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とある私の皮算用。

作者: 口田 今日士
掲載日:2018/01/12

どうもこんにちは。

久しぶりに書きたい小説が書けた気がしないでもないです。

よければ見てやってください。

「へぇ、それで?」

もう何度目かの彼のその言葉に私は頷きつつもこう返す。

「つまり私は御社にとって必ず役に立つ人間であるということです!」

言い切った私は心の中で、

「勝ったな」

とつぶやいた。

「どうかしましたか?」

むっ、顔に出てしまっていたようだ。

愛想笑いでどうにかごまかした。

危ない危ない。バレてはないはずだ。多分。

もう就職活動はこりごりなのだ。

今日だって家を出る前にお母さんに啖呵を切ってきた。落ちるわけにはいかない。

というか落ちるわけがない。特に今回は調子がいい。他のリクルートスーツに負けるはずがない。

面接室を出て、近くのカフェに入るまで一切気を抜かず、神妙な面持ちですれ違う人々を振り向かせてきた。

運ばれてきたコーヒーに口をつける。カップから立ち上る湯気で少し顔が濡れた。

喉に流れ込んだ温かい苦味が五臓六腑に染み渡る。私は天井を仰ぐ。

「今日の反省開始」

朝、早起きして今日1日を生きるエネルギーを太陽からもらう。

手短に朝食を済ませ街に繰り出す。ここまでは完璧だ、100点!

駅前のカフェだけでは時間を潰し切れず、1時間ほどカラオケで熱唱した。

店を出ると12時を少し過ぎたあたりだった。定食屋さんで安く済ませた私は、いよいよ面接に赴いた。

面接の内容はあまり覚えていない。今日の総評24点。赤点だ。

なにをやっているのだろうか、私は。お母さんには3社の面接が控えていると伝えた。

おそらく彼女は気づいているのだろう。哀れみの目で見られた。

心中は想像に難くない。きっと呆れることすらも超えたのだろう。悲しい。

私だって呆れている。なぜこうも、と考えない日はないくらいだ。

子供の頃は夢や希望があったし、それを叶える自信もあった。

はじめはケーキ屋さんだった気がする。あっま〜いケーキをたくさん食べられるから、という理由だった。

ところが現実はそう甘くない。苦いくらいだ。

5年間練習に励んだが、円形のスポンジを超える味を生み出すことはできなかった。

最後には甘いものを見たくもなくなった。私は根っからの不器用だった。

ものを作るよりも壊すことに喜びを得た。完成間近で壊れていく様を見るのがこの上なく面白かった。

そんな私でも将来大人になれば、なにかにはなれると思っていた。

いや、何にでもなれるとさえ思っていた。もしタイムマシーンがあるのならあの頃の私に言いたい。

「君は何物にもなれない落ちこぼれだ。自分の大きさを見紛うな。何もできないのだから。

悔しかったら私に内定を与えてみろ!」と。

今思えば、私にそう言ってくれる人をずっと待っていたのかも知れなかった。

私の道を正してくれる。そんな看板人間を欲していたのかも知れない。

ただ、私は否定が欲しかった。違うよと言って欲しかった。

そうして、私がいかに特別な人間でないかを教えて欲しかった。

我ながら贅沢な悩みだと思う。やりたいことをやらせてもらってこうなのだから。

罪だ。重罪だ。膝を強くつねる。

痛い。

この痛みが少しでも贖罪になればいいのだが。神様のバチは小分けにしてくれないと身がもたない。

ここまで考えて、ようやく私は戻って来た。

もう2時間も経っていた。店員が早く帰れと言わんばかりの目で私を見ている。

ふん。誰が帰ってやるもんか。もう一杯コーヒーを注文してやろう。

などと下らないことを考えていると、不意に携帯電話が鳴った。



父が死んだ。仕事先で、だ。

心臓発作らしい。何が起こっているのかよく分からない。

なんにせよ突然のことだった。

家の空気は重苦しく、母の泣く声だけが私に聴覚があることを思い出させた。


人の心は大都会だ。

そこかしこに煌めきがあり、僅かな距離でさえも大きなビルで回り道。

誇大広告であふれたその街では本質を見失ってしまう。崩壊は常に寄り添っている。

私は泣けなかった。決して父が嫌いだったわけではない。受け入れられなかったわけでもない。

資格がなかったのだ。父の時間を削った償いがまだ済んでいないのだ。1ミリたりとも。

償いをして、返上をして。そして初めて家族になる。孝行と人は呼ぶのだろう。

私は家族になれなかった。家族にもなれなかった。

死んだ人間がどこへ向かうのだろう、と昔はよく考えた。肉体は残っているのに、どうして人間という括りからはずれて消えてしまうのだろうと。

残された者たちが、その後どこへ向かうのだろうかなんて考えもしなかった。

成長、なのだろうか。

すぐに執り行われた葬儀では、みんな示し合わせたかのように泣いていた。

まるで死んだ父に、

「あなたは死にましたのでもう起き上がらないでくださいね」

とでも言っているかのようだった。

膝の痛みが引かない。頑固な神もいるものだ。

またもや私は落ちたらしい。


社会人5年目。媚びへつらうのにも慣れてきた。多分。

報われない私にはお似合いの職場を見つけたらしい。

壊すことの方が得意だった私の仕事が、人を助けることだなんてなかなか皮肉が効いている。

なんてことを、はじめはよく考え自分を嘲ったものだったが、最近ではそうでもないと思うようになった。

灯台下くらし。そんな見えないところに私はいたのだ。

大都会の崩壊は近い。今度こそは落ちるより前に昇らせて欲しいと思う。








好きなように書くと、どうしても少しダークなお話になってしまいます。

壊してしまいたくなるのかもしれません。罪ですね。

こうして認めることが一番美しい気もします。

自信のない私は幸せ者です。否定は自身で間に合っていますから。

読んでくださりありがとうございました。

もうしばらくは早めの投稿ペースで行こうと思っております。どうぞよしなに。

ではまた。

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