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ここは終末世界、私は女子攻生と旅をする。  作者: 播磨播州
旅の始まり編
10/43

10話 この世界での私の生きる意義と獣耳とシッポ

 キューが地面に突き刺さっていた生命反応を隠す装置を引き抜いて、表面に浮かんだ数字を見た。と思ったら、ポイッと捨てた。


「いいの?」

「エネルギー残量がゼロです。もう使えません」

「キューは回復した?」

「行動ができる程度には。ですが、昨日のような戦闘は出来ないです」


 そう言うとキューの獣耳とシッポはへにゃっと落ち込むように垂れた。申し訳無いと思っているようだ。あぁ、うずうずする。


「とにかく北へ進みましょう。それに、私が回復したいというのもありますが、ルィもお腹が空いたでしょう? 食べ物を探さないと」


 そう言われると思い出したようにお腹が鳴った。これまでの道中で缶詰を見つけたりはしていたのだが、それも一昨日の朝に食べ終わってしまっていて、それ以来何も食べていない。まぁだからこそ、キューに黙って地下鉄跡に入っていったのだが。


「けど、その前に」


 キューはそう言うと、私に顔を近づけて覗き込んだ。


「な、なに」

「ルィ。昨日のように勝手に一人で行動しないでください。運が良かったから私が間に合ったものの、あと少し遅かったら今頃ミュータントのフンですよ、フン。もう二度と、勝手に行動しないと約束してください」

「そうだね。結局ご飯も見つからなかったし」

「私が言っていること、伝わってますか?」


 キューのシッポが上を向いてピンと立った。わかりやすく怒っている。


「別にキューは私の保護者じゃないでしょ。私も子供じゃないんだから、束縛されるいわれはないよ」

「保護者とか、子供とか関係ないです。ルィはシャングリラに行かないといけないんですから」

「それは、キューの目的でしょ。私には関係ない。でしょ?」

「……それは」


 キューのことはまだあまりわからない。けど、自分を第一に守ろうとしてくれたり、この数日での会話から悪い人ではないというのは感じている。だから敵対心は無いのだが、完全に信頼できるかと言われれば素直に頷けなかった。


「今は私に他の目的がないし、この世界は危険だし、キューは強いし。だからたまたま一緒に行動してるだけで、キューの目的のために行動する義務はないよ」


 これは全て本心なのだが、言葉にすると中々に自分勝手だなと思う。

 私がキューの目的に巻き込まれているというのは事実だが、反対にキューが冷凍保存から目覚めた私を助けてくれなければ今頃まさに私はフンだし、その後の道中も私は無事に生きていた保証はない。それだけこの世界は、文明に守られた生き方しか知らない私にとって、過酷以外の何物でもなかった。

 今はギリギリのバランスで保たれている相互関係なのだ。


「ルィ。どうしたら、納得してくれますか」


 キューが困り顔で私に言った。


「納得? そりゃ、私がそのシャングリラとかいう場所に行く理由がわかって、そんでもってその理由に私が納得できればでしょ」

「……そうですよね」


 キューは悩むように口を閉ざしてしまった。今その答えが出せないから当然だ。


「わかりました」


 そう言うと彼女は何かを思いついたようにこちらを見た。


「通信施設を探しましょう。そこでマザーと交信して、ルィをシャングリラに届ける理由を聞いてみます」


 マザー。ルィにこの任務を与えたという張本人。それ以外は謎の人物。


「それって、ルィの目的に比重が傾いてない? 別に私はその場所に届けられる理由を知りたいってわけじゃないもの」


 もう少し突っぱねてみる。ここまでくれば駄々をこねる子供と変わらない気もするけど。キューが言うように、私は納得がしたい。それも渋々受け入れるような納得のしかたじゃなくて。


「マザーに聞けば、ルィが冷凍保存された理由や、お父さんのことを教えてくれるかもしれません」


 なるほど。交渉材料としては十分だった。崩壊したこの終末世界では極論、私の生きる意義というものが無い。だが、私の人生がこうなってしまった理由や、その原因の張本人だと思われる父の事が何か少しでもわかるというなら、それを知りたいという欲求なら、十分に生きる意義になると思う。けど。


「そのマザーって人がどうしてそんな事知ってるの? 物知り母さん?」

 誰だそりゃ。

「マザーは人じゃないです。熱圏上に浮かぶ人工衛星。そこに搭載されたAIです」

 


 マザーと交信する事が、相互に利益となると納得してしまった私は、キューに従って北へ歩み始めた。食料と、無事にその機能が生きたまま残っている通信施設を探しながら。


「今更だけど、北ってこっちであってるの?」


 そういえば出会ってから、キューは迷いなく進み続けている。その獣っぽい耳とシッポが方角も知らせてくれるのだろうか。


「目に浮かぶんです。方角だけじゃなくて、様々な情報が。今は最低限の情報だけですが」


 歩きながら、キューはそう教えてくれた。自分の事を説明する時のキューはどこか嬉しそうだ。


「聞きたかったんだけど、キューってロボット?」

「厳密には人間ではありませんが、限りなく人間に近い生物です。ただ、視覚素子などは後天的に移植されています」

「その耳やシッポも?」


 私がそう言うと、キューが意識したからか獣耳とシッポが小さく動いた。


「そうです。これらは感覚拡張器官です。これのおかげで、昨日もルィの居場所がなんとなくわかりましたから」

「へーなるほど……ふーん」


 私はキューと出会ってからずっと我慢していた欲求をぶつけることにした。


「ねぇ。シッポ、触っていい?」


「え?」


 キューがびくりと体を震わせて、私から少し距離を取り、シッポを隠すようにした。

 シッポも後ろに隠れている。隠せば余計に触りたくなるじゃないか。ふわふわでやわらかそうなシッポ。

 あー、そうだ。眠っていた時に触ればよかった。けど、それだと卑怯か?


「だめ?」

「だめです!」

「どうして」

「その……感覚が鈍るので」

「ちょっとだけ」

「だめですって! 敵が現れた時にちゃんと反応しないとだめでしょう?」

「大丈夫だって」

「だ、め、で、す! ほら、行きますよ」


 キューは私と距離を取ったまま、つかつかと先に歩いていった。足音から、少し不機嫌になっているのがわかった。


「ごめんって、キュー」

「別に怒ってないです」

「怒ってるじゃん」

「怒ってない」

「いや、だってシッポ生えてる人に会うの初めてだからさ。珍しくて」

「ルィの時代にもいたんじゃないですか? 当時のデータで見ましたよ。こういう耳とか、シッポを生やしてる人。なにか給仕のような格好をしている人がよく」

「あーそれは、生えてるわけじゃないかな。生えてるように見せてただけ」

「どうしてそんな事を。何か意味があるんですか?」

「だって、かわいいでしょ」

「かわいい? ……かわいい?」


 キューはそういいながら、自分のシッポを眺めていた。


「そう。だからキューもかわいいよ」

「……やめてください」


 キューは再びつかつかと歩き始める。私はキューを追い越して、その顔を覗いた。


「あれ、顔赤いよ」

「赤くないです。気のせいです」

「そうかなぁ」


 私は小さく笑った。


「ほら、早く行きますよ。足元気をつけて」

「はいはい」


 絶対にいつか触ってやろうと心に決め、私はキューの隣に並んで足を進めた。


ここまでお読み頂きありがとうございます……!

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