛い。


 なのに首を締められている事で呼吸ができず、悲鳴を上げることすらできなかった。

 ぐるりと反転させられると、インルーラーはゆっくりと私に近づいてきた。


 インルーラー……いや、今は彼女と言うべきか。


 身長はオーよりも低く、私と同じくらいだろうか。炎に照らされた薄紫色のショートボブの髪の奥から覇気の無い彼女の目が覗く。その目は何処までも深く沈み込むような闇に思えた。

 かつてはキューやオーと共に戦い、そして寄生された女子攻生。

 今では意識があるのかすらわからない。


「ようやく見つけたぞ」


 彼女が私に語りかける。その声は想像よりも幼い。なのに、奥底には私の神経を突き刺すような恐怖を想起させる何かがあった。

 それはもしかしたら、彼女に寄生したインルーラーの原初的な、本能のようなものが声に混じっているのかもしれなかった。


「どういう……こと?」


 わずかに残った酸素を気道から絞り出すようにして私は声を発すると、彼女は無表情なまま答えた。


「お前に会いたかった」


 私を? このインルーラーは私を追って来たってこと?

 もしそれが本当なら、この惨劇は私のせいってことだ。けど、どうして。


「純粋な、人間」


 彼女の口元が僅かに笑ったように思えた。待ち焦がれた何かにようやく出会えた時のような、湧き上がる喜びに似た、笑み。

 彼女は言った。純粋な人間。純粋、な。

 どういう意味だろうか。酸素が回らずに、回転の鈍くなった脳をどうにか動かして考える。純粋……純粋。

 すると、キューの言葉がふいに思い出された。

 インルーラーの本懐は寄生することだと。今、核汚染によって様々な生物が死に絶え、当然人間も減ったことで、寄生する対象がいなくなって飢えているのではないかと。


 だが、この村や、略奪カンパニーなどの存在を見るに、まだ人間はこの地球上にいくらかは生き残っている。なのに、このインルーラーは言った。私を見つけたと。

 私と、私以外の人間との違い。

 この村に着いた時に、オー達に教わったこの時代の人間達の秘密。

 それは遺伝子にインルーラーの遺伝子が混在しているということ。


 そういうことか。

 このインルーラーは……いや、もしかしたらまだこの地球上に生き残っているインルーラーの全てが、私のような「純粋な」遺伝子をもつ人間を求めているのかもしれない。


 寄生するために。

 それが、彼らの存在理由だから。


 インルーラーはもう片方の手から伸びた触手を操作し、私の目の前に浮かばせた。すると、ニュルっと触手の先から針が飛び出してきた。以前に戦った時に見た、寄生するための針だろう。

 この針を突き刺して、私に寄生する。

 今、私に寄生したことでやつらインルーラーの状況が変わるわけではない。やつらが再び立ち上がり、ついにこの星を支配する足がかりになるわけでもない。

 ただ、美味しそうな食事があるから食べたい。そういうシンプルな欲求で、私は寄生され、意識を持つのか失うのかはわからないが、インルーラーの寄生先として、このインルーラーが破壊されるまで生き続ける。

 私はもがいた。そんなこと、嫌に決まっている。

 だが、純粋な遺伝子を持つ私は、純粋にただただ弱かった。もがいたところで、手足や首に巻き付いた触手がさらに強く締め上げられるだけで、状況は好転しなかった。


 針はゆっくりと私の眼前に近づいてくる。さっさと挿せばいいものを、久方ぶりの美味い食事(自分で美味いというのもあれだけど)にがっつくような真似はしないようだ。犬型の時とは違い、女子攻生の姿となったこいつはどうも表情が乏しいが、代わりに触手が感情を表しているようで、ふよふよと喜びの舞を舞うかのように、動き続けている。


 あぁ、こうして私の旅は終わる。

 終末世界に目を覚まし、女子攻生と出会った私の短い旅が、ここで終わる。


 ……嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ!


 私は後悔した生き方も、後悔した死に方もしたくないんだ!

 だけど……今回は本当に手も足も出ない。死ぬことから逃れることはできそうもない。


 だったら。


 私は残された僅かな酸素を肺から送り出し、口をどうにか開いて彼女に言った。


「最後に……伝えたい事が……あるの」


「言え」

 彼女は無感情的に促した。私はコクリと首を動かすと、パクパクと口を動かす。


「……なんだ?」


 もう一度、私は口を動かす。


「聞こえないぞ」


 しびれを切らした彼女は、私を引き寄せると私の口元に顔を近づけ、耳を傾けた。

 私は、もう一度口を開く。


「お前はキューにやられるんだ、この寄生野郎」



 彼女は咄嗟に私から顔を引いたが、もう遅い。

 わずかに動く右足に全力を込めて、私は彼女の顔に膝蹴りを叩き込んだ。


かなり間が開いてしまいましたが、更新です。


ようやく身の回りが落ち着いて来たので、ここからラストまでできるだけ頻度高めに更新したいと思いますので、ブックマークよろしくお願い致します!

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