23話 略奪カンパニー
「ルィさん!」
ミミは叫ぶが、私との距離はぐんぐんと離れていく。その姿が視界の端から外れる前にミミは銃を構え、私に向けて撃った。
途端に引っ張られる力は無くなった。喉の苦しさで嗚咽する。
「ルィさん! 大丈夫ですか⁉」
ミミが私に駆け寄り、体を起こしてくれた。手に何かが触れ、視線を向けると焦げてちぎれた鉄条の紐が垂れていた。それは私の首にまだ嵌ったままの鉄の輪につながっている
「なんとか大丈夫……一体何が?」
私は急いで立ち上がり振り返る。
するとそこには、男が2人立ってこちらを見ていた。
右側の男は痩せ他長身で、所々凹んだヘルメットを被り、目にはゴーグルを装着している。左側の男は服が盛り上がるほどの筋肉質で無精髭を蓄え、ニット帽をかぶっている。
2人共銃を携えていて、それはミミの物や私が借りた銃より一回りほど小さいライフル銃で、左側のニット帽の男の持つ銃の銃口からは、切れた鉄条の紐のもう片方が垂れていた。
「逃げましょう!」
ミミは私の手を握ると、すぐさま駆けだした。と、同時に銃声が鳴って足元に弾が何発も着弾していく。
「わわわわ!」
「止まらないで!」
ミミは走る足を止めること無く上半身だけ振り返り、銃を撃ち返していく。先程までのどちらかというとふわふわとした年下の女の子の表情は無くなり、勇ましい戦う少女の表情へと変わっていた。
流石は何度かここへ来たことがあるというミミの誘導のおかげで無駄なく逃走は成功し、私たちは廃墟跡の中へ入り、私の身長より少しばかり低い壁を乗り越えた場所に身を隠した。
ここならこちらの身を隠したまま、顔を少し出すだけで外の様子がわかる。
「ルィさん、見せて」
ミミはそう言うと、私の首にまだ巻き付いたままの鉄の輪を弄り、あっという間に外した。
「略奪カンパニーです。この辺りでは見たことが無かったのに」
ゼェゼェと息を整えている私とは対象に、汗一つかいていないミミが小声で言った。
その名称には聞き覚えがあった。確か村にやってくる驚異の一つとしてミミが言っていたように覚えている。
「私達を生きたまま攫って、他の村に売るんです」
「ミミちゃんが助けてくれなかったら……」
先程はよく咄嗟に私を連れ去ろうとする紐を撃ち抜いてくれたものだ。流石に巡回を任されているだけあって、銃の腕前は確かに良いみたい。
「ありがとう、本当に」
キューから代わり、今度はミミに守ってもらっている状況に情けなさを感じつつも、ひとまずお礼を言う。
「他にも村があるの?」
「はい。もっと西の方にですが、いくつか。ただ、どの村も好戦的ですし、私たちの村の倫理観と合う村はほとんど無くて」
「り、倫理観が合わないって……?」
「私たちは、同族を食べませんから」
人を喰う。それは終末系の映画なんかではおなじみだったりするが、いざ自分がその状況に限りなく近づくと、今まで感じたことのない恐怖が背筋を走った。
「静かに。来ました」
ミミに引っ張られ身をかがめると、男二人の足音が聞こえてきた。
私はまだ息が荒いので手で口元を抑える。
「あの肌」
男たちの会話が聞こえる。
「病気だろうか」
私の肌の白さのことだろう。
「さあな。だが。見た目は悪くない」
ありがとうございます。状況的に嬉しくないけど。
「もう一人はドームのガキだろう。見覚えのある服だった」
ミミが羽織っている白いコットン素材の上着の事だろうか。
「ドームって、赤髪の兵器がいるところだろう。手を出さないほうがいいんじゃないか」
赤髪の兵器とはオーの事だろうかと私は考える。
「なに、わかるわけないさ。ガウグランドのやつらはどうせ、みんな喰っちまう」
物騒で恐ろしいことを言いながら、男たちの足音は遠ざかっていった。
「さっきの話……」
本当に男たちがいなくなったのか顔を少し出して確認しながら、私は聞いた。
「ガウグランドは、人喰い族の村の一つです」
なーるほど……ね。絶対に捕まらないようにしないと。
「もう大丈夫でしょう」
ミミは立ち上がり、銃を肩に掛け直して廃墟から出るために隠れていた壁を乗り越えた。
私もついていくために急いで壁を乗り越えるも、急いだせいで足が引っかかりお尻から落ちてしまった。
「あいたっ!」
差し伸べられたミミの手を取り、立ち上がる。
「先を急ぎましょう、ルィさん」
「えっ……えっ⁉ 今日は帰ったほうがいいんじゃないの? まださっきのやつらうろついてるかもしれないし……」
「大丈夫ですよ。巡回してればああいう手合とは何度もやり合うので」
「けど、リウも1人だし。合流したほうがいいんじゃないの?」
「リウもあの程度にやられてたら、仕事になりません」
リウの名前を出すと、ミミは少し機嫌が悪そうな表情になって私から視線をはずした。
「それより、日が暮れる前に帰らないと怒られるので、そちらが心配です」
ミミは歩調を速める。その後ろにどうにか私は着いていく。
「本当に心配じゃないの? リウのこと」
「大丈夫ですから」
ミミが言い終わると同時に、乾いた発砲音が空に響いた。
さらに続けざまに何度も。
「リウだよ!」
私は居ても立っても居られずに、発砲音がした方へ向かおうと足を向けた。
「駄目です!」
ミミが私の手を掴み、止める。
「何言ってんの。大事な幼馴染でしょ⁉」
私はミミの手を振り払い、駆けだした。
草木に覆われた廃墟跡はとにかく歩きにくく、私は何度もつまずいては転んだ。
それでも気にせず進み続ける。発砲音はまだ響き渡っていた。
巨人の階段のように瓦礫が積み重なった場所を乗り越えていき、最後の1段を越えようとした時、私は再び手を掴まれた。
振り返るとミミが立っていた。
「ミミ」
「気付かれないように」
ミミはそういうと、ゆっくりと最後の1段から顔を出す。
私も真似して、顔を出した。
10メートルほど先では、瓦礫跡をお互いに壁にして打ち合うリウと先程の略奪カンパニーの男2人の姿が見えた。
私たちがいる場所はそこよりも数メートルほど高い場所となっており、ちょうど3人の戦闘を俯瞰的に見れていた。
だからこそ、リウが不利な状態なのは目に見えてわかった。
筋肉質なニット帽の男がリウに向けて銃を打ち続けている隙に、もうひとりの細身のヘルメット男が横からリウに近づいていっている。
手にもつ銃は、先程私の首に放ったものと同じであろう、鉄の輪が装着されていた。あれは拘束専用の武器のようだ。
「大変、リウが」
私が情けない声を出してる間にミミは音もなく銃を構えた。
「動くな」
ミミが銃弾を放つより先に、後ろから銃を構える金属音と、別の男の声が聞こえた。
思わず動きが止まった私たち。
目の前で、リウの首に鉄の輪が嵌められたのが見えた。
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