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ここは終末世界、私は女子攻生と旅をする。  作者: 播磨播州
旅の始まり編
12/43

12話 犬型インルーラーとの遭遇

 私達は戦車の残骸に身を隠し、辺りに何かいないか探した。


「気のせいじゃないの……?」

「いえ」


 キューが上を見る。すると、3階部分まで崩れた廃墟から、影が音もなく落ちてきた。

 私は目を凝らしてその影を見た。するとそれは影ではなく、1匹の犬のような生き物であった。だが、明らかに犬ではない。体毛は無く、皮膚は血色が悪そうな紫色をしており、背中の部分に隆起した皮膚が一本、風になびくように突き出していた。


「なにあれ……犬、じゃないよね」

「あれは……インルーラーです」


 キューが以前教えてくれたのだが、例えば地下鉄跡で私を食べようとしていたミュータントは、インルーラーが寄生したことで生まれた化け物ではあるのだが、正確にはインルーラーそのものではないそうだ。


 インルーラーと呼称されるのは寄生している大元で、親機とも呼ばれている(父も言っていた)。

 その親機が「命令受信体」という命令を送り込む器官を植え付けたのが、ミュータントと呼ばれる(父の研究所で襲ってきた研究員たちもそう)、元人間や元他の生物たちだ。


 ミュータントはインルーラーに「命令受信体」を埋め込まれても、攻撃命令が送り込まれない限りは外見などに変化はなく、人間であればこれまで通りの生活を送る。

 だが、ひとたび命令を送り込まれ、攻撃態勢に身体が変化すれば、記憶も知能もなくなり、ただ親機であるインルーラーの命令を実行する操り人形になる。


 ミュータントのその殆どは戦争で人類と戦いを繰り広げたが、戦争後は親機からの命令を失いただ動くものを襲う。まさに映画に出てくるミュータントとなっているそうだ。


「じゃあ、あれは親機ってやつ?」

「ええ。あの背中の触覚。あれがインルーラーの証です」

「インルーラーって、ミュータントとはどう違うの?」

「インルーラーには知能も自我もあります。寄生した生物の記憶や知識、経験を奪うからです。だから中には、並の人間よりも知能のある個体もいたと聞きます」


 じっと止まり、触覚のような部分が小刻みに動く。まるで何かを探しているようだ。


「どうする? 戦う……?」

「間違いなく私達に気づいてるので、戦うしかないですね」

「今、どれくらいエネルギーが落ちてるの?」

「今の私は、ルィ8人分くらいです」

「あーなるほどね……え?」


 それって十分強いと思うけど。もしかして、私って8倍になってようやく1人前くらいって思われてる?


「それって強いの? 弱いの?」


 そう小声で私は言いながら、犬型インルーラーの方を見た。

 だが、そこには姿はなかった。


「ルィ、逃げて!」


 キューが叫ぶ。体に強い衝撃が走り、私はその場から押し飛ばされた。

 キューが力いっぱい私を押し飛ばしたんだ。


「キュー!」


 顔を上げてキューを見ると、いつのまにか犬型のインルーラーは私達の背後に回り込み、触覚のように漂わせていた体の一部を硬化させてキューの胸を貫いていた。キューが背にした戦車の残骸に突き刺した触覚がぶつかった、金属音が辺りを包む。

