第1話 絶望と再生
すいません。かなり少ないです。
俺の名前は、真宮暦。
つい先ほどリア充を助けた挙句、トラックに轢かれて死んだという間抜けな人間である。
さて、そんな不運で非リアな俺に俺にチャンスをくれたのが、女神アイリスである。
その女神は俺に対して慈悲の心を持ち、なんと異世界転移のチャンスをくれたのである。太っ腹過ぎて困りますな。
逆にそこまで優しいと、前世で理不尽な目に遭ってきた俺はどうしても疑ってしまうのだが、女神の言葉を信じて俺は決意したのだ。異世界へ転移することを。
まぁ、年齢補正してくれてやり直せる可能性があるって言うんだったら、やってみたほうがいいだろう。何らかしらボーナスとか言うのをつけてくれたみたいだし。
でもさ、なんじゃこりゃあああああああああああ!!
ひどくね?ひどくね?確かに悪魔に魂奪われるとか無かったよ。うん、生きてるね。分かる分かる。たださ。これはねぇよ。アイリスさん……
山だよね?これ山だよね?周りの山と比べて見ても圧倒的に高いよ。もはや雲突っ切るレベルだね。アハハハ。
まだ山だけだったら、何とかなるね。うん。こんなことで、うじうじ言うほど俺は小さい人間じゃないよ。違うんです。山だけだったら何とかなるよね。
問題はこれだよ。俺の周りを囲うゴブリンっぽい群れだよ。ナニコレチュートリアル?それにしてはやばすぎません?これ。もしかしてアイリスさんは鬼畜だったのかな?極め付けに、俺の初期装備を教えてやろう。
『無』
だ。さすがに全裸ではないが、正確に言ったらTシャツに半ズボンのみだ。これでどうやって生き残ればいいのかな?アイリスさん。
しかも寒いよ。山のてっぺん寒いよ。アイリスさん。せめてさ、山のてっぺんに転移ってのは今更だけどひどくね?
ん。なんか、小さい粒々が血相変えてこっち向かってきてる。久しぶりの食料だと言わんばかりに。
これは、ゴブリンかな?布を腰に巻いて錆びたバスターソード振り回してくるよ。……って冷静に解説とかしてる場合じゃねえよ。俺。
これ以上考えさせないと言わんばかりに猛攻を継続している。しかし、俺はゴブリンくらいならなんとか対処できると考えていた。
なんせ、チート系の異世界転移モノだと、ゴブリンの能力は前世では最弱の部類にあり、普通の冒険者でも余裕で倒せるくらいの最弱モンスターであったからだ。
だが、そんなことは慢心だと気づかされることになる。一応ゴブリンの振り回すバスターソードを避けることができていたが、次第に体力不足と気温が低いためか息切れが伴い体が動かなくなっていく。
数に個では勝てぬ。そんな状況が俺に死という単語を連想させる。
だがこんなところでは死ねない。俺は異世界で悔いの残らないように再び生きるためにせっかく転移させてもらったんだ。せっかく苦労して転移させてくれた女神のためにもまだ死ねない。
だが、そんな願いが魔物に通じるわけがない。ゴブリンは容赦なく剣という名の鈍器を振り回す。
避けようとした俺だったが、タイミングがずれたようだ。
メシメシと骨が折れるかのような音と共に一部錆びてない部分があったのか。腕がスパッと落ちる。
「痛い痛い痛いぃ!」
体感したこともないような痛みが全身に伝わる。
やはり自由に楽しく充実した人生なんて不可能だったのか。
だが、俺は抗う。リア充になるために。
残った左腕を振り回す。だが、がむしゃらに振り回している腕が当たるはずがない。大量のゴブリンは俺を囲み、舌なめずりしながら構えに入ってる様子だ。久しぶりの食事に待ちきれない、といった捕食者の眼。
その眼を向けられたのは初めてではない。学生時代に苛められていたときに向けられた眼とそっくりだ。
俺は、あの眼が嫌いだ。
そんな思考に本能で気づいたのか。少しずつ、じりじりと近づいてくる。
何とかこの状況を打破する方法を模索する。そ、そうだ。ボ、ボーナスがある。出落ちなんてことにならないようにアイリスが用意してくれた、転移特典。
魔法が使えるかもしれない。
「フ、ファイアーボール!」
王道の魔法を放とうとするが、何も起こらない。
「何でだよ!何で出ないんだよ!ウォーターソード!切り裂け!ゴブリンを、倒せ!」
そんなことをしている間にも、ゴブリンは少しずつ距離を詰めてくる。何だよ。結局こうじゃないか。
死んだときにしてもそうだ。損しかなかった。転移の話にしたってそうだ。都合が良すぎる。
簡単に人なんか信じるんじゃないな。
そう考えていたらゴブリンは、目の前にいた。
「……リタイアだ。そんな都合のいい話なんてあるわけないもんな。信じた俺がバカだっただけの話だ。俺は、アイリスを恨んじゃいない。どうせ、俺なんてこの程度だよ」
そう言うとゴブリンは、不気味な笑い声を出しながら俺の腕を切り落とした。
「いぃっ!うわあああああ!」
心なしか、トラックで轢かれたときよりも痛い気がする。目の前で自分の腕が切り落とされるという惨状に耐え切れず、俺は吐き続ける。
だが、そんな事を気遣うわけもなく両足も切断され、血が全身から吹き出す。
痛みに耐え切れず、早く殺してほしいと思っていたその時、俺の身体が光に包まれる。周りのゴブリンが鳴き声、というか悲鳴を上げていることから相当うろたえていることが分かる。
そして、俺の身体から眩い光が消えたとき、俺は驚く。
「腕と足が……再生している?」
2月5日 修正しました。