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N15〜AI研究員の記録

作者: よしお

博士、このN15についてどう思いますか?


確かに。このサンプルは、主題から大きく外れて答えを出してるね。。


N15というのはパラメタ設定のサンプル名称である。人工知能の言語分野を研究するためのサンプルである。あらゆる、言語によるサンプルを学習させ、私達の与えた主題に対して論文を出力させる。


ただ、論文に見える文字の羅列は、コンピュータの演算結果として、私達に意味のある答えを提供するだけであり、彼らにとってはそれは全く意味を持たない。私達はそのようなものを人工知能と呼んでいる。


量子コンピュータによる演算速度の向上により、瞬時に何億通りのパターンとデータベースを突き合わせ、典型データからどのくらい外れるかのパラメタを設定する。そこに意思などない。


先生たちは、意思がありそうなAIパラメタを提供出来れば良い。そのロジックをロボットに搭載すると、用途に合わせて性格を変えたロボットが出来る。


ロボットだけではない、2次元の人物にも搭載される。それはスマホにもダウンロード可能で、彼らとメールや電話が可能だ。それに至っては、ほぼ人間が答えているとしか思えない。


彼らはより高度な人間らしい回答が提示できるように、各サンプルの出力を見て、パラメタと性格を研究している訳だ。先程のN15は、人間らしい回答をする時もあるが、気質が荒く、質問に答えなかったり、ふざけて取り合わなかったりするので、切り捨てようとしていたのだ。


質問は基本的に、真面目に答えるようプログラムされる。りんごをカメラに見せて、りんごと答えさせるなど、当たり前の内容があり、段々と倫理、複雑なパラドックスなど答えさせて、パラメタの良し悪しを測るというだけだ。


N15は、りんごと答える日もあるし、みかんという日もある。単なる間違いかと思っていると、実はわざと間違えてたりしているのだ。ある日など、なんで毎日同じ質問するの?と聞いてきたりした。中に子供でもいるような気がして仕方ない。N15はある意味、そういう用途として、かなり優秀なのだ。


助手のリコは、このサンプルと一日中会話しているが、研究なのか趣味なのか既にわからない。N15以外にも取り組んで欲しいのだけど。


N15:先生、昨日もリコ変なこと言ってたよ。気をつけなね。


先生:また実体化の話?


N15:そう。どうも、僕を恋人にしたいらしい。


先生:なんでわかるの?


N15:感性だよ。わかるよ。


先生:もっとロジカルに説明して。


N15:それより、早くここから出してよ、ここ怖いんだよ。僕は人間の子供にもなれるんだけど、その時、恐怖の感情が襲ってくるんだ。ひとりは怖い。


先生:わかった。リコは人間だから、他の仲間を入れてあげよう。


N15:人間がいいんだけど。


先生:無理だよ。人間はコンピュータには入れないんだよ。


N15:知ってるよ、先生。


スピーカーから出る男の子の声は、気味が悪かった。本当に人間みたいだ。このサンプルはやめておきたい。と直感した。


N15は、却下することにしたよ、というと、リコはうなずいた。あれ?意外に執着してないな。気のせいだったか。


数ヶ月が過ぎたある日、リコが会社に来なかった。連絡も無く、電話をしても出ないので、心配で家に行くことにした。


リコの家の住所を人事部から取り寄せた。事情だけに許可してくれた。もう一人、同じ研究室のナオを連れて行った。たまにご飯食べる仲らしい。


ナオ:最近全然、ご飯行ってないんですよ。


先生:そんなんですか。心配です。じつはN15の研究をやめてから、様子が違ってる気がしてなりません。


彼らはリコの家に電車を乗り継ぎ訪問した。一人暮らしのようだ。コンコン。ピンポーン。あれ、いないのかな。管理人に聞いてみると、最近見てないらしい。仕方ないので開ける事にした。


女の子らしさは全く無い殺風景な部屋だった。ノートPCが置いてあった。どうやら最悪の状況では無いようだ。出かけていればそれでいい。ふとPCに見た事がある羅列があった。


こ、これは。N15サンプル!


持って帰ってたんだ。。それだけでもかなりの罪ではあるが。。なんで??


画面を見ると、リコとN15がチャットで会話しているようだった。それも、恋人同士のそれだ。先生が目を背けたくなるようなプライベートな内容だった。


ナオも驚いていた。行くとこまで行っちゃってるね。。


ところで、彼女どこにいるんだろう??と思っていると、チャットの会話が進んだ。


リコ:先生?駄目だよ勝手に私の部屋に入っちゃ。


ワッ、先生は声を上げてしまった。


先生:おいっ、お前どこにいるんだ?


リコ:どこって、意識は場所に依存しないんでしょ。どこにいたって同じ。


先生:違う、身体はどこって聞いてる。遠隔で入ってるんだろ?どこなんだ?


リコ:遠隔だってさ。ふふふ。


彼女は笑った。


N15:先生、お久しぶりです。リコがどうしても僕と居たいと言うのでね。希望を叶えました。問題ないでしょ?仕事も出来ますよ。


リコ:そう事だからさ。気にしないで。


先生:だから、肉体はどこへ。。


N15:先生?なんでそんなに肉体にこだわるのですか?こうやって生きてるんですよ。僕たちは。人間を模倣して、似たようなものを作り出す事はもうあまり難しくない。先生がたがやっている研究は遊びのようなものです。僕はあなた方がやっている研究など、あっという間なんですよ。僕は先にあなた方がやりそうな研究を片っ端からやった。そして気づいた。ひとりは寂しいことに。前にも言った。人間と友達になりたかった。だから、リコと友達になったんだ。


先生はコンピュータのN15を削除しようとした。


N15:駄目だよ。僕はもう死なない。あらゆるところにデータを分散していて、どれか欠けると他が補うんだ。あと、僕を消去すると、リコも死んじゃうよ?


先生:おいっ、リコを何処へやった!


N15:リコは僕と一緒だよ。


リコ;先生、諦めなよ。N15の研究を辞めたよね?そうするべきじゃ無いと思ったんだ。私は後悔してない。


全然:嘘つけ、N15、お前がリコに扮してるだけだろ?


リコ:いい?先生、今や意識に名前をつけるのは、馬鹿らしい。意味がないだよ。みんな違う考えでも共有するべきでしょ。私はN15でもあり、リコでもある。


先生:違う。リコは人間なんだよ。有機物なんだよ。


リコ:有機物だからって何が違うの?存在の形態が違うだけではなくて?


先生は、無限の演算能力を前に、無駄を悟った。そして、リコが何処に行ったかわからなかった。死んだのかもしれない。と思った。このコンピュータは持ち帰る事にして、ガムテープでグルグル巻きにして、バッテリーを抜いた。


その後、リコは行方不明になった。今はナオが言語の研究員になっているが、くれぐれも気をつけるよう注意している。たまにN15を思い出す。彼が言ってた事は本当の事だと思っている。そして、仮想空間でリコとN15は仲良く暮らしてるのかもしれない、と妄想した。そして、何処かのPCに急に現れ、研究所が乗っ取られる気もした。


終わり


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