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9.初めての人間

 私は、また草をちぎって収束させるだけの作業に戻っていた。今は勝手に北と定めた方角に足を向けていた。

 何か目的があるわけではない。ただ、南には山が在ったから歩きにくそうという問ううだけの理由だ。

 あの場所にあのまま座っていたら、そのままずっとそこにとどまってしまいそうな無力感を感じたからとりあえず歩き出しのだ。

 今は何も考えずにできるこの作業が一番楽だった。

 永遠にも思える時間北上しつつ草玉を作るという作業を繰り返していた。すると、突然めまいに襲われた。

「っ…やぱり魔力切れかな〜」

試しにもう一度収束を使ってみたら…

「あーーーフラフラするー」

その場に座り込んで休憩をすることにした。背負っていたかごから座布団のようなものを引っ張り出し、お尻の下に敷いて、久しぶりに開く気がする魔法の欄を開いた。

 魔法の系統のページにある熟練度をみてみた。

 火の系統の熟練度ページは、『操作』はあまり成長してなかったが、それ以外の項目はそこそこ成長していた。とくに、『強度』と『精密』が他のと比べると比較的成長が早い。おそらく、火をつけるのに温度の高さを上げることと、一つ一つの魔法を同じ場所に当てる事に集中していたのが良かったのだろう。

 次に無系統魔法の熟練度のページを見てみた。するとびっくり。すべての項目がかなり上がっていたのだ。無系統魔法は、収束の魔法を使いまくってるおかげで、熟練度がそこそこ上がっているのかもしれない。魔力は、さっきの火の系統魔法のときと上がり具合が違うところを見ると、それぞれ別に増えていくみたいだ。ならば使える魔力はどうなのだろう?そう思って、

「着火」そう唱えた途端、頭に鋭い痛みが走った。

(使える魔力も一緒になるのか…とりあえず、魔力が回復するまでここで休憩だな…)

頭を抑えながら、そんなことを考えていると、北の方から声が聞こえてきた。草原からあまり顔を出さないようにしてそちらを見てみた。さっきのこともあるから、地面近くも見ないといけないな…そんなことを考えていたが、その必要はなかったようだ。外に目を向けると、すぐに見つけられた。見たところ二十四・五人くらいの男女半々くらいの人の集団だった。

(この世界に来て初めての人間だ!挨拶しよっかな…)そんなことを考え、声をかけようとして思いとどまった。

 彼らは弓矢を始め、斧や棍棒のようなもの…武器と思われるものをほぼ全員が持っていたのだ。そして、武器を持ってない人は、荷車…というより、ソリのようなものを牽いていた。そのソリは、木をくり抜いただけのようなやつで、外側は丸太を半分に切った形そのものだった。その丸太の大きさは、牽いている人が二人横にならんで牽いてるから、直径がおよそ1メートルぐらいであろうか。そして長さは、私がギリギリ寝転がれるくらい−−1.5メートル程度−−はあるだろう。

 そしてそのソリが2つ。その積み荷は丸太と木の実や干し肉などの食料だった。ソリの直径より少し長いくらいの丸太がそれぞれのソリに十数本入っていた。この丸太はそこまで太くもなかった。ソリの太さと比較して考えるなら、直径が15センチくらいだろうか?

食料の方はたくさん入っていた。

(この人たち集落から来た木こりなのかな…けど、積荷があるということは、今木を切ったり食料を集めた帰り?)そんなふうに考えたが、それはないだろうと思った。今彼らは南下している。が、ここの南にはブラウンたちの巣があるし、山もある。とても人が住んでいるとは思えない。

 しかも、木を切って帰ってきたにしてはみんな表情が引き締まりすぎている気がする。それに、ソリを牽いている四人以外は、それぞれの武器を構えて周囲を警戒している。

そんなふうに考えていたら、話し声が聞こえた。

「キャプテン、今回の任務は、どうしてこんなに遠くまで来る遠征なんですか?」

「しょうがね−だろ!集落に収める食料のノルマをクリアするには、集落の奴らに獲物を取り尽くされていない遠くまで出る必要があったんだ!」

「けどよ、つっしー、あの集落の奴ら、こっちの足元を見て難しいノルマを貸してるんじゃないか?じゃなきゃこんなノルマをこなすあの集落の人たちの手でこの辺は荒野になてるぜ」

「そんなことはわかってる!それでも、ログアウトするときには集団に属してないとまずいだろ…今のところ見つけた集落はあそこだけだ、休日ならみんなで交代ずつログアウトすればいいだろうけど、平日の俺達は、日中のログインは不可能、その時間も安全を守ってくれる集団に属さないといけない。」


なるほど、北の方には集落があって、そこに属するためにこうして言われたノルマを果たすために遠くまで来たのか…

確かに、ログアウトした後に体がこの世界に存在し続けるこのゲームでは、ログアウトしている間に自分を守ってくれる集団に属してないとほぼ確実に死ぬだろう。

けど、抜け殻になったからだっも全く動かないわけではない。食料を置いていればそれを食べるくらいのことはする。しかし、人や動物などに襲われたときは、無抵抗にされるがままになってしまうのだ。

だから私は、これから人がいないところに行くに当たって、そのへんの対策はよく考えていたの。動物からも人からも完璧に隠蔽できる場所に家を作って、そこに食べ物を集めてログアウトの間を乗り切ろうと思っていたのだ。

しかし、これは私のような一人の人にしか取れない選択肢である。大人数の場合、とてもじゃないがその人数を入れる、しかも隠蔽が完璧な家を立てるなんて無理なのである。しかも、それが出来たとしても、ログアウト中の食べ物が膨大な量になって、みんなの分を一度に確保しようとすると大きな倉庫が必要になるだろう。だからこの人たちは、理不尽な条件を飲まなければならなかったんだろう。


「でもこんな遠くまで出てきて獲物が少なかったら、持ってきた食料と釣り合わないよ、そしたらログインする前に餓死するよ?」

「それが、ちゃんと情報を仕入れてから来たから、大丈夫なんだよ。」

「情報って?」

「この前、集落でこんな噂を聞いたんだよ『ずっと南の山の麓近くに穏やかな性格のネズミがいた』俺はこれを狙ってるんだ。」


(え、そのネズミってブラウンたちのことだよね…)


「キャプテン…それただの噂ですよね?」

「いや、噂の中には目撃情報もあったんだ。何でも、猫くらいの大きさから、その五倍くらいの大きさのやつがいたらしい。この内猫の五倍ある方が今回のターゲットだ。」

「あー、だからこのソリも持ってきたんですね。」

「集落に置いてきたら盗まれそうな気もしたしな。」

 

 そんな感じで、いっとき集団の話を聞いていたが、そのうち聞こえなくなった。

「休憩してる場合じゃなくなったな。」

急いで座布団をかごに戻してさっき草を収束しながら来た道を今度は、走って(集団のそばを通り過ぎるときは少しかがんで)もとの位置まで来ると、さっきブラウンと話していた草原の出口を、近くに生えていた草できれいに偽装して、集団が通り過ぎるのを待った。

そうしていっとき待つと、もう話をせずに張り詰めた顔をしながら私の目の前を通り過ぎていった。それからもういっとき待って、草原を出て森の入った。森の中に入って、いっとき歩いていると、獣道のようなものを見つけた。そこは、猫ならやっとで通れそうな細さだった。しかし、小柄な私なら四つん這いでなら通れそうだった。一瞬、ここを通っていったらブラウンに殺されてしまうかもという考えが頭をよぎったが、それでもブラウンたちに助かって欲しいと願う気持ちが恐怖を上回り、獣道へと足を踏み入れた。

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