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ここは終末世界、私は女子攻生と旅をする。  作者: 播磨播州
旅の始まり編
14/43

14話 決死のキューと謎の少女

地面に到達したと同時に、体に衝撃が走る。だけどその衝撃は何か柔らかい場所に強く叩きつけられた程度だった。それでも一瞬だけ意識が飛んだ。


「……目を覚まして、ルィ」


 キューのくぐもった声で意識を取り戻す。

 目を開くと、雨が降りしきる空が見えた。急いで体を起こして、下を見る。

 私の下に潜り込むようにキューが倒れていた。キューはあの一瞬で私を抱え、落下の衝撃を全て受け止めてくれていたのだ。だがそのせいで、キューは立ち上がれないでいた。


「ごめん……大丈夫?」


 キューを抱えるようにして体を起こす。


「私は大丈夫ですから。それより」


 キューに誘導され、視線を前へ向けた。

 犬型インルーラーが、斬られた触手を振り回しこともなげに立っていた。


「どうした。立ち上がれないのか」


 犬型インルーラーが問うように言った。その言葉はキューに向けられている。

 人間のように、犬型インルーラーはため息をついた。


「私は、勘違いしていたようだな。あの時……あの戦争で出会い戦ったやつらはとは大違いだ。お前は、ただの人間だ」


 キューはよろめきながらもどうにか立ち上がると刀を抜いて言った。


「違う! 私は、女子攻生だ!」


 すると犬型インルーラーの全身がぶよぶよと動き出す。


「女子攻生……そうだ、そんな名前だった。誰もが戦うためだけに生み出された、人間が作り出した玩具。多くの仲間がやられた。その強い力で」


 犬型インルーラーはあっという間に体の形を変えると、まるで人間の姿となった。

 いや、人間の姿というよりも……頭から生えた獣耳、お尻から伸びるシッポ。 

 まるで、キューのような少女の姿となった。


「これだろう? 女子攻生というのは」


 声も少女のように甲高く変化している。

 キューの表情が曇る。同じ仲間の姿に対しての怒りにも思えたが、どこかいたたまれなさそうな表情に感じた。


「……その姿……どうして」

「私達は、これまで寄生したものなら何度でもその姿に変わることができる。そんなことも知らないのか」


 インルーラーは笑みを浮かべると、右腕の形を刃物のように研ぎ澄ませた。

 それは父がいた研究所で出会った、寄生された研究者の腕とよく似ていた。


「まぁいい」


 そう言った矢先、インルーラーがキューに向かって飛ぶように向かってきた。


「隠れて!」


 キューは私を突き飛ばすと、インルーラーが振り抜いた刃物状の腕を刀で受けた。

 私は咄嗟に廃ビルの柱の影に隠れ、その闘いに目を向けた。

 キューはどうにかインルーラーの攻撃を刀で受けてはいたが、傷のせいかエネルギー不足のせいか、反撃にでることが出来ないようだ。

 あのインルーラーはキューが言うとおりなら、寄生するという本能に飢えている。だから私かキューに寄生するまでは追うのをやめないだろう。


 だから、逃げるのではなく……戦うしか無い。


 何か、何か手助けすることは出来ないか。

 私はそう考え、視線を巡らし、柱から身を出した。


 その時であった。

 右肩に強い衝撃を感じ、柱に打ち付けられた。次いで、燃えるように肩が熱くなっていく。


「ルィ!」


 キューの声が聞こえた。そのまま視線を自分の肩へ向ける。そこにはインルーラーの左腕もが刃物状となって伸び、私の肩に突き刺さっていた。

 傷口からは徐々に血が滲んでいくのが見えた。


「あ……あれ」


 私は状況が理解できず、混乱の中で肩に刺さったインルーラーの左腕に触れようとした。しかしインルーラーはそれを許さないように、さらに深く突き刺した。

 そこでようやく痛みが脳に伝達され、子供のように私は、叫んだ。


「ああぁぁ!!」


 逃れようの無い痛み。その痛みから逃げるように内蔵が全て口から出てきそうになり、吐き気を催した。嗚咽するも、痛みは一向に引かずむしろ強くなる一方だ。

 痛い、痛い、痛い。


「ルィ!」


 キューはそう叫ぶと、まっすぐにインルーラーへ向かう。

 インルーラーはすぐに右腕をキューに突きつけた。しかしキューは避けることもせず、切っ先を胸に受けた。

 そのままキューは止まること無く、インルーラーへ向かってさらに足を進ませる。

 切っ先は貫通し、キューの背中から刃先を覗かせた。

 インルーラーが射程に入ると、キューは自分の刀を振り上げた。

 だが同時にインルーラーは私に突き刺していた左腕を抜いて引き寄せると、そのままキューを薙ぐように切り裂いた。


 キューは腹部を大きく斬られた。

 それでもキューは動きを止めず、刀を振り抜く。

 空中にインルーラーが寄生していた女子攻生の首が飛んだ。



 頭部を失ったインルーラーは力なくその場に倒れた。

 少し遅れて、キューも前のめりに倒れ込む。私は痛みに耐えながら、キューの元へ駆け寄った。


「キュー……キュー……」


 私はキューを動かせる左手で抱え起こして揺さぶる。しかし、キューは目を閉じたまま答えなかった。胸や腹部からは血が止まることなく溢れ、雨で地面に流れ出している。私の肩口から流れる血と混ざり合う。キューの血は、人間の血とは少し色が違うようで少し濃かった。そのせいか私の血と混ざるとグラデーションのようになった。


