20話 女子攻生キューの秘密
「なにしてるの⁉」
私の声に気が付き、キューが振り向く。その表情は蒼白だ。
「……ルィ」
「キューさん、急に村の外に出るって。しかも1人で」
ミミが教えてくれた。
「どうしてそんなこと? まだ寝てないとだめじゃない。今のキューは、私よりも弱いんだよ」
それか私と互角か。どちらにせよ、外の世界に、1人で行けるわけがない。
「通信施設に向かおうとしたんだろ?」
人だかりが自然と割れ、その間からオーがゆっくりと歩いてやってきた。
「そこでマザーと通信をするために」
「……そうです」
キューが居心地が悪そうな顔で答えた。
「なんでそんなこと」
私はキューに訪ねたが、答えを聞くまでもなかった。キューは、私がシャングリラへ向かう可能性を1つでも得たかったのだ。
「キューにとって任務ってそんなに大事なの? もう戦争は終わってるんだよ。キューがいた軍隊だってもう存在してないんでしょ?」
キューは何も答えなかった。
「2人共、1度戻ろう」
オーがそう言い、集まっていた村の人たちを解散させ、私たちは診療小屋に戻った。
「ルィも、オーも……すみませんでした」
オーの肩を貸してもらい、ベッドに腰を下ろしたキューは開口一番謝った。
「じゃあ、もうあんな無茶なことはしない?」
私がそう言うと、キューは私と目を合わせずにじっと握りしめて膝に置いた手を見つめ続けた。
「ルィ。キューはまた同じような事をするよ」
「え?」
「キューにとっては、任務を遂行せねばならない。例え、死んだとしても。誰に迷惑をかけたとしても、ね」
「……女子攻生だから? 女子攻生ってのは、そういう決まりなの?」
「まぁ、そういう一面もあるけど……キューの場合は」
「やめてください!」
キューが突然大きな声を出してオーの言葉を遮った。
「自分で……言いますから」
そう言うとオーは私の顔をじっと見つめ、そしてゆっくりと言葉を続けた。
「私は……私は……オーのように人類を守る戦いに参加できなかったんです」
「え? だって、キューは戦いのために生み出されたって」
「そうです。けど、私は戦うことはできなかった。私は……欠陥品だから」
キューの頬を涙が伝った。
その後、キューはゆっくりと私たちに教えた。
女子攻生として生み出され、辛い苦しい訓練を乗り越えたキュー。だけど、キューには大きな問題があった。それは、エネルギーパフォーマンス問題だった。
実は、キューのエネルギー消費が大きいのは女子攻生だからではなく、生まれ持ったキューだけの欠陥だった。そのせいで戦争には参加出来ず、予備機として熱圏に位置する戦術型兵士射出装置で眠らされていたという。
そしてキューが眠っている間に戦争は終わった。
それを知ったのは、私をシャングリラに連れていくという任務を与えられ、目を覚ました時。
つまり、キューは私のように何百年も眠らされ、そして私とほとんど同時期に目を覚ましていたのだ。
「私は、あの戦争で人類を守るために生み出された。それが私達、女子攻生の……私の存在理由だったんです。けど、私は一度も戦うことはなかった。だから……300年が経ってしまったけど、私に与えられた任務は必ず遂行したい。でないと……私はなんのためにこの世に生み出されたのか……わからないから」
そこまで言うと、キューはまた下を向いて無言で涙を流した。
「けど、ルィには関係ないですものね……ルィの事を考えず私の事ばかり。ごめん……なさ……い……」
キューはぱたんとベッドに倒れた。
「キュー?」
「眠っただけだよ」
オーがキューにシーツをかけながら言った。
「ルィ。このままキューを封印する方法もある」
「封印?」
「そうだ。キューに食事を与えずにいれば、ほとんど眠った状態を維持することができる。死ぬことはない。私たち女子攻生は餓死なんかしないからね」
「そんなの……」
可哀想だ。けど、唯一の存在理由を失ったままでいさせるのと、どちらがキューにとって苦痛なのか。
「存在理由……か」
オーは窓に近寄ると、外を眺めた。真っ赤な髪が光に透けてグラデーションとなり、波打つ血の海のようにも見えた。
「いつも思うんだ。あの戦争……人間も、私たち女子攻生の仲間も、次々にそれは惨く、悲惨に死んでいった。けど、私は生き残った。私たち女子攻生は、あの戦争に勝つためだけに生み出された人工生物だ。けど戦争は終わり、人類は緩やかに絶滅しようとしている。なら、私はどうして生きている? 私の存在理由はもう無いのに……」
