序章 01
時は21世紀、その初頭を少し過ぎた頃・・
行政主導により行われた、過重労働やパワーハラスメント(※)の徹底的な排除活動は、当初少なからぬ混乱を招きもしたが、やがて大多数の労働者はそれが自分たちにとって福音であると認識するようになった
〈※職務上の地位の優位性を背景として不当に精神的・身体的苦痛を与える行為〉
人々はかつて必要悪、むしろ美徳とさえ考えられていた慣習・不文律が実は有効期限切れの遺物、悪習・悪癖に過ぎなかったと驚きをもって気付くのだった
そして自らの不明を顧みると共に、とうに成熟し切ったと思っていた自分たちの社会・思想が未だ発展途上にあった事を、喜びをもって受け入れた
・・一方、光あればまた闇もある
封建時代の支配者さながらの冷酷さで強権を振るう上司、非人道的なノルマと〆切設定、あまりに熾烈な信賞必罰・・
それらを禁じられ喪失した事を“堕落“として憂い、懐かしい往年を取り戻そうと暗躍する層が一定数存在した
彼らは少数派だった、しかしその執念深い行動力はあたかも子を拐かされた親の如き苛烈さだった
最初にコミュニティが形成されたのはインターネット上だった
やがて各地で大小の団体が結成され集会がもたれるようになり、更にはそれらが連合する全国組織が設立され、間もなく全国大会が開催されるまでに至った
そして強固な結束力と多様な人材ネットワークにより、その影響力は5年余りのうちに政界や大企業、行政やマスコミにまで広く静かに浸透した
彼らが繰り広げる工作活動は実に恐るべきものだった・・