34話 ルィとキューの再会と阿鼻叫喚
私は、本当の意味で初めて、女子攻生という過去に戦争のために生み出された生体兵器の、その強さを目の当たりにした。
緊急事態として閉じられた村の入口を迂回して、私とミミとリウは、キナコが逃げ出した穴から村へ帰り戻った。そこは入り口からは離れており、人もいない。
遠く、入り口方向へ私たちは目を向けた。
そこはミュータント化した村の人と、それと戦いながらも襲われ、またミュータント化して他の村の人を襲うというまさに阿鼻叫喚。さらにどこからか火が燃え延焼し、所々で火の手が上がっている。もう夜も暮れ始めているのに村の中は煌々と明るい。
地獄絵図であった。
「なにが起きたの……?」
「ねぇ、あれ!」
ミミが指差したのは、村の入口付近。そこに少女の姿が見えた。ただの少女ではない、頭は獣の耳が生え、お尻から伸びたシッポが愉快そうにふよふよと動いている。見た目はキューやオーのような女子攻生にそっくりだ。
唯一違うのは、両手から伸びた触手。
間違いない。この村に来る前に私たちと戦った、インルーラーだ。
私がその事を2人に教えると、ミミとリウは銃を構えその少女の元へ向かおうとした。
「ちょっと待って! どうするの?」
「戦うに決まってるだろ!」
「駄目だよ! キューですら勝てなかった相手だよ」
「そりゃ、弱かったからだろ!」
「キューは弱くない!」
いや、ここでそんな喧嘩をしていても仕方がないのはわかっている。けど、いくらこの2人であっても、あのインルーラーに勝てるとは思えない。
「ルィさん。勝てる勝てないじゃないんです。村を守らないと」
ミミが説得するように言った。落ち着いているように見えるが、すぐさま駆け出したい衝動をどうにか抑え込んでいるようだった。
「ルィさんこそ、あの穴を通って村の外へ。隠れていてください」
そこまで言うと、ミミもリウも有無を言わさずにインルーラーの方へ振り返った。
その時。
日が落ち闇に包まれた夜空に突如、光の筋が現れたかと思うと空からミュータントの群れに突き刺さった。次の瞬間には、雷鳴のような轟音を上げ、ミュータントが青白く光った。
「守護神様だ」
リウが言うより早く、光の筋は再び夜空を駆けて他のミュータントに突き刺さり、轟音を持ってミュータントを殲滅していく。
その光の出処に目を向けた。赤髪の少女が洗練された動作で矢を放っている。1度放てば5本の矢が空へ飛び出していくのだが、不思議なことに矢は無くならない。よく見れば、放たれ、ミュータントを屠った矢が意思を持ったように宙へ浮かび上がり、矢筒へ舞い戻っていた。
「あれが、オーの力……」
「ねぇ、あれって!」
ミミがオーと村の入口の中間を指差した。
そこには闇より深い漆黒の刀を振り、村の人々に襲いかかるミュータントを真っ二つにしていくキューの姿があった。
「キュー!」
目が覚めたんだ。どうしてかはわからないけど、キューは起き上がり、そして戦っている。
だが、ミュータントをまさに蹂躙していくオーとは違い、キューは息も切れ切れにかろうじて戦えている。そんな状態であることが、ルィのいる場所からもわかった。
このままだと、また意識を失ってしまうかもしれない。
「キュー!」
私はもう一度、彼女の名前を呼んだ。自然と足はキューの元へ向かっていく。
阿鼻叫喚の渦中へ。
「ルィさん……駄目です、戻って!」
「おい、何やってんだ!」
後ろでミミとリウの叫び声が聞こえた。けど、足は止まらない。
私には、届けないといけないものがある。
今、ここで渡さないといけない。どうしてか、今、ここでなんだ。その思いが体を包み、操作するように足を動かす。
「キュー!」
私がもう一度叫ぶと、キューが私の声に気がついて目を合わせた。
「ルィ!」
良かった、無事だった。キューはホッと胸をなで下ろした。
その矢先。
ルィの背後に、現れた少女が一人。逃げ惑い、恐怖の表情を浮かべる村の人間たちとは違い、その表情には笑みが浮かぶ。
過去に戦い、そして寄生された女子攻生。今は、インルーラーとなった、過去の英雄の1人。
「逃げて!」
キューの声が届くより先に、女子攻生の姿となったインルーラーの両手は、するすると触手を伸ばし、あっという間にルィの体に巻き付いた。
キューはすぐさま助けに駆けようとしたが、急激に全身の力が抜けて、刀を地面に突き刺して膝から倒れ込んでしまった。
「ルィ……」
触手がルィをがんじがらめにする寸前、ルィは何かをキューに投げたのが見えた。
「キュー……お願い……」
ルィが投げた銀色の棒状の物体が、弧を描いてキューの目の前に落ち、地面に刺さった。
両翼を背景に、女性の顔が描かれているのが目に入る。
「……これは」
「驚いた。FBS、見つけたんだ」
いつのまにかキューの背後に立ったオーが言った。
「キュー、それを使ってルィを助けるんだ」
「……けど、私には倒せません。一度負けているんです。だからこれは、オーが使ってください。オーじゃないと……」
「私は、村の人間を守るだけで精一杯だよ。それに、さっきも言っただろう? キュー、君の武器は……力は、私よりも強いんだ」
「そんなわけがありません」
「キュー。必要なのは、心の強さなんだ。君の心に強さを宿すんだ。そうすれば、君の器の本当の力が現れる」
「心の……強さ」
オーはもうそれ以上何も言わず、ただ頷いた。そして、キューに背を向けて再び村に溢れたミュータントに向かって矢を放った。
心の強さ。それこそが、キューには必要だとオーは言った。
そうすれば、器の本当の力が現れる。
「……器」
キューはルィに視線を戻した。両手足だけでなく、首にまでインルーラーの触手が巻き付いたルィは、地面から浮かぶように持ち上げられて、苦しそうに息を漏らしていた。
わからない。オーが言っていることは、何もわからない。
だけど。
今、やるべきことは一つしか無い。それはわかる。
それが、ようやくわかった。
キューは、地面からFBSを拾い上げると蓋を外し、露出した針を勢いよく首に突き刺した。
少し仕事が立て込み更新に間が空きました。
あと少しで一区切りですので、お付き合い頂ければ幸いです。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
よろしければブックマーク、評価など頂けると大変うれしいです。




