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「俺の機嫌が悪いのは、別に負けたからでも、飲みすぎてるわけでもねえ。俺はな、そもそもこいつら、ぽこぽこ、ぽこぽこ、雨後の筍のように湧いて出る、にわかファンって連中に、虫唾が走るんだ!」
「出たな! 自称、玄人ファンによるにわか排斥運動が。あんたら玄人がどれだけ偉いか知らないが、後輩に当たるにわかイジメはみっともないぜ!」
ヒートアップするオサムの腰に純太が抱きついてきた。
「まずいっスよ、先輩。せっかくのオフ会で喧嘩しちゃったら。マヤリちゃんが怖がってるから、ここはひとつ穏便に頼むっス」
見ればマヤリは不安げな表情をしている。一方、沙耶子の方は拳を突き出し、オサムを応援しているっぽい。
「安心しろ。取っ組み合いの喧嘩するわけじゃねえ。にわかはにわかなりに、こんな間違った思想を垂れ流す勘違い玄人を論破してやる」
オサムが振り向いて水を一杯飲む間、なおも辰三さんは悪態をつく。
「やれやれ。どうせブームが過ぎたらすぐにいなくなるにわかのくせしやがって、ブームの渦中なら威勢がいいな。大体な、試合観戦後のオフ会で試合の分析もせずに、女といちゃついてるのがすでに大きな間違いなんだよ。女がほしいんなら合コンでも行ってろ」
「そんなのファンの勝手だろうが。じゃあなにか。プロポンピーファンはファン同士の恋愛禁止って、オフィシャルなルールでも存在してんのか。存在してるんなら謝るよ。でもそんなルールはないだろ。大体、一緒に応援するなら気の合う友達とした方が楽しいに決まってるじゃねえか」
辰三さんはグラスを置き嘆息した。
「はああ。これだからにわかは困る。応援を楽しいもんだと頭から決め付けてやがる。いいか。応援ってのはな、コートで戦う選手に手前の命と魂を送って力に変えてもらう、神聖な行為なんだ。遊び半分でやられちゃ、真剣な応援してる奴の邪魔にしかならねえんだよ」
「そりゃアンタの勝手な思い込みだろ。戦ってる選手はそこまで区別してねえと思うぜ。いいじゃねえか。声を出して応援して、それが選手の力になりゃあ。にわかだってふざけて応援なんかしないぜ」
オサムがそう言うと辰三さんは横目で睨みつけてきた。
「分かった風なことを言うじゃねえか。それじゃあよ、お前は観客なんか十人もいないような試合で、応援をしたことが一度でもあるのか?」
「う。それはねえけどよ、でも選手はにわかも玄人も差別はしねえと思うぜ」
「じゃあ選手に感謝するんだな。だが、俺はあるぜ。ポンピーがまだマイナー競技だった草創期の頃から、いつかプロ化する日を夢見て応援していた日々が。なあ、吉の字」
辰三さんは隣に座る中年に同意を求めた。どうやら中年は吉の字と呼ばれているらしい。
「うん。まあそうだね。この人、見た目はただのオッサンだけど、若い頃はティンパニの辰って呼ばれて、結構すごかったんだよ」
「そうかい。そいつはすげえな。じゃあアンタは後から応援に参加した奴が邪魔に感じることでもあったのか?」
この質問には吉の字さんが代理で答えた。
「うーん、それはないね。大体、辰三さんが現役でやってた頃は観客なんかほとんどいない草ポンピーの試合ばっかりだったから。応援してたチームもすぐに解散して、最近プロ化して、やっとまた応援できるようになったんだ」
「なんだよ。じゃあアンタだってにわかみたいなもんじゃないか」
「ばかやろ! 手前は余計なことをペチャクチャと」
辰三さんが吉の字さんをなじる。