 と、目の前で何かが動いた気配がした。キューを抱えたまま、顔を向けた。

 頭部が無い女子攻生型のインルーラーがゆっくりと立ち上がった。


「……そんな」


 首の無い女子攻生型のインルーラーの胸元がパックリと縦に開き、細長い牙が映え揃った口となった。その奥から湧き出すように声が漏れた。


「お前たちは、どこから来た?」


 その声はもう少女の声などではなく、詰まった排水溝のような嫌悪感を感じる低音となっていた。そして目は無いのにどうしてか私の方を向きながら話す。


「まだ生きている人間はいるのか?」


 インルーラーの腕が再び鋭利に伸び、ゆっくりと私達の方にやってくる。

 咄嗟に私はキューを守るように両手を広げた。


「答えれば殺しはしない」

「殺さなくても、どうせ操るんでしょ」


 睨みつけて私は言った。


「こんな何もない世界で生きるより、私に全てを委ねた方が幸福を感じると思わないのか。どうにか今日生き延びても、明日は死ぬかもしれない。この世界はその繰り返しだ」


 インルーラーの言う通りだ。何もかもが手に入って、むしろ溢れてしまっていた世界で生まれた私が、真逆のこんな何もない世界でこの先も生きていけるかなんて確証は全く無かった。それに私がどうやってここまで来たかを説明するなんて簡単だ。


 だけど。


「そんな生き方するくらいなら、死んだほうがマシ」


 思わず笑みを浮かべてしまった。

 私の運命は、あの十七歳の誕生日に決まっていたんだ。三百年という長い年月引き伸ばされただけで、地球外から来た生命体に殺されるという

 運命は変わらない。そう考えると、笑えた。涙を流しながら。


「人間はいつの時代も愚かだな。だから魅力がある」


 私に伸ばされたインルーラーの腕の切っ先が形を変え、ニュルニュルと動く触手へと変わった。触手は私の顔や首元を弄ぶように這うと、先程突き刺して穴を開けた私の肩に触れた。


「うっ……!」


 痛みで声が漏れた。そんなことはお構いなしに、触手は肩の傷跡から流れる血に触れる。

 すると、どうしてか動きが止まった。


「……これは」


 インルーラーはそう呟くと触手を縮めて戻し、口元に持っていって舐めた。


「……?」


 何やら気分の良いものでは無いが、突然のその行動を私は眺めるしかできなかった。


「お前は、まさか……そんな……どうして生きているんだ」


 インルーラーが私を見て、驚きの声で問いかける。

 当然私は、


「は?」


 と、アホみたいな顔で答えるしかなかった。


「いや、そんなことはどうでもいい……こんなに嬉しいことはないのだから!」


 インルーラーはそう叫ぶと、全身からありったけの触手を生やした。その姿は見覚えがあった。あれだ。九州の方の特産の、イカのシュウマイ。あれにそっくりだ。

 なんて事を考えている間に、インルーラーは触手を動かしながら私に向かって来た。



 その時。



 空気を切り裂く音がして、インルーラーの体に何本もの真っ赤な矢が突き刺さった。

 矢は帯電を始めたかと思うと、大きな破裂音を響かせて真っ白な光りを放った。

 思わず私は目をつぶる。


「……なに⁉」


 光のせいで視界が、轟音のせいで耳が一時的に使えなくなり、少しの間耳鳴りだけが響く静寂が訪れた。

 目が慣れゆっくりと目を開くと、私の前に誰かが立っているのが見えた。

 キューではない。


 キューよりも少し低い背丈。真っ赤なセミロングの髪。手には機械的な形をした弓と、背中には数本の矢が携えられている。どちらも血のように赤い。

 そしてキューと同じ、小さな獣耳と、やわらかそうなシッポ、制服のような服装。


 インルーラーはその人物の前に投げ出されるように倒れ、焼け焦げて煙を上げている。オゾン臭というのだろうか、雷雨の時の匂いがした。

 目の前の人物はインルーラーが動かないことを確認すると、ゆっくりとこちらを振り返った。


「荒瀬ルィとキューだね」


 私を知っている。私達を知っている。

 私は小さく頷いた。


 すると、目の前の少女は


「私はオー。君たちを迎えに来たんだ」



 と言って、優しく笑った。


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