そこまで言うとオーははっと気がついて、私の方を向いて笑みを浮かべた。
「ごめん、変な事を言った。さ、キューのことは任せて。明日にもルィには仕事をしてもらう事になるからね。それがこの村で生きていく決まりだから」
オーに追い出されるように小屋を出た私は、あてもなく村の中を歩いていた。
村の人の多くは私に奇異の目を向けるが、オーの知り合いだと認識しているからか、特に関わろうとしてこなかった。
オーと共に昇った2階席の一部の場所に近づいたときであった。
「あれ、ルィさん?」
振り返ると、ミミがキョトンとした顔でこちらをみていた。横にはリウもいる。
「何してるの2人とも?」
「ちょっと用事で、ここを昇るところです」
ミミははしごを指差した。
「あー……そうなんだ。頑張って」
嫌な予感がして、私はくるっと背を向けた……が。
「ルィさんも来ます? 見晴らし良くて気持ちいいですよ」
「えーっと……その」
なんてことを笑顔で言うんだこの子は。悪気がないのが一番良くない。
「やめとけってミミ。どうせ怖くて登れね―って」
リウはそう言うと、笑いながらはしごを昇っていった。
「そんなことあるわけないよ、子供じゃないんだから。すみません、ルィさん」
「いやいや……気にしないで……」
「じゃ、せっかくだから登りましょう」
もしかしてわざとじゃないだろうな……。引っ込みがつかなくなった私は、ミミの後を追ってはしごに手をかけた。
少し漏らしたかもしれない。
2度目なら慣れていると思ったんだけど……オーという絶対的なセーフティがない中でのはしご上りは、恐怖でしかなかった。
それでもどうにか登り終えた自分を褒めてやりたい。こんな世界じゃなければ、甘いものをご褒美にたくさん食べたい。
先に登り終えている二人の方を見ると、リウが何やらゴツい双眼鏡のようなものを持って西の方を見ていた。
「どう? リウ」
「うーん。どうだろ。今んところ見えないけどなぁ」
「どうしたの?」
怖がっていることを悟られないようにできる限りの笑顔を作って2人に聞いた。
「キナコが村から逃げちゃって」
「キナコ?」
「村で飼ってる猫です。飼ってるっていうか、家族みたいな感じで。けど、ご飯の時間にリウの不注意で」
「違うって! 壁に隙間が空いてたの!」
「で、リウがその隙間から見たときは西の廃墟群の方へ走っていったみたいで。それでここから見えないかなって」
西の廃墟群。リウが双眼鏡を構える方向からも、それはオーが言っていたIUVの基地跡がある場所だった。
「やっぱ大人の人たちに言ったほうがいいよ」
ミミが心配そうにリウに言った。
「ばかやろう。キナコ逃して、しかも見つからなかったなんてバレたら、村中から石投げられるぞ」
「そんなことされないって……せいぜい吊るされるくらい」
どちらにせよ、この時代の子供を反省させる方法は荒っぽいようだ。
「……あっ!」
リウが大きな声を出して、双眼鏡から目を離した。
「いた。やっぱ廃墟群に入っていった」
「えー……どうしよう」
「連れ戻すしかないだろ」
「しょうがないなぁ……」
そう言いながら、リウとミミははしごを降りようとしていた。
「ちょっと待って!」
2人が不思議そうに私を見る。
「2人で行くの? あそこに?」
「そうだよ。あっ、みんなには内緒だからな」
リウが言う。
「危険じゃないの?」
「実は……内緒にしてて欲しいんですけど、私たち小さい頃から何度かあそこ行ったことあるんです。何か見つからないかなって。だから大丈夫です」
ミミが恥ずかしそうに言った。
2人がこれからこっそりと向かう場所にはIUVの基地跡、そしてFBSがある可能性がある。
FBSがあれば、キューは全快する。けど、オーが言うように、キューをこのまま眠らせたままでいてもいい。
だけど……そんな事ができるわけがない。キューは生きているんだから。
それに、何も知らされずにずっと眠らされるなんて……まるで私のようだもの。
私は、2人の顔を見て、お願いした。
「ねぇ……私も連れて行ってくれない?」
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