ぼくのステータス。
道なき道を歩きながらフレアおねーさんに聞いたところ、この、異世界は『ルーナロッテ』と言う名前の世界で、この世界には、魔法があり、獣人やドラゴン、それに魔物だっているらしい。魔法は素質さえあれば誰でも使えるらしいから、ぼくも使えるのかな。なんて、ちょっぴり期待を膨らませている。そして、レベルと言うものが存在するみたいだ。フレアおねーさんに、「それってRPGみたいなの?」って聞いたら「あーるぴーじーってなんですか?」って聞き返されちゃったから、きっとここにはゲームという娯楽媒体がないんだろうなぁ…。
「どうやったらレベルって分かるの?」
素朴な疑問を投げかけるぼくに向かってフレアおねーさんは、また謎のドヤ顔を見せる。きっと、僕に質問されるのが嬉しいんだろうなぁ…って、少し微笑ましい。
「んー、そうですね。レベルは、簡単な魔法で見ることが出来ますよ!」
「…ぼく魔法使えるかわかんないんだけど。」
魔法じゃ、ぼくのレベルがわかんないじゃん。ほら、異世界って言えば、チートスキルとか、いきなりレベルがMAXだとか色々あるから!そんな淡い期待を込めて、ぼくは拳に力を入れてみる。力はなんにも変わってないような…。けど、絶対何かしらあるはずだよね?
__そんなぼくの淡い期待はフレアおねーさんが唱えた魔法によって砕かれる。
『彼の者の力よ、空中にて、顕現せよ。《現化》』
ぼくを囲むように魔法陣のようなものが現れる。何これかっこいい!と魔法陣に夢中になるぼく。フレアおねーさんは、子どもが喜ぶのを微笑ましく見る母親のようにぼくのことを見ている。しばらくぼくを見つめて、満足したのか、ぼくの顔より少し上を指差す。なんだろうな、と首を傾げフレアおねーさんの指差す方を向くと、そこにはぼくのステータスが書いてあった。
アマギ・ミツル(11)
Lv.1
STR(力):45
DEX(防御):40
VIT(丈夫さ):43
AGE(俊敏性):50
INT(賢さ):42
MND(魔防):43
スキル:???
分かりやすく書いてるなぁと見つめるぼく。これ、どれくらい強いのかな?とフレアおねーさんに、尋ねようとしたその瞬間、
「あ、弱…いえ、なんでもありません。」
ぼくから目を逸らすフレアおねーさん。フレアおねーさんとステータス画面を何度も交互に見るぼく。明らかに弱いって言いかけたよね?それならはっきりいってくれた方がまだ傷つかないよ!
『…………』
しばらく気まずい空気が流れる。目を擦ったり、ぎゅっと目を瞑ったりして、何度もステータス画面を見るぼくに向かってフレアおねーさんは、言い辛そうに恐る恐る告げる。
「…ミツルってほんとに勇者ですか?」
「いや、そんなのぼくが聞きたいよ!」
***
ミツルはほんとに勇者なのでしょうか。私の勘違い、ただの子どもで、道に迷っているだけではないのか、と疑うほど弱い。本来Lv.1であっても、子どもでも、全て最低60は超えているはずだ。それなのにミツルのステータスは平均約43。まだ小さな子どもであっても弱いのだ。
「まぁ、これからですよ。ミツル!」
「そんな露骨な励まし方やめてよ!」
見るからにしゅんとしているミツル。あれ、私、今何か間違ったことを言ったでしょうか?少し考えても分からなかったので、私はすぐに考えることを放棄した。
それにしても、スキルはあるはずなんですよね。本来、スキルがないならば何も書かれないはずですし…。それに、???と書かれている。名前がないスキルなのか、まだ顕現していないか。そのどちらかであるはず。どちらであってもこのようなこと、今までの中で初めてなんですよね…。どの道、このことはミツルに黙っておいた方が良いでしょうね。少しでも、期待させてそのスキルが弱かったら__。
「とにかく、ミツルは子どもですから弱くても仕方ないですよ!」
「……そうなの?」
実際の平均ステータスは告げずに、ミツルを励まそうとする私。それに気付いてか、ミツルは私に向かって満面の笑みを向ける。
「そっか、ありがと!フレアおねーさん!」
「はい!(可愛いですね…)」
ミツルに返事をしつつ、私は心の声を出さないように必死だ。ミツルは11歳にしては背が低く138cmほど。長いとも短いとも言えないが、とても綺麗な黒髪をしている。笑う口から覗く八重歯が、少年らしさを表している。
「フレアおねーさん、どうかしたの?」
「何でもないですよ。もうすぐ、道に出ますから!」
私は、目の前の小さな子どもを見つめて、にこりと微笑む。微笑みを返すミツルは先程までのしょげた姿はなく、11歳らしい活発さに満ち溢れていた。
***
今にも蛇が出てきそうな道を掻き分けながら進むぼくとフレアおねーさん。正直、魔物が出たらどうしようなんて内心びくびくしていたぼくだけど、その不安は目の前の光景によって掻き消された。
「うわぁ、道だ!良かったぁ…遭難しちゃったかと思ったよ!」
草木が鬱蒼と生い茂った森を抜け、目の前に広がる道は、アスファルトやコンクリートまではいかないものの、綺麗に舗装されている道だ。安堵の表情を浮かべるぼく。自慢気にこちらを見つめるフレアおねーさんは、この際無視して置こう。だって、この森でも遭難も元はと言えばフレアおねーさんのせいなんだから…。
「ここから、どっちに進めばいいの?」
「…………、……さぁ、どちらでしょうか。」
目を白黒させ、フレアおねーさんを見る。ぼくに見られているフレアおねーさんは、まるで悪戯のバレてしまった子どものように舌をちょろっと出していた(ちょっとだけ可愛い)。
「フレアおねーさんの馬鹿ぁああああ__!!」
誰もいない道の中、ぼくの叫ぶ声だけが響き渡った。
見てくださった方、ありがとうございます!