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Out of the cage  作者: 瓢箪独楽
一章 -Crow to hatch-
9/27

目標

 激しい騒動は過ぎ去り、4人は後片付けをしていた。

粉々になった扉、穴の開いた壁、壊れたモニタ。

それらの残骸や破片を掃除しなければ、さすがに宇佐美が可哀想だ。

「ふぅ…… 台風一過とはまさにこの事だな。おーいアリアー、こ

 れも一緒に捨ててきてくれよ」

細かな破片を袋にいれ、焼却炉に持っていこうとしていたアリアに

声をかける。

「ん。わかった」

一つ増えて両手にゴミ袋を抱え、外に向かうアリア。

「あ、アリアちゃん! うちも一緒に行ったるわ」

扉があった場所から出て行くアリアを追いかけて、雛子が走って行

った。


「全然似てやしねぇが、なんかあの二人って姉妹みたいだなぁ」

穏やかな表情で、出て行く二人を眺めるクロウ。

「何を父親みたいな目をしているんだい?」

ニコニコしながら宇佐美がひやかす。

他愛も無い会話をしながら、二人は荒れた部屋を綺麗にするのだっ

た。


――それから暫くの後


「うん。みんなありがとう。随分片付いたね」

未だ扉の無い部屋の真ん中に立ち、満足げに宇佐美が礼を言う。

「まぁこれくらい大した事じゃねぇよ」

「ほんまや。それにアンタは服借りてる恩もあるしな」

「うるせっ、わかってるっつーの。な?アリア」

痛いところをツッコまれ、逃げるようにアリアに話しかけてみる。

「うん。それにね、困った人が居たらお手伝いしてあげないとダメ

 なんだよ」


(たまに子供っぽい事を言うんだよなぁ、なんか安心する……)

そんな事を考えていると、部屋から逃げ出した時のあの(・・)アリアが頭

に浮かぶ。

 一体どっちのアリアが本当のアリアなのだろう……。


(って、俺は一体何を考えているんだ。どっちもアリアに決まって

 いるじゃないか)


「何をバカな事を」と、余計な考えを振り払った。


「さて…… と。これからどうしようか?」

綺麗になった部屋の真ん中で、宇佐美が皆に問う。

「そんなん決まってるやん。研究所に乗り込んで妙な機械をブッ壊

 したったらええねんやろ」

拳を握り締めて意気揚々な雛子。

「雛子。壊しちゃ、ダメ」

どう見ても年下のアリアに注意され、頬を赤らめて苦笑い。

「でもまぁ確かに、乗り込まなきゃ何も出来ないんだよな。ただ俺

 が思うに、自動で造られている機獣とかって大量に存在するんじ

 ゃないのか?」

クロウの言葉を聞いて、雛子があっと声を上げる。

(オイオイ…… 今まで気付いてなかったのかよ)

