この世とあの世の生活〜第3話〜
ある晴れた日。アパートのベランダにて、赤い生地に黒文字で“地獄の主”と書かれたTシャツと黒めのジーパンを履いた閻魔大王が空を見上げていた。
「こん助よ」
「何でございましょう?」
こん助はトコトコと閻魔大王に近寄る。閻魔大王は太陽を見上げていた。
「暇殺しと言う呵責もよくないか?」
「何ですか、呵責考えていたんですか」
「うむ…現世も変われば地獄も変わる。それに対応した罰を考えねば」
「暇殺しって、つまり、何にもしないでただただ放置するだけって事ですか?」
「うむ」
「それだったら、阿鼻地獄に堕ちるまでの2000年間、ただひたすら落ちるのと似てるじゃないですか」
「…既にあったか」
と閻魔大王は腕を組んだ。
「今の現代人が恐れるものは何だ?」
「何でしょうねぇ…?あ、そうだ!閻魔様!遊園地に行きましょう!せっかく天気がよいです!」
「遊園地?娯楽施設か?」
「はい!そこに答えがあるかもしれません!」
とこん助は鼻息を荒くして言った。実のところ、ただ遊園地に行ってみたかっただけだった。
こん助のタブレット検索により、バスと電車を乗り継いで行ける遊園地があるのを発見した。早速、こん助は人間の子供に化け、閻魔大王はあのTシャツに黒いブーツにチェーン付きの財布をポケットに入れていた。ちなみに閻魔大王の現世の服装はこん助が決めている。こん助はタブレットを持ってナビゲーションシステムを使う。
「えーっと、最寄りのバス停から駅行きのバスに乗る!」
最寄りのバス停で待っていると、バスがやって来た。
「こん助、私はばすに初めて乗るぞ」
「僕も初めてです…」
不安げな2人の前にバスが停まり、入り口が開いた。
「ぬぉう?!勝手に開いたぞ?!」
「この前の自動ドアと同じですってば!大丈夫です」
と驚く閻魔大王の背中をこん助は押して、入り口のステップに足をのせた時だった。
《整理券をお取り下さい》
「「箱が喋ったぁぁ!!!??」」
閻魔大王とこん助はとても驚いた。
《整理券をお取り下さい》
「こん助!こやつ話すぞ?!中に人間など入れる隙間などないぞ?!しかも何か出ているぞ?!」
「ととととりあえず、それを引っ張ってみてください!」
「何故私が引っ張らねばならぬ?!」
「せせせ整理券と言うモノです!」
「う、うぬ!!」
と閻魔大王は整理券を引っ張った。するとまた同じ整理券が出てくる。こん助も恐る恐るそれを取る。
「ななな中に入りましょう」
こん助は閻魔大王の背中を押し、バスの中に入った。そして2人がけのイスに座った。
「こ、こん助…貴様、く、詳しくはないのか?」
「ば、バスの乗り方降り方は知ってましたが、ま、まさか箱が喋るなんて、知りませんでした…」
初めて乗る、バス。妙に緊張感を醸し出す、閻魔大王とこん助。ふと閻魔大王は整理券を見た。整理券には数字と何やら奇怪な模様に、“折り曲げないで下さい”と印刷されていた。
「こん助よ…何やらこれは折り曲げてはいけないらしい…」
「折り曲げちゃいけないんですね…」
変なプレッシャーがかかる。2人は整理券を折り曲げないように指先で摘んでいた。そして初めて乗るバスはまだ仕掛けてくる。
《ポーン》
「「?!」」
アナウンスの始まる音にビクッとする2人。
《次は…》
「どこかに話している奴がおるのか?!」
「そ、そんな姿ありませんけど?!」
《ピンポーン》
「「?!」」
2人は下車をするブザーにも驚いた。すると閻魔大王はハッと気づく。
「しまった!整理券を折ってしまった!」
「僕もです!!手で挟んで伸ばしましょう!」
何か慌てふためく異色の2人。目的地の駅までドキドキしながら閻魔大王とこん助はバスに揺られた。
終点だっただけもあって駅に着いた。折り曲げてしまった整理券を伸ばして、何とか乗車料を払いバスを降りた2人。
「賽銭箱が金を勝手に数えてたぞ…?!」
「さ、賽銭箱ではないですが…何とか駅に辿り着きましたね…」
次の関門は駅。遊園地までの道のりは完璧だが、電車に乗るのも初めての2人。まずは切符を買う。自動切符販売機があったが、よくわからないのでそこは窓口で切符を買った。
「ぬぅ。これの手形を持って行くのだな?」
「改札口と言うところで使うそうです」
「あれか。関所のようだな」
改札口と書かれた看板の下にゲートがあった。閻魔大王とこん助は隣同士で改札口を通ろうとした。
バシンッ!!
