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Out of the cage  作者: 瓢箪独楽
一章 -Crow to hatch-
8/27

機械と魔術


ガシャァァァンッ──


 いきなりの有得ない音に、四人の顔から笑顔が消える。

「何だ一体!」クロウがそう言うより早く、

宇佐美がキーボードを操作し、監視カメラの映像を映し出す。

カメラは建物内を映していたが、窓の外の様子も伺える様に設置さ

れているらしい。

 先程の音は、その窓が割られた音のようだ。そしてそこには、4

体の機獣と、それらに指示を出していると思われる一人のタキシー

ドを来た男が、今まさに建物内に進入しようとしているところが映

っていたのだ。


 自分達が置かれているのは、明らかに危険な状況。クロウは声を

抑えて呟いた。

「おいおい、機獣と人って一緒に行動できるのか?それとも、あい

 つがテクラ博士ってやつなのか?」

それに答えたのは同じく声を殺した、だが意外な相手だった。

「あれ、人じゃない。あれは機人」

驚いて声の主を見れば、隣に居るアリアだった。

「アリア、おまえ…… わかるのか?」

「うん、クロも知ってるでしょ?私も機人。だから私にはわかる」

理屈はわからないが、アリアの言う事だ。十分に信用するに値する。


「なぁ」

少しの沈黙から、誰に言うでもなくクロウが言う。

声は出さないが、皆が、どうしたとクロウを見る。

「落ち着いて話をしている場合じゃないよな?」


 ………。


「いやこれやべぇぇだろぉぉっ」

先刻までの意気はどこに行ったのか、あたふたあわあわするクロウ。


バシッ


「落ち着かんかい!」

見かねた雛子がクロウの後頭部にツッコミをいれた。

「痛っ!わかった スー ハァー よし、もう大丈夫!で、皆落ち

 着いてるけど、どーすんだよ?策があるのか?」

それを聞いた宇佐美が、

「策…… 策は無いね」

そういって笑っている。

「いや、だったら尚の事、笑ってる場合じゃねぇだろ!」

「まぁまぁ、落ち着いてよクロ君。策は確かに無いよ。だけどね、

 僕らには力がある。」

「はぁ?俺にはそんなもん無ぇぞ。それにお前だって、正直ひょろ

 っとしていて、戦えるタイプじゃなさそうだぞ」

そこそこ失礼な言い草だが、クロウの中では緊急事態が故に許され

る様だ。

「おっ、なんとも失礼な言い方だね。でも確かに僕自身(・・・)

はそんな力は無いけどね。だけど心配いらないよ。ほら、出ておい

で、ウィル」


 宇佐美が何も無い空間に向かって声をかける。すると、声をかけ

た辺りがうっすら白く光り始めた。その光が中心に向かって収束を

始め、次の瞬間――

 そこには掌に簡単に収まりそうな、ぼんやりと青い光を纏った小

さな玉が現れたのだ。


「うおぅ! なんだ、これ……」

空中に漂うその玉をみてクロウに言える事は、ただそれだけだった。

「いいねぇ、その反応。」

クスクス笑う宇佐美。

「この小さな玉は、僕が昔ある人から譲り受けたものでね。機械妖

 精(Machine fairy)と呼ばれる物なんだ。ウィルっていうのは

 僕がつけた名前。アリアちゃんには敵わないけれど、一応AIも

 積んでいて中々に賢いんだよ。そして機械妖精は特定の人間と契

 約して、契約者に力を与えてくれるんだ」

 ほぅほぅと頷くクロウの周りを、ひやかす様にウィルが飛び回っ

ている。ウィルの残した青い光の残滓が、短い飛行機雲のように残

っていて、クロウはただ、綺麗だなぁと見とれていた。

「どんな力かは後でね。これで僕に関しては分かってもらえたか

 な?」

クロウは黙って頭を立てに振った。

「で、雛子ちゃんの方は…… もう知ってるよね?」

悪戯っぽく笑う宇佐美に続いて雛子が言う。

「うちは、コレや」

そういって一対のバールを掲げて見せた。

「ああ、それは身をもって知ったからな…… でもよ、結局体は生

 身って事だろう?それでヤツらと戦えるのか?」

バールを武器として存分に扱えるとは言え、心配がないわけではな

い。

「まぁそうやなぁ、そこ考えると思ってたわ。それも実は心配いら

 んねん。宇佐美は自分で機械妖精を調べて、いくつかの技術を学

 んだんよ。んでな、それを使って、うちのバールにもちょちょい

 と改造を施してくれたってわけや。だから一応、物理障壁くらい

 やったら張れるんよね」

ドヤ顔でバールを振り回している。

「そ、そうか…… すげぇな」


(と、言う事は危なっかしいのは俺だけ…… か。アリアにはなん

 ていうか、覚醒モードっぽいのがあるし…… あー俺情けねぇ)


