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ここは終末世界、私は女子攻生と旅をする。  作者: 播磨播州
キューとオー編
31/43

31話 オーの願い

 闇の中は慣れっこだった。


 お前は欠陥品だと言われ、部隊から外されて地上から何百キロも上空に打ち上げられた後、300年近く眠りにつかされた。

 眠っている間、キューはずっと夢を見ていた。


 戦争の中、目の前で次々に仲間の女子攻生が死んでいく。

 一緒に育ったあの子も、一緒に訓練したあの子も、無残な姿に変わり果てていく。

 それをキューは何もできずに見ている。


 ただ叫んだ。叫び続けた。


 自分も戦わせてくれ。自分も、あの仲間たちと一緒に死なせてくれ、と。

 しかし、その声が誰かに届くことはない。

 そんな悪夢を、何度も何度も繰り返し見た。


 300年。体感では数千年かもしれない。そんな長い時間、同じ悪夢を見続けた。

 だから再び眠りにつき、闇の中に沈んでいくことをキューは自然と受け入れた。

 受け入れたつもりだった。


 怖い。


 またあの悪夢を見ることが、ではない。

 やっと手に入れたのに。欠陥品だと捨てられた自分が、初めて与えられた命令(オーダー)を。

 それを失うことが、怖い。


「……ルィ」


 再び訪れた闇の中。

 以前とは違う、新しい悪夢が始まった。


「……ルィ」


 遠ざかる少女の背中。

 自分と同じように、300年間眠らされた少女。

 キューの、たった一つの希望。


「……ルィ!」


 手を伸ばしても届かない。叫んでも、聞こえない。

 少女の背中は深い闇の中へと遠くへ消えていった。




「ルィ!」

「あいたっ!」


 跳ねるように起き上がると、キューの目の前に顔を押さえているオーがベッド脇に立っていた。どうしてか痛みに耐えているようだ。


「……オー?」


 そうキューが名を呼ぶと、徐々にキュー自身の鼻や額にも痛みが広がっていく。


「あれ……痛い……なんですかこれ」

「……気にしないで。それより、目は覚めたかい?」


 オーはいつもの笑みを浮かべた表情に戻ると、キューのベッドに腰掛けた。


「あの……私は一体」


 辺りを見渡すと、どうやらオーの村の中にある診療小屋のようだ。先日、目を覚ました時も、この場所であったことを覚えている。


「エネルギー不足の状態で無理をしたから、また倒れたんだ。今度は再びエネルギーを充填しないと目を覚まさないくらいにね」


 キューは自分の両手を見つめ、ゆっくりと動かした。


「けど、動いています」

「私が、少しエネルギーを分けたからね」

「そんなことができるんですか? どうやって?」

「方法は……また今度教えるよ。とにかく、今はある程度動けるくらいには補充されているよ」

「ありがとうございます……あの」

「なんだい?」

「ルィは?」


 そう聞くと、オーの表情が少し曇った。「心配はいらないんだけど」と前置きされた後、ルィが村を抜け出した事を聞いた。恐らく、キューのためにFBSを探しに行ったのだろうとのことだった。


「早く助けに行かないと!」


 キューは急いでベッドから降りようとした。けれども、オーに止められる。


「邪魔しないでください!」

「今の君が行っても、またルィの足を引っ張るだけだよ」

「足を……引っ張る」

「そう。今のキューはエネルギー不足で女子攻生としてのパフォーマンスを数パーセントも発揮できない。また彼女の前で意識を失うだけだ」


 キューは言い返す言葉を探す。が、言い訳すら思い浮かばず、手のひらでシーツを握りしめることしかできなかった。


「それに、一緒にいるリウもミミも優秀な子たちだから大丈夫。無事に戻ってくるよ」


 オーの言動には偽りの感情は感じられなかった。本当に待っていれば、無事に帰ってくることを信じているようだ。

 この時代の事はオーの方が遥かに理解している。そんな彼女が言うのだから、信じてもいいのかもしれないとも思う。

 だけど、家出をした子供の帰りを待つ親のように、キューの不安は刻々と増殖していく。


「じっとなんてしていられません」

「じゃあどうするんだい?」

「どう……どうしたらいいんでしょう」


 不安と同じくらい、いやそれ以上に情けなさで胸がいっぱいだった。ようやく与えられた命令(オーダー)を遂行するどころか、今はその保護対象のルィが自分を助けるために身を危険にさらしている。

