召喚+事故
作者のひねくれ具合のにじみ出る小説もどきです。
剣と魔法の世界エルファーコセポ。この世界は今、魔王軍による侵略によって闇にのまれようとしていた。光に属するすべての種族は手を取り合い、これに対抗しようとしたが叶わず、わずかな生き残りたちは起死回生の最後の手段として秘術である勇者召還を試みた。生き残りの中で魔術の心得のあるものが総動員され、質を量で補うことでかろうじてその秘術は成功し、召喚陣は勇者の存在する世界へとつながった。
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某月某日、大学生である江橋祐は高速を走っていた。祐は何となくやることがない日はこうして車に乗って気の向くままに走らせるのが趣味である。その中で一番良く走らせるのは交通量が少ない見晴らしのいい直線。祐はこの直線で限界まで速度を上げて走らせるのが気に入っていた。もちろんエンジンに負担はかかるし、交通量が多い時は無茶はしない。そもそも直線でしかそんな速度を上げないあたり、事故を起こしかねない走り方をできる性格ではないのだ。
その日は祐の車以外まったく見えないうえに、前日の雨でいつも以上に見通しがいい。祐はどうせなら最高速度に挑戦してみるかとアクセルを踏み込んだ。
時に慣性の法則というものをご存じだろうか。まあ名前ぐらいは聞いたことがあると思う。慣性の法則とは『物体はその運動状態を保持する性質を持つ』というものである。まあつまり、何が言いたいかというと。走っている、それも限界速度を目指していた車は急には止まれない。たとえ目の前に光り輝く魔法陣が現れ、とっさにブレーキを踏んだとしても。
一瞬だけ甲高いブレーキ音を響かせた直後、祐は地球上から消え去った。愛車ごと。
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召喚陣が無事に現れたことでエルファーコセポの生き残りたちは歓喜の声を上げながら現れる勇者を迎えるべく前に進み出た。次の瞬間召喚陣から飛び出してきた祐の車は、数百キロの重量と時速200キロ手前の速度をもってエルファーコセポの人々をボウリングのピンと見まごうほどに弾き飛ばし、触媒として用意された巨大なオブジェに激突、大破した。さらに漏れ出したガソリンはショートしたバッテリーから飛んだ火花に引火し、辺りを焼き払った。
その日、エルファーコセポは最後の抵抗勢力を失い、闇に包まれたのだった。
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