こんな事を考えているなんて言える訳も無く、膝の震えは武者震い

だと自分に言い聞かせた。

「……っと、お話はそこまでにしとこうか。見てごらん、侵入者達

 がすぐそこまで来てるみたいだよ」




   ~~Enemy side~~


 4体の機獣とそれらを率いる機人は、ゆっくりと歩いていた。そ

の容姿は、白髪、皺が深く刻まれた顔。それでいて、姿勢のしっか

りした老人。身に着けたタキシードと相まって、かなり気品あるよ

うに見える。機人であるといわれても、到底気付けないほど人間そ

のものだった。

 彼らは間違いなくクロウ達を探しているのだろう、辺りを確認し

つつ、ゆっくりと進んでいく。

と、その時。機人が掛けている左目のモノクルのレンズに、赤い光

が点滅した。


ピタッ


彼らは同時に足を止める。

その眼前には宇佐美の部屋に続く扉があった。

彼らの間に言葉は一切交わされない。

だが意志の疎通は出来ている様で、

機人が右手を扉に向けてかざすのと同時に、

機獣達は体勢を低く構えた。


「――」


言葉なのかすら分からない、甲高い音を短く吐き出す機人。(おもむろ)に絹

の手袋をはずし、右手を扉にかざす。

するとかざした掌に、ピンポン玉くらいの穴が開いた。

そして再び


「――」


甲高い音。と同時に今度は手の穴の奥が輝きだした、


キィィィィン


 その光がある一定の輝きに達した直後、

そこから一筋の細い光が放たれた。

 一瞬辺り一体が光に包まれたかと思うと、

爆音と共に扉は跡形も無く崩れ去っていた。


巻き上がる砂埃と木片。


 侵入者達は微動だにせずに、それらが収まるのを待っていた。十

秒ほど経って次第に視界が晴れてゆく。

 部屋の奥には一人の男が立っていた、宇佐美だ。機人が歩を進め

ると同時に、機獣達が一斉に侵入する──


 宇佐美から五メートルほどの距離を保って四体が取り囲む。威嚇

する機獣とは別に、機人は辺りを探っている。

「どうしたんだい? ああ、僕一人だから怪しんでいるんだね。そ

 の感覚は正常だよ。でも少し遅かったかな」

その言葉が終わったと同時に、並んだ4体の機獣のうち真ん中の二

体の首から先が、グシャっという音と共に粉々になって消えた。



 無表情ではあるが、その後ずさりから機人の驚ろきが感じ取れた。

頭を失った二体は、火花を散らしながらその場に崩れ落ちる。他の

二体は、既に機人の前まで飛び退いて、そこで威嚇行動を取ってい

る。

「ハハハッ、怖いね。そんなに威嚇しないでほしいな。君達が窓と

 扉を破壊したから悪いんだよ?」

機獣はその体勢のまま、機人は無表情のまま目の前の男を見ている。

「ところで君達の用件っていうのは? って、まぁ予想は出来てい

 るんだけどね。用件ってのは彼らだろ?」

宇佐美はスッと顔の横まで右手を上げ、

「コード…… キャンセル」

そう言ってパチンッと指を鳴らした。


 一瞬、機人達の思考にノイズが走る──

視界がグラりと揺れたかと思うと、宇佐美の右後ろに、探していた

物が突如現れた。

「本当に認識できなくなるなんてな…… すげぇじゃねぇか宇佐

 美!」

現れた物…… それはクロウとアリアだ。

「私はなんか気持ち悪かった」

アリアがよろけながら言った。

「ああ、ごめんごめん。機工魔術を掛けられるのは、さすがのアリ

 アちゃんでもキツかったかな」


 宇佐美という男は今油断している――


 そう判断した機人達。

まず動いたのは2体の機獣。

それぞれが左右の壁目掛け、高速で移動する。


そして壁を蹴りつけ、

更にその速度を上げ宇佐美を挟撃する。


が、その攻撃が彼らに届く事は無かった……。

二体の牙が彼らを捉える前に彼らは粉々に砕け散ったのだ。

 しかし、それで宇佐美に襲い来る攻撃が終わったわけじゃない、

機人が右手をかざし、その手が輝いている。

そして間髪いれずに放たれた光は、宇佐美にに着弾…… しない。

 一筋の光は彼に着弾する直前、グニャッとその軌道を変え後ろの

壁を貫いた。


「無駄だよ。さっき言ったよね、僕は機工魔術を使えるんだよ?

 そんな単調で弱い攻撃が有効なはずないよね」

「はずないよね。じゃねぇよ! 危ねぇなぁ!」

クロウが叫ぶ。

軌道の変わった攻撃はあわやクロウに直撃するかといった所だった。

「あっははは、ごめんごめん!」

腹を抱えて笑う宇佐美。

 状況にそぐわない楽しげな雰囲気をきにせず、次の攻撃に向けて

光を溜める機人。それを感じたのか、宇佐美が声を発する──

「雛子ちゃん!」

「わぁぁかってるわぁぁぁっ!」

突如機人の前方の空間に現れた雛子!

トレードマークの一対のバールを振り降ろし、機人が伸ばした手を

粉砕する!

 着地と同時に、宇佐美の前まで飛び退く。

「ニィッシッシ、さっきから頑張ってた雛子ちゃん、やっとこさ登

 場やっ!」

ズサァと滑りながら啖呵を切ってドヤ顔。さすが雛子だなとクロウ

は内心思っていた。



一体の機人。 それと向かい合う四人。

しばしの静寂が訪れた。


「――」


それを破るように、機人が甲高い音をあげる。

「おぉ? なんだなんだ……?」

興味津々と言った感じでクロウが呟く。

そしてその音は止んだ。


また訪れる静寂……。

しかし今度はその静寂が破られる事は無かった。

「あ…… れ?」

間の抜けた声をあげるクロウ。

「シャットダウンしたみたいだね。機人は高性能なCPU。でも結

 局CPUなんだよ。対応できない事象を前にすればオーバーフ

 ローを起こして、勝手にシャットダウンしちゃうんだよね。今回

 は成す術無しって感じでシャットダウンした…… ってところだ

 と思うよ」

「なるほど…… すごく諦めが良いってことは覚えたぞ」


そういってクロウは、動かなくなった人形をジッと眺めていた──

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