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「はん。すぐにファンをやめちまうにわかに限ってそういうもっともらしい理屈をこねるんだ! 悪いがこちとら筋金入りのポンピーファンだ。プロ化するずっと前からファンやってんだ。その俺が言うんだ。お前らはブームと共にすぐにいなくなる、大多数のにわか組だ。間違ってもブームが終わってまでしぶとく応援に来るタマなんかじゃねえ」
「そんなもん分かんねえだろ! ブームが終わってもファンやってるかどうかは俺次第だ! アンタ、何様のつもりだ!」
「ファンをやめないやつはその時にならない限りは分からねえ。だが、やめる奴はすぐに分かるんだよ。じゃあ、お前にこれができるか。こんな真似がお前にできるっていうのか!」
やおら辰三さんは立ち上がり、右腕をシャツの袖から引っ込め、遠山の金さんよろしく襟元から引っ込めた腕を出した。その光景にオサムは愕然とした。もろ肌脱ぎになった辰三さんの二の腕にはアイラブプードルズ。ご丁寧にラブの部分はハートマークのタトゥーが彫られていたのだ。
「ぐはあっ!」
断末魔と共にオサムがその場に膝を折った。さすがにこんな真似はにわかにはできない。こんな刺青を入れたら、ブームが過ぎた後は痛々しくてしょうがない。一生このブームと添い遂げる覚悟がなければ、とてもできない芸当である。敗北感に打ちのめされたオサムに辰三さんは容赦なく追い討ちをかける。
「お前にこの先、ずっとポンピーファンを続ける気概があるというのなら、その証拠を見せてみろ。いますぐ彫り物屋に行ってペリカンズのスミ入れてこい。それができたら、俺はお前に謝罪しよう。にわかじゃないと認めてやろう」
「う、うううっ」
もうオサムはその場に手をつき、呻き声を上げるしかできない。
「さすがにそこまではできないか? 所詮にわかだな。できないなら素直にできませんと言え。それだけ言えば、いままでのお前の屁理屈は聞かなかったことにしてやる」
「……くっ。で、で……せん」
「はあ? なにを言ったか聞こえないぞ。もう一度はっきり言ってくれ」
辰三さんは耳に手を当て、顔をオサムに近づける。だがオサムに同じ言葉を発する余裕はもうなかった。
「いつまでそうしているつもりだ? このままじゃ埒が開かんぞ。それとも気が変わって、スミ入れる気になったのか?」
なおも辰三さんはオサムを追い込む。すると突然、オサムの背後から女性の声がした。
「いい加減にしてください。軽はずみに刺青なんか入れられるわけないでしょう。温泉や銭湯では入店断られちゃうし、献血だってできなくなるんですよ」