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ここは終末世界、私は女子攻生と旅をする。  作者: 播磨播州
はじまりは300年後編
3/43

3話 眠りにつく前に

「痛っ……」


 全身、特に着地(という名の落下)した背中が痛い。涙を浮かべて背中を撫でる。


「そうだ……キュー」


 私は辺りを見回した。まだ土煙が舞い上がって視界が悪く、大小様々な石片が降り注いでいる。

土煙が目に入って涙を流しながらキョロキョロと辺りを見回していると、地面に黒い人影が見えた。急いで駆けよると、体の半分が瓦礫に埋まっていたキューを見つけた。


 私は瓦礫をどかして、キューを抱き起こす。


「キュー……キュー?」

 意識を取り戻したキューは、虚ろな表情で私を見つめた。

「ルィ、無事ですか?」

「ええ。キューのおかげ」


 キューは笑みを浮かべると、腰に着けている幾つかの道具をしまっている小さなバッグに手を入れた。中から3センチほどの細長い棒を取り出す。真っ白でまるでチョークのように見える。


「これは一定時間生体反応を消す道具です」


 そう言ってキューは棒を私に握らせ、簡単に使い方を伝えた。お手軽な方法で、約2メートル程度の空間内に存在する生物の痕跡を、外部から完全に遮断するらしい。


「私は眠りますが、夜明けには目を覚ますと思います。それまではこれを使って、ルィは身を潜めていてください」

「わかった。ありがとう」


 私がその棒を受け取ると、安心したのかキューは死んだように眠りに落ちた。すでに頬に受けた傷は再生し、血の跡が残るだけであった。私はその血の跡を指でこすり、綺麗にしてあげた。

 マジマジと彼女の顔を見つめる。彼女の顔は、私がこれまでの人生の中で見てきたどの顔よりも整っているように思えた。


 地下での激動を乗り越えた疲れか、それとも柔らかくてきめ細かすぎる彼女の頬肉のせいか。気がつけば私はぼーっと、キューの頬をふにふにと触り続けていた。ハッと気がついた時には大分時間が過ぎていて、太陽が地平線にのしかかろうとしていた。


 夜が来る。


 どこか寝れる場所を探そうかと思い立ち上がろうとしたが、膝に力が入らなかった。今日の地下での激動は弱々しい私の体にも深刻なダメージ(疲れと筋肉痛)を残していたようだ。


 しかたない。今日はもうここで寝よう。

 私はキューに手渡された生体反応を消す棒を言われたとおりに地面に突き刺した。

 すると棒は発光し、棒から薄いモヤが溢れて付近に漂い始めた。まるで小型の加湿器のように。

 本当にこれで私達の存在が消えてるのだろうかと疑問はあるが、私の生きた時代よりも優れた未来の道具なのだからまぁ大丈夫だろうと無理やり納得した。


 未来。

 

 そう、今は西暦で2355年……らしい。「らしい」というのは、そうキューに教わったからだ。だって私が生活していたのは2030年代。今が本当にそんな時代だとしたら、私がいた時代よりもここは300年以上も経っている事になる。


 私はそんな未来で突然目覚め、家族も友人も知り合いすらもいないこの崩壊した世界に放り出された。あの時、キューが私の前に現れなかったら、今頃ミュータントの腹の中か、瓦礫の下で死んでいる。

 300年前と変わらない太陽はすでに地平線に沈みかけていた。火を起こしたいが、私一人ではどうすることもできない。今日はこのまま朝を待つこととしよう。


 私は地面に横になった。雑草が生い茂っているとは言え、もともとアスファルトだった場所だから、体が痛い。主に全身が。これでは疲れなんて取れやしない。


 さてどうしたものかと思って体を起き上がらせると、視界に丁度良い物が入った。

 私はキューのお腹を枕にして寝ることにした。起こさないように(起きないだろうけど)ゆっくりとキューのお腹に頭を沈め、私とキューはTの字のようになった。

 キューのお腹は柔らかく、けど奥の方、芯の部分には硬さを感じる。その柔らかさと硬さの組み合わせが、私にとっては丁度良い枕となった。


 キューの呼吸にあわせてゆっくりとお腹が上下する心地よさを感じながら、私は顔を横に向けて沈みゆく太陽を見つめた。


 この時代に目覚めてから怒涛の日々が過ぎ去り、こうやってゆっくりと太陽を望むのは初めてな気がした。


 せっかくだからと、私は記憶の整理を始めることにした。



 西暦2032年12月28日。場所は東京。

 その日の私は一人で誕生日を迎え、そして300年間の眠りにつくこととなる。


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