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ここは終末世界、私は女子攻生と旅をする。  作者: 播磨播州
キューとオー編
32/43

32話 侵入

しばしキューはぽかんと口を開けてオーを見つめていた。あまりにも突拍子が無く、原理のわからない発言。

 どうして、オーが私に殺して欲しいなんて。


「じょ、冗談ですよね」


 ようやくキューは口を開いた。変に緊張して声が掠れる。


「本気だよ。私を殺せるのは、キューだけなんだから」

「あの……何も理解ができないです。殺してほしいなんて」

「キュー。君は300年という年月の間、この地上を離れ遥か上空で眠りについていた。その間、私たち他の女子攻生はインルーラーと戦い、破れ、その殆どが死んだ。けど、ほんの僅かにだけど生き残った者達がいる。私のようにね」


 キューはオーの表情から彼女の意図を読み取ろうとその視線を、小さく動かす指先を、声や呼吸で小さく開く唇を必死に目で追った。けれど、何一つとしてキューが汲み取れるものは感じられなかった。

 キューはオーが言葉を進めるのをただ、じっと聞くしかない。

 気がつけば、夕暮れで赤く染まった空は、まるでこれから訪れる展開に合わせるように深い闇へと沈み始めていた。


「私たち女子攻生は、人間がインルーラーを倒すため、殺すために生み出したいわば人造生物だ。その遺伝子は戦闘に特化するようにデザインされ、見た目は殆ど人間と変わりはないのにその細胞1つ1つが全く異質なもので構成されている。ところでキュー。女子攻生の寿命がどれくらいか知っているかい?」

「寿命ですか?」


 そんな事、考えたことも無かった。オーが言うように女子攻生はインルーラーとの戦争に勝つために生み出され、戦うこと以外考える必要は無いと教育された。自分たち女子攻生が、守るべき人類とは見た目は近くても全く別種の生物であるということは、もちろんキューも自覚している。

 だが。オーの言葉でキューは初めて、自分たち女子攻生の「寿命」というものを考えた。考える必要が無かったからだ。

 100年……いや、200年? と考えて気がついた。目の前にいるオーはすでに三百年以上生きているわけだ。


「わかりません。300年以上でしょうけど」

「女子攻生に……寿命はない」


 また風が二人の間を駆け抜けた。オーの瞳は真っ直ぐ、キューに向けられている。キューの反応を確かめるように。


「じゃあ、私たちはずっと生き続けるってことですか?」

「そうだ。自分よりも強いものに戦いで破れ、生命活動が不能にならない限り。私たちは自殺もできない。そうプログラムされているんだ。永遠に生き続け、自壊すら許されない。私たちは、生物なんかじゃなくて機械に近いんだよ」

「……だから」

「殺して欲しい。私はもう、これ以上生きていたくないんだ。戦争に破れ、守るべき人類はゆっくりと絶滅の道を歩んでいる。もう存在理由の無いまま、生き続けるのは嫌なんだ」

「けど、村の人達は……この村はどうするんですか? この村は、オーが作ったんでしょう?」


 キューの声には戸惑いが現れている。


「私がいなくても問題ないよ。この村の子達は強い」

「けど……けど」


 何か言葉を紡ごうとしても、キューは何も言葉を続けることはできなかった。

 それほど、オーの目には決意の意思が浮かんでいた。


「キュー。これは君にしかお願いできない事なんだ。君は今の時代で唯一、存在理由を持っている女子攻生なのだから」




 キューとオーが墓地で相対していた時。村の入口に1人の旅人が現れた。


 日はすでに暮れており、入り口に備え付けられた巨大な照明が旅人を照らした。

 旅人は初老の男で、何処で拾ったかわからないボロ布を纏っただけの姿だったが、そのような姿で生活することは今の時代ではよくある話であった。

 だから村人たちも、さして不審には思わなかった。


「家族を探して旅をしているのだが、食料がつきてしまって」


 もしよろしければ少し恵んでくれないか、ということであった。

 オーの村の人間たちは、当然むざむざと脅威を受け入れるような輩ではなかった。

 村は高い壁で囲まれ、入り口はいかなる攻撃も耐える強度を誇り、外周を回る哨戒も怠らない。その壁の中に存在する、この時代では失われている「平穏」を守るために皆幼い頃から脅威に対して備えていた。


 だがそれも、「目に見える脅威」にのみ敏感であると言える。

 目の前の男は、所持品と言えば本当に身に纏ったボロ布のみ。歳も重ねており、体格も痩躯だと言っていい。

 こんな男1人に何ができるか。入り口を守る守衛の2人は言葉を交わすことなく、お互いにそう思った。それに、


 ―村には守護神様がいる。


 それこそが、村人がつねに「平穏」を感じることができる要因であった。

 人知を超えた力。彼女一人いれば、人間なんて数百、数千が束になっても滅ぼされるだろう。彼女が村にいる限り、村に訪れるいかなる脅威も届かない。もしその刃を振り下ろすことができたとしても、全て受けきることができるだろう。

 だからこそ先日、彼女が言伝も無く村を開けた時は騒然となった。

 「まさか村を捨てたのか」と、村の人間たちは騒ぎ、中には泣き出すものまで現れた。

 夜中には無事に帰ってきてくれて、村の人間たちに「平穏」は再び訪れたのだが。


 村の人間たちの中に1人として気づくものはいなかった。守護神様と呼ばれる少女の形をした兵器。彼女に依存し、すがっていることを。


 そして逆を言えば、「彼女がいる」というおごりがあるということを。


「芋しかないが、それでもいいか?」


 守衛の1人がそういうと、旅人は深々と頭を下げて礼を口にした。

 閉ざされていた鉄の入り口が、地響きと金属音をあげてゆっくりと開いていく。

 旅人は再び頭を下げながら、村の中へと入っていった。


「ここに、肌の白い少女はいますか?」


 旅人の質問に、迎え入れた守衛が記憶を辿る。


「あー確か先日守護神様が連れてきた女の子が確か、白い子だったなぁ。病気かなんかかと思ったけど」


 と、そこまで言ってようやく守衛は気づく。

 どうして、その事を知っているのか。どうして、その事を知りたいのか。


「お前」


 と、守衛が旅人に携えた銃を向けた時には、すでに寄生のための触手針が彼の脳を貫いていた。


キュー編から三人称視点ですが、そっちの方が書きやすい気がします。


ここまでお読み頂きありがとうございます。

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