とある私の皮算用。
どうもこんにちは。
久しぶりに書きたい小説が書けた気がしないでもないです。
よければ見てやってください。
「へぇ、それで?」
もう何度目かの彼のその言葉に私は頷きつつもこう返す。
「つまり私は御社にとって必ず役に立つ人間であるということです!」
言い切った私は心の中で、
「勝ったな」
とつぶやいた。
「どうかしましたか?」
むっ、顔に出てしまっていたようだ。
愛想笑いでどうにかごまかした。
危ない危ない。バレてはないはずだ。多分。
もう就職活動はこりごりなのだ。
今日だって家を出る前にお母さんに啖呵を切ってきた。落ちるわけにはいかない。
というか落ちるわけがない。特に今回は調子がいい。他のリクルートスーツに負けるはずがない。
面接室を出て、近くのカフェに入るまで一切気を抜かず、神妙な面持ちですれ違う人々を振り向かせてきた。
運ばれてきたコーヒーに口をつける。カップから立ち上る湯気で少し顔が濡れた。
喉に流れ込んだ温かい苦味が五臓六腑に染み渡る。私は天井を仰ぐ。
「今日の反省開始」
朝、早起きして今日1日を生きるエネルギーを太陽からもらう。
手短に朝食を済ませ街に繰り出す。ここまでは完璧だ、100点!
駅前のカフェだけでは時間を潰し切れず、1時間ほどカラオケで熱唱した。
店を出ると12時を少し過ぎたあたりだった。定食屋さんで安く済ませた私は、いよいよ面接に赴いた。
面接の内容はあまり覚えていない。今日の総評24点。赤点だ。
なにをやっているのだろうか、私は。お母さんには3社の面接が控えていると伝えた。
おそらく彼女は気づいているのだろう。哀れみの目で見られた。
心中は想像に難くない。きっと呆れることすらも超えたのだろう。悲しい。
私だって呆れている。なぜこうも、と考えない日はないくらいだ。
子供の頃は夢や希望があったし、それを叶える自信もあった。
はじめはケーキ屋さんだった気がする。あっま〜いケーキをたくさん食べられるから、という理由だった。
ところが現実はそう甘くない。苦いくらいだ。
5年間練習に励んだが、円形のスポンジを超える味を生み出すことはできなかった。
最後には甘いものを見たくもなくなった。私は根っからの不器用だった。
ものを作るよりも壊すことに喜びを得た。完成間近で壊れていく様を見るのがこの上なく面白かった。
そんな私でも将来大人になれば、なにかにはなれると思っていた。
いや、何にでもなれるとさえ思っていた。もしタイムマシーンがあるのならあの頃の私に言いたい。
「君は何物にもなれない落ちこぼれだ。自分の大きさを見紛うな。何もできないのだから。
悔しかったら私に内定を与えてみろ!」と。
今思えば、私にそう言ってくれる人をずっと待っていたのかも知れなかった。
私の道を正してくれる。そんな看板人間を欲していたのかも知れない。
ただ、私は否定が欲しかった。違うよと言って欲しかった。
そうして、私がいかに特別な人間でないかを教えて欲しかった。
我ながら贅沢な悩みだと思う。やりたいことをやらせてもらってこうなのだから。
罪だ。重罪だ。膝を強くつねる。
痛い。
この痛みが少しでも贖罪になればいいのだが。神様のバチは小分けにしてくれないと身がもたない。
ここまで考えて、ようやく私は戻って来た。
もう2時間も経っていた。店員が早く帰れと言わんばかりの目で私を見ている。
ふん。誰が帰ってやるもんか。もう一杯コーヒーを注文してやろう。
などと下らないことを考えていると、不意に携帯電話が鳴った。
父が死んだ。仕事先で、だ。
心臓発作らしい。何が起こっているのかよく分からない。
なんにせよ突然のことだった。
家の空気は重苦しく、母の泣く声だけが私に聴覚があることを思い出させた。
人の心は大都会だ。
そこかしこに煌めきがあり、僅かな距離でさえも大きなビルで回り道。
誇大広告であふれたその街では本質を見失ってしまう。崩壊は常に寄り添っている。
私は泣けなかった。決して父が嫌いだったわけではない。受け入れられなかったわけでもない。
資格がなかったのだ。父の時間を削った償いがまだ済んでいないのだ。1ミリたりとも。
償いをして、返上をして。そして初めて家族になる。孝行と人は呼ぶのだろう。
私は家族になれなかった。家族にもなれなかった。
死んだ人間がどこへ向かうのだろう、と昔はよく考えた。肉体は残っているのに、どうして人間という括りからはずれて消えてしまうのだろうと。
残された者たちが、その後どこへ向かうのだろうかなんて考えもしなかった。
成長、なのだろうか。
すぐに執り行われた葬儀では、みんな示し合わせたかのように泣いていた。
まるで死んだ父に、
「あなたは死にましたのでもう起き上がらないでくださいね」
とでも言っているかのようだった。
膝の痛みが引かない。頑固な神もいるものだ。
またもや私は落ちたらしい。
社会人5年目。媚びへつらうのにも慣れてきた。多分。
報われない私にはお似合いの職場を見つけたらしい。
壊すことの方が得意だった私の仕事が、人を助けることだなんてなかなか皮肉が効いている。
なんてことを、はじめはよく考え自分を嘲ったものだったが、最近ではそうでもないと思うようになった。
灯台下くらし。そんな見えないところに私はいたのだ。
大都会の崩壊は近い。今度こそは落ちるより前に昇らせて欲しいと思う。
好きなように書くと、どうしても少しダークなお話になってしまいます。
壊してしまいたくなるのかもしれません。罪ですね。
こうして認めることが一番美しい気もします。
自信のない私は幸せ者です。否定は自身で間に合っていますから。
読んでくださりありがとうございました。
もうしばらくは早めの投稿ペースで行こうと思っております。どうぞよしなに。
ではまた。