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マヤリの質問攻勢に辰三さんは膝を折り、オサムも息を吹き返した。
「なんだよアンタ。刺青まで入れてプードルズマニアぶってるけど、大した事ないじゃん。ほんとにポンピーファンなのかよ?」
「な、なに言ってやがる! 俺こそ本物のポンピーファン中のポンピーファン。いや、ポンピージャンキーと言っても差し支えないほどのポンピーファンだ! お前らみたいにオタクな知識を仕込んで通ぶってる連中と一緒にするなあ!」
「通ぶってるわけじゃないですよ。そんな風に思われるのが嫌だからみんなほどほどのところで楽しい会話に留めてるんでしょう。私を通ぶってると言うならオジさんだって同じですよ。昔からのファンだからとか、刺青入れてるから本当のファンなんてお笑い種です。私だってにわか知識を仕込んだからって、人に誇れるファンだなんて思ってません。だから私は人に対して私と同じ知識を持てなんて強要しません。楽しみ方なんて人それぞれでしょう。オジさんのように刺青なんか強要して、入れれば本物のファンなんて馬鹿げてますよ。私達にわかはにわかで楽しくやりますから。飽きたらすぐいなくなりますから。だからもうほっといてください」
「うおおおおおっ!」
今度は辰三さんが床に手をつき号泣し始めた。オサムも純太も、そしてマヤリも唖然とする。
「そんな寂しいこと、言わんでくれえ! ブームが過ぎたら卒業なんて、簡単にしないでくれえっ。もっとファンとして、とことん食らい付いてきてくれえ!」
「なんだよアンタ。さっきまでさっさとやめろとか言っといて、その、手のひら返した態度はよ」
「あー。気にしなくていいよお。辰三さん、酔いが回ってくるといつもそんな感じだから」
吉の字さんが酒を飲みつつ、まるで他人事のように解説を入れた。
「ツンデレかよ。俺は今までこんなめんどくさいオッサンと不毛な論議をしてたのか?」
オサムが呆れている間も辰三さんは弁解を続ける。
「俺は、俺は、寂しかったんじゃあ。早い時期からポンピーファンだったために、若い後輩ファンには恵まれず、年食ってるもんだからブームがくると、なんか仲間外れにされてるみたいだし。だからブームに乗っかって楽しくやってる、お前らにわかが、本当は羨ましかったんじゃあ。俺だって女の子とポンピーの話題で盛り上がりたいんじゃあ。だからちょっと、意地悪せずにはいられなかったんじゃあ!」
辰三さんがひとしきり懺悔し、キリのいい所で吉の字さんが締めに入った。
「はいはい。辰三さんはなんも悪くないよお。それじゃあ、そろそろいつもの赤提灯で今夜の反省会しようか。辰三さんのめだかの学校がないと夜が終わんないから」
なおもメソメソする辰三さんは吉の字さんの肩を借りつつ店を出て行った。その場に放置されたオサムたちはしばし茫然自失していたが、店の奥から閉会の言葉が上がった。