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運命の誕生日電車

作者: 伊月

一度に1000人を運ぶ箱は毎日忙しく走り回る

平日の朝、いわゆる通勤ラッシュには

みかんのように箱に詰められて運ばれる人も

休日の終電ともなればすっかり疎らになる


オシャレなレストランでディナーを楽しみ

誕生日のプレゼントを渡し

少し早い気もするイルミネーションまで回って

すっかり冷めてしまった手を暖める


今日は、世界で1番大切な人の誕生日

彼がこの世に産まれた日

そして、彼と私が初めて出会った日


5年前のあの日

まだ高校生だった私達は

休日の昼間に走っていた、まさにこの車両で出会った


友達と遊ぶために移動していた私と

家に帰るために移動していた彼


秋も終わりがけだと言うのに

異常な程の人口密度で暑苦しい車両


自分よりはるかに背の高い人達に半ば潰されながら

なんとかドア付近に移動した時だった


電車が大きく揺れ、彼が倒れてきたのだ


俗に言う『壁ドン』の状態で

バッチリ目の合ってしまった私達


先程までの暑苦しさは何処へやら

背中に冷や汗が伝うほどの緊張が二人の間に走っていた


この満員電車の中、動くのも簡単ではなく

壁から手を離してしまえば

前、つまり私に向かって倒れ込むことになる彼は

申し訳なさそうな顔で壁に手を着いていた


程なくして、この状態になる前よりも

圧迫感がないことに気づいた


見ず知らずだった彼は、私にくっつかないようにか

優しさ故か、自分を壁にして

私の周りに少しの余裕を作ってくれていた


結局、下車駅が同じだったらしく

最後までその状態だった私達は

周りの客に押されて

2人揃って改札の外まで流された


とりあえず、壁になってくれたことへの

お礼が言いたくて振り返れば


彼の「ごめん!」という声と

私の「ありがとう!」という声が見事に被った


驚きながらも、なんとなく笑えてしまって

2人で駅を出ながら談笑


そのまま、今になってみれば何故か分からないが

連絡先を交換して、程なく付き合い出した私達


ふと、その話を隣で眠たそうに瞬きをしている彼に持ち出せば


「あれは緊張したよ……」


なんて、苦笑いをこぼす


今、こうして隣に居れるのも

付き合うきっかけになったのも

彼が生まれてきてくれて

この電車に乗っていたから


今日という記念日とこの電車は

私達を繋いでくれた


私達は、今日限定でこの電車を敬意を持って__

っていうのは大袈裟かな

でも、しっかりと感謝を込めて

『誕生日電車』と読んでいる


運命の赤い糸、なんて、よく言うけれど

もしかしたら私達に通っているのは

赤い糸、なんて可愛いものじゃなくて

この誕生日電車なのかもね_______

オリジナルの名詞を作ってみました!

運命の『赤い糸』じゃなくても良くないですか?

でも、電車はちょっとごつかったかな(笑)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読後感が心地良いです。 うん、とっても良かった。
[良い点] 詩と短編小説の中間にあるような、不思議な読み心地がとても良かったです。二人に祝福あれ。
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