「ぐあっ!!」
「べふっ!!」
閻魔大王は股間に、こん助は腹に衝撃を受けた。ゲートが閉まった。2人は切符を改札口に通さず持っていただけであった。閻魔大王は股間を押さえ、こん助は腹を押さえてよろけた。
「な、何だ…!?この関所は?!」
「ああ、あそこに…関所の人(駅員)がいます…そこに行きましょう…」
と閻魔大王とこん助は改札口にいる駅員のところに行って駅構内に入る事ができた。
「これからどうするのだ?」
「えっと、遊園地前に行く電車に乗ります。あぁ今来た電車です」
電車がホームにやって来た。印のところに並ぶ。先頭に立ってしまった。
「こん助よ…私は初めて乗るのだぞ?」
「ぼ、僕だって…」
電車の出入り口が目の前で停まった。プシューッと言う音と共に自動ドアが開く。その瞬間、中からたくさんの人が降りてくる。
「こ、この箱の中にこれ程の人間が入っていたのか?!」
「お、降りたみたいです!乗りましょう!」
と閻魔大王とこん助はそそくさと車内に入る。席は空いていなかったので向かい側のドアの前に立った。
「して、こん助よ、どこで降りるのだ?」
「このまま乗って行けば遊園地の前に着きます!」
やっとワクワクして来たこん助。電車は出発する。そしてまた例のアナウンスで驚く2人。どうしても慣れないようだ。と、2つ程駅を越えた辺りだった。だんだんと車内が混んできて、2人はドア付近に追いやられる。
「こん助…混んで来たぞ…」
「はい…やっぱり遊園地行きだからでしょうか…」
と3つ目の駅に停まった瞬間、閻魔大王とこん助はドアに押しつけられた。
「くぬぅ…?!何をするか!私は閻魔大王ぞ!!」
「激混みですぅ〜!!閻魔様!棒に捕まって!」
と言った時だった。4つ目の駅。
《反対側のドアが開きますのでご注意下さい》
反対側?と閻魔大王とこん助が思った瞬間、
「ぬああああーーー!!」
この駅に降りる人、乗る人が多く、閻魔大王はホームに放り出されて、降りる人々の波に飲まれて行く。
「閻魔様ーーー!!えんま…」
瞬く間にこん助は人の波に飲まれて行った。
「こん助ーー!!こん助ぇええー!!」
人の波にさらわれた閻魔大王は、気がつけば見知らぬ土地の駅構内にいた。
「ここは…どこだ…?」
初めての遠出で、地獄の主人の閻魔大王は現世と言う広い世界で迷子になった。地獄に戻ってこん助を待とうと思ったが、地獄を行き来するには特殊な条件が必要であり、ここではできなかった。困り果てた閻魔大王は力なくベンチに座り、迷子特有の絶望感を味わっていた。
後にこん助からの念力で連絡を取り合い、合流したが結局遊園地へは行けなかった。気がつけば夕暮れ、そしてアパートに着いたのは夜だった。
余談:地獄へ戻った閻魔大王は、身を持って体験したこの事を地獄の呵責にしようと提案したが、獄卒の幹部らに却下された。
多分、閻魔大王とこん助はリベンジすると思います。あとバスの乗り方は地域でそれぞれ違うと思いますが、住んでる地域の乗り方を参考にしてますのでご容赦ください…。