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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者一行

魔族のアイツに

作者: 松谷 真良

走る。ただただ走る。



疲れて、止まりそうになる足にここで止まっている暇なんてないと無理やり前へ動かしてひたすら走る。

どこまで進んでも同じような景色が広がる森の中で、どこへ進めばいいのかもわからなくなってきたけれど、走る。


辛い。

ああ、辛いなぁ。

後ろを振り向く余裕なんてないけれど。きっと後ろからは《守護者》が追いかけてきているんだ。ものすごく重量のある足音が響いてくるもの。怖くて、止まれなんてしないよ。

にげなくちゃ。逃げなくちゃ…。

どこに?ねぇ、私はどこへ行けば、いいのかな?

不意に足がもつれて、地面へと体が投げ出された。

しまった。臍を噛む。

こみあげてくる悲鳴を頑張って飲み込みながらすぐに体の向きを変えて後ろを見る。


赤い瞳がたくさん。アイツと同じ紅い瞳、がたくさん。

巨大な、白い粘土みたいな肌をした獣たちの視線が注がれている。

怖いよ…。皆みんな、壊れた玩具みたいで不気味だよ。

ずらりと並んだ牙。ニラリとゆがんだ笑顔。ぎらぎらと光る爪。全部が全部、怖いんだ。

ここで、おしまいかな?食べられて、おしまい、かなぁ…。嫌だな。そんなの、嫌だな。

でも、もう…無理だよ。動けない。もう、走れない。息が続かないんだ。

それでも。

口を覆って悲鳴だけは抑え込む。悲鳴をあげたりしてもっとたくさんの《守護者》が来るのは、嫌だ。情けない悲鳴なんて、あげたりしない。そんなの、喜ばせるだけだって、知ってる、から。



ああ…。

はにかむ笑顔が素敵な勇者と、なぜかいつも不機嫌そうな魔族の青年と、小動物のような光の加減で金髪に見える髪の少女の顔が浮かぶ。

あの日も、こんな感じだった。

逃げ回って。疲れ切って。お腹が減って。死にそうで。でも死にたくなかった。だって、叶えたい夢が会ったんだ。里から自由に外に出て、世界を見て回りたかったんだ。里で一番《偉い人》に連れられて出るような、外を見たいわけじゃなくて。自分の足で、自分が決めたところに、自由に、好きなところへ行きたかった。

だから、こっそりと、里を抜け出した。それで人間に見つかって追いかけられた。必死で逃げた。

里があった森と同じ感じの森の中なら、人間には見つからないと。そう思って、倒れていた。

そうやって倒れていたところを、勇者が。


勇者が、助けてくれた。


その後ろで、黒い髪をしたアイツは不機嫌そうな顔をして私のことを鼻で笑っていた。

女の子は、凄く不安そうな顔をして。瞳がユラリと揺れた。

今は、何をやっているのかな。

くわしいことは何も言わないで、いなくなったけど。ひょっとしたら心配とか、してくれているのかな。

元気かな…?

私のこと、忘れて、旅を続けているかな?

だって、勇者は魔王を倒した凄い人なんだ。

そんな人と、私が一緒にいられるわけがないよ。



ああ…。

それなのに、どうして?どうして…だろう。

また、私のことを助けてくれないかな、なんて都合がいいことを考えてしまうのは…なんでかな。

どうして…どうして、アイツの不敵な笑顔が浮かんでくるの?

