王との対話3
息子の身体…?
こいつの息子の身体だってか…?
こいつ、トチ狂ってやがる。
自分の息子の亡骸を保存するため、俺を呼び出し、死なないようにしましたってか…。
俺の魂を息子に身体に永続的に縛り付けて。
そう思うと同時に、火葬され灰になり、残った骨さえも砕かれた父親のことを思い出した。
確かに、見るも無残な姿に変わり果ててしまうくらいなら、残しておきたいと思ってしまうものかもしれない。
今時、お金持ちであれば遺体を冷凍保存したりすることもある。冷凍保存した時点で人として蘇るとは思えないが、お金という財力があるからこそできることである。
昔でも秦の始皇帝が不老不死を求めて、無理難題を出したり、不老不死の薬を作らせたりとしていたようだから、いつの時代も力あれば、永遠に不滅であることを欲すのかもしれない。
こいつは、目の前にいる男はこの世界の王であり、魔法が使える、はず。
ともすれば、息子の身体を永久的にとどめておこうというのもあり得なくないか。
ただ、中に入れる魂を俺にしなくても…。
トンだ迷惑である。
「死んだ息子とのご対面は嬉しいか?」
「うむ、非常に嬉しいよ」
皮肉で言ったつもりだったが本人はご満悦なようだ。
親としては身体が同じであれば、中身が同じでなくても嬉しいものだろうか?
言うなら死にかけていた息子が記憶喪失になってなおかつ人格が変わってしまったが蘇った感じなんだろうか?
俺は親になったことはないし、息子が死ぬなんてことは以ての外であるが、もし死んだ息子が生き返ったら、たとえ中身が変わってても嬉しいのかもしれない。
そう思うと目の前にいる"父親"が少し憐れに見えた。
「俺の元の身体はどこにある?向こうの世界か?」
「うーむ…向こうの世界にはないはずだが、この世界のどこかか、世界の狭間にあるかもしれない、としか言えんな。もしかしたら、移動の際に消滅している可能性もあるの。」
俺の半生はこの身体と過ごすことになりそうだ。もし自分の身体が見つかったところで戻り方はわからないし、魂がない時点で腐り続けているわけだから、この近くになければ見つけられないだろう…
本当に半生なのか、はたまた永遠なのかは俺にもわからないが。
「向こうの世界での俺に関する記憶とかそういうものは?」
「そこまで操作はできないから、行方不明ってことになってると思うぞ」
「そうか」
向こうでは死んでると同義ということか。
ある意味理想的な状況なのかもしれない。俺が生き辛いと感じていた世界では死に、生きる意味を与えてくれたこの世界で生き続けることができる。
まあ、俺がこの男を殺す理由は大してないのだが。
さて、これからどうしたものか。
まずは、強くならなきゃいけない。
こいつはたくさん敵を倒せといっていた。
なら、たくさん敵のいるところに行けばいい。
「俺は強くならなきゃいけないんだよな?闘技場のような場所はあるのか?」
「闘技場?闘うだけならそこらへんに喧嘩っ早いのはゴロゴロしているぞ。いやでも闘うことはできるぞ」
なんだそりゃ…
いきなり死ぬのだけはごめんだ。どこかで鍛えられないものか…
「師匠なんてそんな簡単に現れるもんじゃないぞ。死んで学ぶしかないの」
都合よく師匠が現れて修行をつけてくれてトントン拍子に強くなれるのはどうやらアニメやゲームだけらしい。
それにしたって死んで学ぶのは嫌だな…
痛いのはできるだけ避けたい。
「そうだそうだ、言い忘れてた」
言い忘れてたという言葉は大概フラグで、とんでもなく驚く内容を聞かされると相場が決まっている。
そんなことを思いながら恐る恐る目の前の男の目を見ると男は薄っすら笑みを浮かべて言った。
「城を出て、北の方をずっと行くとこの世界には珍しい人の住む村がある。そこに行ってみてはどうかな?」
…もったいぶりやがって。あの笑みはなんだったんだ。俺が安心するとでも思ったのか?安心してるわ!
とりあえず、その村に向かうとしよう。そしたら何か情報が得られるかもしれない。
「教えてくれてありがとう」
素直にお礼を言って城を後にした。