 やっぱり自分は欠陥品なんだ。

 考えたくなくても、キューの頭の中はその言葉で溢れそうになった。


「キュー、少し歩こう。話したいことがあるんだ」


 オーが戸口に立って、キューに言った。



 オーに連れられて、キューは外周沿いに村の中を歩いた。

 村には時計が無く(あるかもしれないが、キューはまだ見たことが無かった)、今がどれくらいの時間帯なのかはわからないが、村全体が赤く照らされ始めていることから、夕方頃だとキューは思った。


「体の調子はどうだい?」


 オーはキューの前を歩きながら、背中で会話するように言った。


「お陰様で。歩く程度なら問題はないです」

「それはよかった」


 そんなオーの背中を眺めながら、キューは彼女の後を追った。


 オー。

キューと同じ女子攻撃型生体兵器、通称『女子攻生』の1人。

 流れ出る血液のように濃い紅色の毛髪と、短めの獣を模した耳と尾。背中に背負われた弓はIUVが生み出した対インルーラー用兵装『フェイルノート』だろう。


 オーは、欠陥品として前線に投入されることのなかったキューの事などは知らないだろうが、キューは違う。

 IUVには女子攻生が26名おり、それぞれがアルファベットの呼び名であった。

 そこから一部隊6名の三部隊、18人が主力部隊とされていた。(キューは主力から外された者達で作られた部隊、いわゆる補欠部隊に所属していて、補欠部隊も6名で構成されており、残り2名は医療班であった)


 さらに主力3部隊も優劣がつけられており、リーダーの名前を冠した部隊名が与えられていた。


 その中の一つが、「ユニット:オー」。

 インルーラー軍との戦いで何度も勝利を収め、どんな作戦であろうと最小限の被害で成功させる。そんなオーは『血の嵐』『紅御前』、または単に『英雄』とIUVだけでなく、他の国軍関係者からも呼ばれていて、面識の無かったキューですらその名をよく聞いたものだった。

 キューからすれば、まさに『英雄』。自分のように後方へ下げられた欠陥品からすれば、手の届かない憧れの存在であった。


 まさかそんな存在に、300年の時を経て相対することになるなんて。その偶然というか、運命のようなものにキューは驚いていた。


「先程は……すみませんでした。ご迷惑をおかけして」


 キューは歩きながら、精一杯の謝罪の気持ちを込めてオーに言った。しかし、オーは黙々と歩き続けている。

 怒っている? 当然だろう。自分のような者が、戦争の英雄だけでなく、その人が守っている村で迷惑をかけたのだから。


「あの……本当にすみませんでした。その……なんと言っていいのか」


 キューがそこまで言うと、オーはちらりとキューの方へ顔を向けた。

 その顔は、笑っていた。


「どうしてそんなに気を使うんだい。私たちは言ってみれば同士じゃないか」

「ど、同士だなんてそんな。私は、オーなんかと比べたら」

「そんな事無いよ、キュー。君も立派な女子攻生なんだよ。あの当時は、それをちゃんと理解してくれる者がいなかった。そんな余裕なんて、私たち女子攻生にも、IUVの研究者や上官達には無かったからね」

「いえ、そう言ってもらえるのは嬉しいのですが……私はやっぱり欠陥品です。戦争が終わった後にも、こうやって迷惑をかけているのですから」


 突然オーは足を止めると振り返り、顔をキューの顔に近づけた。その表情は見たことがないような真面目で、どちらかと言えば怒っているような表情だ。


「キュー。君にもし欠陥があるとしたら、それは君の身体的な構造にあるものじゃないよ」

「……え?」


 キューは言葉の続きを待ったが、オーはいつもの笑顔に戻ると、「さ、行こう」と言って振り返り歩き始めた。

 仕方なく、キューはまた黙々とオーの背中を追っていった。

 



「ここは?」


 それから5分ほど歩き、外周をぐるっと周って東側の端の辺りに到達すると、オーはようやく足を止めた。

 オーの視線の先には、キューが両手を広げても収まらないくらいの大きさの切り出された大きな石が置かれており、その周りにはつい最近置かれたであろうまだ瑞々しい花束がまるで捧げるように置かれていた。


「村の墓地だよ。死んだ村人は皆、ここの下に埋められるんだ。キューとルィがこの村に着いてすぐにも、村の少年が1人埋められた」


 その話はルィから聞いていた。村の少年がミュータントに変異した。

 今の時代のほとんどの人間が抱える爆弾。いつ変異するかわからない、インルーラー遺伝子によって。

 オーはしばらく黙ったまま村の墓標を見つめていた。風が吹き、キューとオー2人の髪を揺らす。


「それで……話っていうのは」


 たまらずキューが聞いた。

 風が収まると、オーはゆっくりと振り返って言った。




「キュー、私を殺して欲しい」


ここまでお読み頂きありがとうございます。

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