忘れようと、思ったのに。

私じゃ、ダメだって。私がいたら、あの人たちにも迷惑がかかるって、気付けたのに。

里から抜け出した私に追手が付いてしまったのに気付いたから。

だから、この人たちから離れようと、笑顔で、サヨナラを言えた。

今までで一番、上手に作れた笑顔だと思ったのに、あの人たちはなんだかいい顔をしなかった。

理由は分からなかったけど、いつまでも固まっていたら挟み撃ちにされてあの人たちも巻き込んでしまうから、クルリと踵を帰して、一度も振りかえらないで走り出せたのに。

どうしてこんなに未練が残っているんだろう?きれいさっぱりと切り捨てたつもりだった。

なんで、こんな時に思い出しちゃうんだろう?アイツの、滅多に見られなかった笑顔。





カタカタと震えだしそうな体を制して、短剣を抜く。

最後まで、諦めない。多分、勝てないけど。それでも、抵抗しないで死んじゃったら、後からくるアイツに鼻で笑われちゃうよ。



ああ…。

たのし、かったな。

凄く、楽しかった。

ちっちゃなことでひどく大騒ぎをして、笑いあった日が。

武器を一生懸命真剣に選んだ時が。

誰の料理が一番まずいか、火を囲んだ。

なんだかよくわからなかったけど、笑い出しちゃたりしてさ。

些細なことだけど喧嘩をして、怒ってたんだけど、次の瞬間笑顔でど突き合っていた。

おいしいお菓子に、皆で食べた温かい料理。

それだけで、私は幸せだったんだ。

ガールズトークも、して。あの子は勇者に告白できたのかなぁ。フフフ、どうな、ったんだろう。




痛い、よ。すごく、痛いんだ。爪が刺さって。牙が、噛み砕いてきて。尻尾で薙ぎ払われて。視界のすべてがニタニタ笑う無気味な顔で埋め尽くされて。

嫌だな。こんな終わりから、いやだった、な。仕方ない、けど。諦めも、肝心だよ。

ああ、でもなんだかフワフワしてきた。段々と、体の感覚が消えていく。

きっと、捕まっていた妹もこれで無事に解放されて…。私がこうやって、里の人たちの娯楽になれるように頑張って抵抗して、おびえて死ねば、妹は里に反抗することなく大きくなって、結婚して子供を作って…。

哀しいなぁ。そばに、居たかった…。私が悪いんだけど、それでも。

もっともっともっと。沢山の場所に行ってさ、騒いでさ、冒険してさ。見たこともないお宝を見つけて悩んだり…。

…してみたかったなぁ。

して、みたいよ。

だって、まだまだ私は、私はっ。

真赤な口内が迫ってきた。もう、逃げられない。だって、動けない。力が入らない。

ほら、食べられておしまいだ。

ねぇもう早く終わらせてよ。焦らさないで。疲れちゃった。

疲れちゃったんだよ。



フワリフワリと、白い霧がやってきた。


『ほら、リーシェ。これ、食ってみろよ』


ちょっと照れたようなはにかみ顔で、なんだかおいしそうな物体を差し出してくる少年。太陽の光みたいな暖かさがある金髪に、お空みたいな青い眼の。

カイン、だ。この世界ではたくさんいる勇者のなかの一人。勇者っていうのは、ギルドで得られるスキルのひとつなんだって。もらっても対して嬉しくないんだけどな、なんて下院は照れたように笑っていたっけ…。

いつもいつも笑顔で。だけど、凄く強いの。カインが、剣を使うと、凄く綺麗なんだ。


『リ、リーシェ!この、この術式なんだけどね』


少しオドオドした感じで、複雑な魔方陣が書かれた紙を持っている女の子。毛先がクルクルなっている栗色の髪の毛を2つに結んで、緑のキラキラした眼で、私を見てくる。

これはミュー。私が使えるのは精霊魔法だけど、よく魔方陣の構成について話し合ってた。


『おい、バカ。さっさと来ないとおいてくぞ』


相変わらず、容赦がないね。ねぇ、フォルス。

真っ黒な、闇を結いこんじゃったみたいに真っ黒な髪を、なかなかの長さまで伸ばして…というか着るのが面倒なのか放置していて、紅い眼の、魔族のヒト。

私は、フォルスの赤い眼がお気に入りだった。炎を吸い込んだみたいで好き。


「待って、よ」


もう一回だけ、名前で呼んでよ。こんな幻覚の中まで、バカなんて言わないで。あんまり好きじゃなかったけど、フォルスたちがリーシェって呼んでくれるから、好きになったんだよ、自分の名前。

どうして、先に行っちゃうの?


『おい、リーシェ?』

「置いて、かな」

『何言ってるんだ?』


3人は楽しそうに笑ったまま、前へ進んで行ってしまう。

私は、いけないのに。行きたいのに、いけないのに。

ああ…元から、私とのヒトたちの居場所は違ったんだね。そう、だよね。だから、だから…?あれ、なんだっけ。まぁいいや。もう、どうでもいいや。

視界が真っ白に染まる。











ドサリ、と放り出された。

体に走った激痛で、意識が戻った。

あ、れ…?なん、で私まだ生きて。


痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。


体に内側から焼けついて行くような激痛が走る。痛いよ、ねぇ。

もう、いいじゃない。十分な娯楽に、なった、よね?どうして、焦らすの?もう、殺してよ。お願いだから、つらいよ。痛いよ。痛い。

嘲るような笑い声が、聞えてくる。

わかってるよ、無様デショ?だから、殺してよ。

もう、疲れちゃったんだよ?

