だってクリスマスだから
クリスマスに投稿する事に意味があったのでつい勢いで……
都市開発の名のもとに過疎化していた土地にその孤児院はあった。
都会からそう遠くもないが自然豊かな山裾にあるその施設は、言葉は悪いが子供を流しやすい環境でもあって噂を聞きつけたのか直接近隣まで放置しに来る者も珍しくない。
生活苦が理由ですでにその親もなく天涯孤独の身の上であったり、戸籍すら無かったりと行き場のない子供ばかりで移転の目処さえ立っていないのが現状ある。
そこに出て行けの一点張りが担当者を名乗るものの言い分で、土地自体は施設長の物なので辛うじて人体に対して力尽くの嫌がらせには至っていないのが幸いであった。
しかしそれが裏目に出て、とうとう取り返しの付かない展開に――
院長の目が覚めた時にはすでに辺りは煙に覆われていた。
酸素が足りないのか朦朧とする意識で、子供達の元へと向かうが視界が悪く足元も覚束ない。
クリスマスの夜という事で卒院生の贈り物にはしゃいだ子供達を特別に全員広間で休むのを許して、代表して贈り物を届けてくれた卒院生が暖炉を見ていてくれる筈で……進む建物中心の広間に炎は見えない。
玄関に近い院長の私室は熱気が凄かったので、おそらく広間とは逆の入り口側が燃えているのだろう。
ようやく居間の近くについた時、弱々しい声が自分を呼ぶのに気付いた。
それは居間で子供達を見ていてくれた卒院生で、どうやらひどい火傷を負っているらしい。
暖炉の側にいた事で火に気付くのが遅れ、施設内を見て回った頃にはどこも出入りが不可能なほど燃えていたそうだ。
古いが堅固な作りであるのが今回は悪い方に働いてしまって、もはや誰一人逃す事も叶いそうにない。
居間に入ってみると子供達はまるで遊び疲れてその場で眠っているかの様だった。
出入り口が燃えているのは放火されたから――?
もっと上手く立ち回れてたら子供達は――
今となっては詮無い事が頭をグルグルと回る。
自分達ももう脳に酸素が回っていないせいだろう意識が遠ざかっていく。
神がいるならせめて――
「もう見てらんない!」
何処かでそんな声がした。
「そういう訳だから例の過疎村に復元した院ごと送っておいたから」
「こっちで欲しかったのは即戦力なんだけど。
あの、クラスごと転移とかそういう」
「だから殺伐として結局は崩壊して更にカオスになるんでしょ。
基本こっちからそっちに行くのって環境劣化で荒むっていうのに」
「でもそっちってストレス社会なんでしょ?
田舎で暮らしたいみたいな」
「そういう人もいるだろうけど……
即戦力なお年頃だと最低限ネットと密林は必須だと思う」
「それ位は融通するよ?」
「そうじゃなくて、クラス分けだと個人資質バラバラすぎて荒れるんだと。
目立ちたい無双して暴れたい群れの頂点に立ちたい裏で好き勝手したいとか。
ほか蹴落としてチヤホヤされたい贅沢したい自分が一番じゃないと嫌とか。
善良でも目立たずひっそり個人主義とか、あと帰りたい一択ってのも切実だし。
例え中に当たりの正統派勇者がいても、そりゃ主義主張がぶつかるよね」
「それうちの妹神の愚痴で聞いた事あるけど……う〜ん」
「今回は行き場のない子供複数に保護者付で即戦力になりそうなのもいてお得パックだよ」
孤児院世界の神は、ここぞとばかりに押し通した。
「……ゴッド」
後ろで上級天使が物言いた気だったが、クリスマスには奇跡が起こるというし。
これでいいのだと神は頷いた。
広間の一同は神の声で目覚めたのち、この世界で逞しく生きていくこととなる。
クラス転移と転移して孤児院を足したらこんな事に……