「クロ君の言うとおりだね。正直どれくらいのペースで量産されて

 いるかは分からないけれど、僕達だけで乗り込むってのは、得策

 とは言えないと思うよ」

気になるところでもあったのか、後ろのモニタを布で拭きながら宇

佐美が賛同する。

「やっぱそうだよなぁ。うーん、どうしたものか」

どんよりとした雰囲気がその場を支配し始めようとした時、気にな

っていた部分が綺麗になったのか、満足気にモニタを眺めながら宇

佐美がある提案をする。

「だったらさ、仲間増やすってのはどうだい?」

「仲間? つーかこの辺りに人なんて居るのかよ?」

部屋から飛び出て、これまで本物の人間には二人しか出会っていな

いわけで、クロウからしてみれば、かなり自然な質問だった。

「その点は大丈夫だよ。ってそうか、まだこの事も言ってなかった

 ね」

ごめんごめんと頭を掻きながら謝る。

「僕等が目指すテクラ電磁研究所ってのは、ここから北に二十キロ

 メートル程の場所にあるんだ。でね、実は丁度ここと研究所の中

 間辺りに、とある地下街があるんだよね」 

「なるほど。ってことはだ、そこに行けば誰か同行してくれるヤツ

 が居るかもしれねぇって事だな。……ん? 待て待て、そんな場

 所に住んでいて、機獣とかに襲われたりはしてないのか?」

途中までは、なるほどといった表情で喋っていたクロウの顔が、会

話の後半には疑問を持った表情に変わっていた。

「そこなんだよね、注目して欲しかったのは。そんな場所で未だに

 街として住んでいられる理由がある…… って事なんだ」

ポンと手を叩いて続ける。

「その場所は僕みたいな機工魔術を使う人間、機術師と呼ばれる者

 が少数だが住んでいる街。つまり、彼らが守っているからこそ存

 在していられる街なんだ」

一瞬立ち止まり、落ちていたガラス片を拾い上げる。

「だからね、きっと僕らにとって大きな力となってくれる人が見つ

 かると思うんだ。彼らだって機獣達の侵攻に対抗している訳なん

 だし」

「おおっ!それはちょっと期待できそうじゃねぇか!」

今度こそ合点がいったという顔をしているクロウ。

先に続く道が少しだけ見え、安堵と喜びを感じる。


 そしてすぐにまた考え込む。

「ところでよぉ、そもそも機工魔術や機術師ってなんなんだ?」

かねてより、数回出てきていた単語についてクロウが問う。

「それに関しては、これから行くであろう場所までの道すがら教え

 ることにするよ」

「これから行くであろう場所?ああ、地下街か。つーか早速向かう

 のか?」

「都合でも悪かったかい? 部屋も綺麗になった事だし、これ以上

 ここで足踏みしていても、状況は変わらないと思うよ。君達はど

 う思う?」

 宇佐美は、我関せずといった感じで辺りを見回しているアリアと、

これまた我関せずといった感じでウトウトしている雛子に声をかけ

る。

「ふぇ? あーうちは何でもかまへんで。楽しけりゃぁそれで良し

 やな」

欠伸をしながら答える雛子。

「私はクロと一緒なら何でもいいよ」

当たり前だといった表情でアリアが続ける。

「だそうだよ、クロ君」

にんまり顔の宇佐美。

「わかったわかった。お前ら俺よりワクワクしてんじゃねぇのか?

 よし、んじゃぁ早速その地下街に向かおうぜ! と、その前に各

 自色々準備が必要なんじゃねぇか?」

クロウとアリアには特に準備といったものは必要ないが、彼らはこ

の場所に、暫くの間住んでいたのだ。それなりの準備や戸締りなど

など、必要だろう。

「そうだね。それにいつの間にか外も暗くなってるみたいだしね。

 夜が明けてから出発しようか」


 それから程無くして、4人はそれぞれの部屋に戻っていった。と

いっても、クロウとアリアは例のクロウが寝かされていた部屋なの

だが……。


ギィィ バタン


「ふぅ、なんだか色々と忙しかったなぁ。全然思い入れの無いこの

 部屋も、今はどこか懐かしいな」

そういってベッドに腰をかけるクロウ。そのとなりにちょこんとア

リアが座る。

「疲れた?」

「そうだなぁ、長い軟禁生活とここに着いてからの長時間睡眠で、

 かなり身体は鈍っているな。アリアは疲れないのか?」

機人であるアリアにも疲れといったものを感じるのか聞いてみた。

「んっと…… 長時間起動していると、演算力とか色々なものが落

 ちてくる。これって疲れているって事かな?」

「なるほど…… そうだな、それも疲れているって状態かもしれな

 いな。ならアリアもゆっくりと眠……るのか?機人も眠るの

 か?」

休めと言おうとして、また新たな疑問が浮かぶ。

「眠るっていうのは、人間が表面上活動を停止して、身体の調子を

 整えたり、記憶の整理をする事だよね。機人も休止状態になって、

 メモリの整理とか色々する事があるよ。これって眠るって事?」

どうやら質問に質問で返すのがアリアの得意技らしい。

「ああ、きっとそれは眠るってやつだな。それならこのベッド使っ

 ていいから今日はもう休むといいぞ」

そう言ってベッドから立ち上がり、眠るようにとアリアに伝える。

「うん。じゃぁ寝る。クロ、おやすみ」

クロウのいう事をちゃんと聞くアリア。もう寝息を立てている。

「もう寝てやがる。クロウは寝なくていいの? とかいう気遣いも

 無くあっさり寝やがって」

そんな事全く気にしていないのに、わざわざ憎まれ口を呟くクロウ。

「クロウは寝なくていいの?」

「どぅわぁっ! 起きてたのかよっ! 気にしなくていいから、ほ

 らほら寝た寝たぁ!」

全身から冷や汗が吹き出るほどに驚いたが、なんとか持ちこたえて

アリアを寝かせる。

 するとまた、スースーと寝息を立てて寝付く。


(今度は本当に寝たんだろうか。まぁそっとしておいてやるか)


 ベッドに眠るアリアを起こさないように、静かに窓際へ椅子を持

っていき、そこに腰掛けて夜空を眺める。

 大きな月が紺色の夜空に浮かんでいた。


(アリアか。機人の女の子……ん? そういえば機人ってことは、

 アリアも誰かに作られたって事…… だよな? 一体誰に…… 

 テクラってやつか? だとすれば何故、俺と同じ場所に彼女は居

 たんだ?)


 嫌な汗が体中から噴出すのを感じた。アリアに視線を移した彼の

瞳に、僅かな恐れが見える。


(いやいやいや、だとしてもだ。今現在、俺達と一緒に居るアリア

 は、優しくて素直でいい子じゃないか。だったら彼女が誰に作ら

 れたかなんて関係ねぇ! そうだ全然関係ねぇ! むしろ気にな

 るのは、俺が居たあの場所がテクラってやつと関わりがあるかも

 知れないっ事だ。これについては明日、宇佐美に聞いておく必要

 があるな……) 


 もっとも宇佐美がその事実を知っているかはわからないのだが。

ただ、色々と深いところまで情報を持っている、怪しいヤツってい

う印象の宇佐美。何かしらの情報はあるんじゃないかとクロウは考

えていた──



まだまだ必要な情報や、知りたい事はたくさんある。だが今は、と

りあえず明日の出発に向けて身体を休めるのが先決だと、クロウは

ベッドの足にもたれて深い眠りに着くのだった───

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