全部全部全部。あきらめがついたのに。

それなのに。

それなのに、憎たらしいようなアイツの顔が、ずっと離れないのはなんで、かな。

アイツが、必死に名前を呼んでいるような気がするの、は…なんで、かな。

アイツの顔が、泣きそうに、ゆがんでいるのは、なんで…かな。

泣きそうな、顔…してほしかったわけじゃ、ないのに。


「笑っ、て…」


笑顔が、好きなのに。滅多に見られないから、笑顔、が…。

幻覚、でも。笑っててほしい、よ。

都合の、いい…げん、かくでも、さ。


「ね、ぇ」


ごめんね。自分のことしか考えられなくて。ねぇ、笑って、よ。

感覚が無い、手を動かして、幻覚に触れようと、する。

触れるわけ、ないのに。

血塗れの手が、視界に入った。

こんな手で、触れていいような、ヒトじゃない、よね。

パタリ、と手から力が抜けて地面に落ちた。

ほら、ね。触れや、しないんだ。いつだって、私が願ったことは全部、《偉い人》たちが私の周りから遠ざけていく。

届かないモノを見ることを、諦めて。夢なんて、見ないようにして。だけど、それでも。外を冒険することは諦めきれなかった。御伽話や物語の中でしか、知らないことを知りたかった。

そういえば、壊しちゃうのは嫌だからってかわいいリリーへ預けた、フォルスからの贈り物は、どうなったんだろう。紫色の、私の眼とおんなじ色をした石が着いたピアスは、妹の耳元できちんと輝いているかな?誰かにとられたり、していないといいな。だってあれは私が、フォルスからもらったものなんだ。リリーにはあげても他のヒトのモノになっているのは見たくないな。


「ね、さま!姉様っ。なんで、私なんか、にそんな大事な、モノっ」


大事な、モノ?なんだっけ。わからない。大事なものなんて、私は作らない。どうせなくなってしまうから。

そうだ…リリーは、私の大事なもの、だ。それは間違いない。可愛い可愛い私の妹。大切、な妹。


「りりー…無事、で」


うごかない腕を無理やり動かすようにしてリリーの頬へ、伸ばす。


「姉さま!?」


なんで、かな。リリーが泣いているように思うのは。こんなところに、リリーがいるはずがないのに。この森は私たちハイエルフには危険で溢れすぎている。だから、リリーがここにいるはずもないんだ。

だけど、薄れる視界に映るリリーには傷一つなくて。


「よか、た。幸せ、だ」


幸せ、だなぁ。

なんだか、凄く満ち足りた気分になってきた。血の、流し過ぎかな?ハイエルフ特有の《自己再生》が、少しだけ効いていたのかな?だから、こんなに痛いのに死ねないのかな?

ほら、フォルスも笑ってる。幸せそうに、誰かと笑ってる…。その隣にいられればいいのに、なんて。未練、かなぁ。

もっと、いっしょにいられたらよかったね。一緒だよって約束したけど、守れないや。

ごめんね。

ごめんねフォルス。約束破って。約束守れなくて。

寒いな。体が冷えてきた。次は、ずっとフォルスのそばにいられると、いいな。

ハイエルフ、なんていう釣り合わない種族じゃなくて、フォルスと同じ魔族だったら、いいな。そしたら…いつまでも、いっしょ、だよね?

金色の光に、体がつつまれた、気がした。

酷く安心したような声が聞こえて。意識がシャットアウト。












暖かい太陽の日差しがまぶしくて起きた。こんな時間まで寝てることなんて滅多にないんだけど…。


「う、ん…?」


あれ…?ここは、何処だろう。エルフの里にある、家じゃない。なんで、ああ…カインたちと旅をしてるんだっけ。違う。直前の記憶を掘り起こす。私は、逃げていたんだよ。《守護者》に食われて、死んだんだと思ったんだけど…


「生きて、る?」


あれれ?あれ?なんで、生きてるんだろう?え、だって誰も助けに来るようなヒトはいないのに。

もしかして、これって《偉い人》の策略か何かかな。もしかしてまだ終わってない?

部屋の外から足音が聞こえてきた。くるっ。誰?誰、が…

動かすたびに痛みが走る体に鞭打って、寝かされていたベッドから立ち上がる。

フラリと立ち眩みがしたけど踏ん張る。どこかわからないこの場所で悠長に眠ってなんていられない。

ええと武器…は枕、しかない。もういいや、枕でも投げつけよう。

それで相手が降るんだ隙に空いたドアから脱出。よし、これで行こう。

ガチャリ、とドアノブが捻られた。


今だっ!枕を投げろっ。



「っ、うく…あっ」


投げようと頑張ろうとした瞬間に、尋常じゃない痛みが体中に走った。動けなくなってうずくまる。

…え?そん、な。逃げられない。

ドアが開いた瞬間にびくりと、体が震えた。何を、言われるんだろう。ギュッと目をつぶる。そんなことをしたところで大して結果は変わらないんだけど、気持ちの問題。


「リーシェ!?」


予想と反して、入ってきたのはフォルス。なんで?