 キューは痛みに耐えるように顔をしかめ、刀を抜いて犬型インルーラーを薙ぐように振り抜いた。

 しかしその斬撃は空を斬るだけだけで、犬型インルーラーは軽やかに後ろに飛び退いていた。


「大丈夫⁉」

「来ないで!」


 私が駆け寄ろうとするのを声だけでキューは制止する。その目は犬型インルーラーを突き刺すように見つめたままだ。


「私は大丈夫」


 キューは何事もなかったように立ち上がり、犬型インルーラーに刀を構えた。

 犬型インルーラーは犬とは思えない奇怪な笑みを浮かべ、驚いたことに人間の言葉を発した。


「まだ生き残りがいたとは。やはり人間はしぶとい生物だ。嬉しいぞ」

「喋った」


 私は驚き、思わず声にしてしまった。犬型インルーラーは、私の方に目を向ける。恐ろしさと、得体のしれない気持ち悪さが私の全身に走った。


「どこに隠れていた?」


 犬型インルーラーはキューに突き刺した触覚部分を口元に持っていくと、長い舌で触覚についたキューの血を舐めた。味わうように舐めると、小さく頷き、キューを見た。


「この味。なんだ、人間ではないのか。お前はあの人間の玩具たちの生き残りだな。どうりでまだ生きているわけだ。だが」


 犬型インルーラーが蔑むような目で私を見た。犬なのに間違いなく私を馬鹿にしているとわかるような目だ。


「お前は脆弱な人間にしか見えん」


 どうしてかみんな私をひ弱な存在としか見てくれないみたいだ。当たってるけど。


「私は玩具じゃない。女子攻生だ」


 そう言うとキューは犬型インルーラーに向かって駆けた。再び触覚がキューに襲いかかる。キューは触覚が当たるギリギリで上半身だけを後ろに反らし、膝を曲げてスライディングのような体制で避けた。キューを通り越した触覚が空を切る。

 すかさずキューは片手で触覚を掴むと、反対の手に握った刀で触覚を切り裂いた。


 犬型インルーラーが呻くような声を上げる。

 そのままキューは犬型インルーラーに向かい、刀の切っ先を突き出した。

 しかし突き出した刀は弾かれた。犬型インルーラーの体から2本も触覚が増えて飛び出し、またもやキューの肩と足を貫いた。その一撃でキューは刀を取り落としてしまった。


 キューがすぐさま落とした刀を拾おうと、触覚が突き刺さったまま手を伸ばしたが、さらに犬型インルーラーから1本触覚が伸び、キューの刀を弾き飛ばしてしまった。

 3本目の触覚がキューの顔めがけ向かった。すんでのところでキューは触覚を両手で掴んで止めた。


「キュー!」


 私はまた叫ぶだけしかできない。


「ルィ! こいつは私が押さえておきます。今のうちに逃げて!」

「けど、キューはどうするの⁉」

「私のことはいいから……早く!」


 キューがそう叫ぶと同時に、犬型インルーラーは触覚を突き刺したままキューを軽々持ち上げ、戦車の残骸に投げつけた。キューがぶつかった衝撃で戦車の残骸の側面がへこんだ。それでもキューは触覚を握ったままだ。

 犬型インルーラーが小さく笑った。 


「お前、弱いな。本当にあの戦いで、我々の仲間を多く殺した奴らか?」


 しかたないじゃない。今、キューはエネルギー不足なんだから。


「ルィ、いいから行って! こいつは私がどうにかしますから!」


 キューが私に叫ぶ。


「その弱さでどうするって?」


 犬型インルーラーは笑うようにそう言うと、再びキューを持ち上げては戦車の残骸や地面に叩きつけていく。キューは痛みに耐えるような声を上げながら、なおも私に逃げろと言い続けた。

 どうすればいい。どうすれば……って、逃げる以外に方法なんて無い。私にできることなんて何もないのだから。キューはどうにかするって言った。それを信じるしかない。

 私は一刻も早くこの場から逃げ出そうと振り返った。


 けど、逃げてどうする? この世界で私はキュー無しに生きていける?

 いや、その前に。

 ここで逃げ出すことが、本当に選ぶべき道なのだろうか。

 これが、最善の手で、これが後悔しない選択なのだろうか。


 私は立ち止まり、キューに振り返った。

 やることは一つ。目指すべきは、一箇所。



 キューが握っていた三本目の触覚が彼女の手から引き抜かれ、犬型インルーラーの顔の横でフヨフヨとキューを挑発するように動くと、先端が食虫植物のように割れた。中には幾つも小さな突起があり、中心から細長い針が突き出してくる。


「私にその体を捧げるか、その体が朽ちるまで私のために生き続けるのか。どちらがいい?」


 犬型インルーラーはまた奇怪な笑みを浮かべた。

 キューは空いた手で、肩に突き刺さった触覚を抜こうとしながら答えた。


「死んだほうがマシだ」

「そうか」


 犬型インルーラーは思案するように首を傾げ、言った。


「4本脚にも飽きていたところだ」


 音もなく、針がキューの額に向かって伸びる。


「キュー!」


 私は飛ばされていた刀を拾い上げ、キューめがけて投げた。届け!

 刀は奇跡的にキューへ向かって回転しながら向かっていく。だがそれよりも早く針の出た触覚がキューの眼前に到達しようとしていた。


 咄嗟にキューは両手で触覚を掴む。そして体を少しひねると、飛んできた刀の持ち手を口で噛み、咥えた。

 そのままキューは体をねじって刀を振り、触覚を3本とも切り裂いた。


 犬型インルーラーから、痛みに耐えかねる悲痛な叫び声が上がった。


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