「うぁ…、フォル、ス?」


あれ、本物?なんで、フォルス?

フォルスが、すっ飛んできた。


「起きたのか!?いや、それよりもなにしてる!まだ寝てろ!死にかけたんだぞ!!」


なんで、そんなに必死なの?フォルスってもっと、飄々としてて斜に構えてなかったっけ?


「え?ちょ、フォルス?」


えらく必死な顔をしたフォルスに横向きに抱きかかえられてベッドへ押し込められた。


「心配、したんだからな!いきなり、ぼろ雑巾みたいで…」

「うん?いや、だから、これどういう状況なの?なんで私、生きてるの?えと、ユメ?」

「バカ。俺たちが、間に合ったんだよ」

「間に合う?あれ、幻覚じゃなかったの!?」


嘘、嘘…。え?ええ?そ、そんな!幻覚だと思ったのにっ!恥ずかし、恥ずかしくて死ねるっ!!


「幻覚?そんなわけないだろう」

「そう、なんだ」


気まずいのはなんで?な、なんか言ってよフォルス!?


「凄く、怖かったんだ」

「え?」


フォルスが、怖かった?何が?なんで?怖いものなんてなさそうじゃない。


「お前が、死にそうだったのが、凄く怖かった。お前も俺のそばからいなくなってしまうんだと思った」

「そん、なこと…でも、だって。フォルスは魔族だけど私はハイエルフなんだよ?寿命が違うじゃない」


ずっと一緒、なんて。かなわないじゃない。ハイエルフは、500年しか生きられないエルフよりもずっと短い寿命なんだよ?魔族みたいに、1000年も生きられないんだから…。


「は?何言ってんだ?」


あれ?この反応は…。もしかして、だけど。


「…違う、の?」

「いや、待てよ。何言ってるんだ?お前は、誰からそんな、話を聞いた?いや、そいつは何を考えてるんだ?おかしいだろ?魔族もハイエルフも、長寿種だぞ」

「で、でも、だって《偉い人》は、そう言ってて」

「お前がいた里の?」

「うん」


なんで、フォルスはしかめっ面をしているのかな。何か気に障るようなことを言ってしまったのだろうか?


「…あの、な」


首へ手をあてたフォルスは言い出しにくそうに話を切り出す。


「何?」

「お前、やっぱりおかしい。お前と言うか、お前がいた里が、おかしい」


いきなりおかしいってひどくない!?って、里が?そうかなぁ?


「私の里?」


そういえば、カイトとかミューとかリリーは、どうしたんだろう?

私の里がおかしいってどういうことだろ?


「いいか、よく聞けよリーシェ。普通、エルフはな。ハイエルフを王族として大切にするんだ」

「ええ?何それ新手の冗談なの、フォルス。そんなの何世紀も前の話でしょ?だって、私は、私はハイエルフだけどそんな扱いされたことないよ」


王族、なんて何それ?


「だからお前の里はおかしいと…。おそらく原因は《守護者》にありそうだが」

「《守護者》?だって、《守護者》はハイエルフしか襲わないよ?だから、ハイエルフは忌み嫌われてて、それで、ぶたれて殴られて蹴られて」

「いい。別にお前が何されていたのかとか聞きたくない。ただでさえ、里を燃やし尽くすのを我慢しているんだ。これ以上何か言われたら抑えきれなくなるぞ」


いや待ってよフォルス!今凄く危険な単語が聞こえたんだけど!


「燃やす?えっと…フォルスは、一体何をしようとしたの?っていうか、あの…カインとかは?リリーは?」

「バカインは、ミューに引きずられて薬草積み。リリーは、ハイエルフをキチンと敬っている里の面倒見がいい俺の知り合いのハイエルフのところ」

「えっ」


ちょ、待ってよ!?


「私、リリーとお話したかったし!そ、それにフォルスからもらったピアス預けたまんまだよ!」

「ピアスならいくらでもやるから。…お前に言わないで預けたのは悪かった。だけど、妹がいたらできないこととかたくさんあるだろ」

「たくさん?そんなにあるの?」


リリーがいるとできないことってなに?


「ああ、ある」

「へぇ…。じゃないよ!!私、あのピアスがよかったのに!フォルスが、初めてくれた、ものだったのに!初めて人からもらったものだったのにっ!!」


紫の石がキラキラしてて綺麗だったのにぃ~。


「初めて?お前、歳いくつだったか?」

「165歳、だけど」

「それなのに、誰からも貰ったことが無かったのか?好き、とか言われたことは?告白されたこととかはないのか?」

「ないよ、そんなの。ハイエルフになんてする人がいるわけないじゃない」


何真面目な顔して面白いこと言ってるの。


「そうか…。それは、一度認識を改めてもらうか…いや、だけど他の里に連れて行ってとられるのもまた…」


ブツブツと悩みだしたフォルスだけど、何悩んでるのか半分もわからない。認識を改めるってどういうことかなぁ?酷いよね、フォルス。


「フォルス?」

「あ?ああ、気にするなリーシェ。こっちの話だ」

「ならいいんだけど…この体制どうにかならないの?」


なんでフォルスはそんなに顔が近いのかな?



「なぁ、リーシェ。お前のことが、好きだ」


うん?顔が赤くなるのを抑えて、普通通りに聞こえるように努める。


「ありがとうフォルス」

「サラッと流されると悲しいんだが」

「え?」

「だから…ずっとお前の傍にいたい。そういう意味での好き、だ。わかるだろう?」

「それ、って。その、こく、はく?えと、なんで急に?いや待って、何の冗談かな?え、カインとか隠れててドッキリ!とかじゃないの?マジで言ってる?」


ど、どっかにカイン隠れてるんじゃないの?いや、なんでそんな話になっているの?顔赤いよぜったい。なんでフォルスはそんなに真顔で言ってくるの嘘だよね?フォルスが私のことす、好きとかそういうの、嘘じゃないの?ええ?ええええ?


「お前に急にいなくなられて、やっと自分の気持ちに区切りがついたんだ。お前を失うのは嫌だ。俺もまだ、300歳ギリギリ超えていない歳だけど、まだまだ俺たちの人生は長いから、その途中で心変わりすることもあるかもしれない。何よりも俺とリーシェは種族が違うから。だけど…心変わりするまでは、それまででいいから俺と一緒に歩いてくれないだろうか?」


そうなんだ。…え?


「え?フォルス、そのね?た、確かに私だってフォルスとそういう関係になりたいなぁなんて思っていたこともあるわけですけどね?いや、そうじゃなくてそんないきなりぶっちゃけれられても反応に困るというかなんというか起きたばっかりで実は状況がよくわかってないんですけとりあえず覗き見しているカイン君をどうにかした方がいいんじゃないかなぁなんて」


ワンブレスで言い切れたぜ。内容は、アレだけど。


「バカイン?…ああ、ちょっと絞めてくる」

「いやそれは、その…」


血塗れになったカインの姿が鮮明に浮かんだので慌ててフォルスの裾をつかんで引き止める。


「リーシェ、邪魔するな」

「あの、さフォルス。少ししゃがんでくれる?」


首をかしげて頼むとフォルスは、しゃがんでくれた。その耳元にそっと囁く。

だって恥ずかしいんだもん。


「あのねフォルス。私も、好き。…好き、だよ」


多分、真っ赤になってるだろう顔を見られないように俯いてフォルスから隠す。


「いいの、か?」


驚いたようなフォルスの声。きっと、私の返事が、意外だったんだ。だけどねフォルス。私だって、いきなり言われて驚いたんだ。だって、そんな素振り見せなかったよね?


「いいよ。気づいたら目で追っちゃってたんだもん」

「…俺もだ」


え?と口を半開けにしてフォルスを見上げる。フイと逸らされちゃって顔は見えなかったけど、耳が真赤。照れてる?


「フォルス、照れてるの?」

「うるさい」

「てれてるんだー」


ニヤニヤ。かわいい。フォルスって、いっつも不機嫌そうなんだもん。それ以外の表情あんまり見ないんだよね。こっち向いてくれないかな。…無理か。


「…」


スッと切れ長の眼が見おろしてきた。


「どうかした…んっ」


んんん!?フォルスの顔!顔が目の前っ!キスされてる!!どゆことっカインいるのに!?忘れてるのフォルス!?


「そうやってシツコイ奴にはお仕置きが必要、だよな」


眼ぇ閉じろよ、と色気のあるちょっと低い声で囁かれる。


「え、ちょ待っ」


グイッと今度は強引に。


「…じゃあ」


うぇええ!?じゃあ、って何!?なんでいっちゃうの!?

あ、カイン捕まって引きずられてった。


じゃないよ!なに今のなんでいっちゃうの!


「どうしよう…」


まともに顔見て話せるかわかんなくなってきたよ!フォルスのバカ―。



これから本当に、どうしよっかな。


とりあえず、皆とまた旅を続けられるんだからいろんなところを見に行こう。いっぱいいっぱい。いつ死んでも後悔しないように、したいことをするんだ。


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