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Out of the cage  作者: 瓢箪独楽
一章 -Crow to hatch-
7/27

世界 -Final sectionー


 ガチャ


 クロウが休んで居た部屋の扉よりも、少しだけ重い音をさせ扉が

開く。宇佐美から借りた服装に着替えたクロウが、宇佐美と共に彼

の部屋にやってきたのだ。


 彼の部屋は、クロウの部屋から廊下を暫く歩いた所にあった。

間を繋ぐ廊下は建物の外見のままに、古い時代のフランスの王宮を

思わせる、中々に芸術的な雰囲気を醸し出していた。

 廊下を歩いている際に見かけた時計によると、時刻は午後4時を

回ったところらしい。少し日が傾きかけた頃か。外の天気と相まっ

て、辺りは結構薄暗くなってきていた。


「ここが僕の部屋。遠慮せずに入ってよ」

さぁ、とばかりに手を動かす宇佐美。クロウは入り口から中の様子

を伺って、しばし唖然としていた。

 薄暗いが青白い光に満ちた部屋。

壁一面にパソコンのモニタが取り付けられ、部屋のど真ん中に小さ

な机とキーボード、そして座椅子が置かれていた。

 先に来ていた雛子とアリアはというと、雛子の方はボーッと突っ

立て居るし、アリアは興味津々といった感じで見て回っている。

「おぉ…… これはなんとも。いや…… うん、凄いな」

と、間抜けな声が勝手に漏れていた。

あ。そう思って宇佐美を見ると、やっぱりクスクスと笑っていたの

だった。

「君の反応は一々面白いねぇ。そういえば…… ふむ。僕のお古だ

 けど中々似合っているじゃないか」

「ん、そうか? まぁそう言われて悪い気はしないけどな。服、あ

 りがとな」

感謝を述べるクロウ。

 と、二人に気付いたアリアが声をかける。

「あ、クロ」

テトテトと歩いてくる。

「お~、中々似合ってるやんか。ええやんええやん!」

少し離れたところから雛子も続ける。

黒い革製のパンツと白いカッターシャツといったありきたりな服装

だが、元が病衣であったが故の『ギャップ萌』に近い感覚が生まれ

たのだろう。


「よぉアリア、待たせたな。雛子も」


大丈夫といった感じで笑うアリアと、かまへんかまへんとばかりに、

手をヒラヒラさせる雛子。

 このまま入り口に立っているのもどうかと思ったので、とりあえ

ず部屋の中に入る。


ギィィィ バタン


後ろで扉を閉めた宇佐美が部屋の真ん中、メインモニタの前まで来

る。

「みんな揃ったことだし、そろそろ真面目な話の続きをしようか」

言いながら、各モニタに画像ファイルやら色々と展開していく。

「ああ」「うん」「ほい」

それぞれがそれぞれの言葉で返事して、思い思いのモニタを見てい

る。


「まずはコレを見てくれないかな」

そういって宇佐美が一つのモニタの前に立つ。

そこには人の気配が全くしない、()ショッピングモールが映っ

ていた。

外れかかった看板や、落ちた電球、コンクリートで舗装された道路

も、ヒビが入ってその隙間から雑草が生えている。

「人、居ない。なんだか…… 寂しい」

アリアが呟いている。

「ああ、全くだ。なぁ宇佐美、これが今のこの国の姿って事だ

 な?」

「そういう事。正確にはこの国のおおよその姿かな」

「おおよその?」

クロウが聞き返す。

「そうだよ。それじゃぁ次は……」

そういって宇佐美は別のモニタに移動する。

 そこには、暗い場所で寄り添う様に生活をする人々の姿が映って

いた。皆、例外なくやつれていて、生活の過酷さが伺える。

「これは地下…… か?」

薄暗いその場所は、見る限り壁に囲まれていて、その壁にはたくさ

んの横穴らしきものが開いていた。壁のひび割れた部分からは水が

チロチロと流れている。

「そう地下だよ。今現在生きている人間の大半は地下に暮らしてい

 るんだ。君達が追われたのと同じ、機獣から逃れる為にね。だか

 らこの日本のあちこちに、こういった小さな地下都市…… まぁ

 都市とは言えないけれど、そういったものが存在しているんだ」

「酷い話だな」

「本当にね」

率直なクロウの感想に返事をする宇佐美は、ジッとその画像を見て

いた。

「なぁ宇佐美、今度は俺から質問があるんだが。そもそも機獣って

 のは一体何なんだ? どこから来るんだ?」

かねてよりずっと疑問に思っていた件について質問する。

「ああごめん。それについても話さないといけなかったね。機獣…

 … 言うならそれは人間を殺す存在。この国から純粋な人間を完

 全に居なくする為の存在。君達が見た狼タイプの他にも、色々な

 動物の姿をした機獣が居るんだ。例えば、鷲や鷹のような鳥タイ

 プも存在するし、昆虫タイプの機獣も存在する。まぁ、昆虫だか

 ら機蟲と言った方がいいのかもしれないね」

クスっと笑いながら続ける。

「そんなわけで、様々なタイプの造られた命が存在するんだ」

そこまで言って、クロウが理解するのを待つ宇佐美。

「かまわない、続けてくれ」

とクロウが言うのを確認して話を続ける。

「もちろん、こいつらが自然にこの世に現れるなんてありえないよ

 ね? そう、これらを造るマザーコンピューターとなるものがこ

 の世界にはあるんだ。それを造ったのは嫉妬に狂った、あのテク

 ラ博士さ。超高周波の電波を利用し、この世界を作り上げた新世

 界システム。それと完全自立型の、擬似生命体を創造する聖母シ

 ステム。これらのシステムを作り上げ、彼はこの状況を造り上げ

 たんだ」

そこまで話して、宇佐美は別のモニタを指差した。

そこには、先ほど見た街の様子と同じように、荒廃した街が映し出

されている。だが決定的に違うのは、街の一箇所に明かりが灯って

いるという事。

「なんで、そこだけ明かりが点いてんだ?」

クロウが指差し尋ねる。

「ここがテクラ博士のラボだった場所、テクラ電磁研究所だよ。あ

 そこには今も聖母システムが存在し、機獣を造り続けているん

 だ」


 宇佐美の話はクロウにとって、余りにも想定外の話だった。

自分はただ、長い間閉じ込められた部屋から外に出て、自分の思い

描いた、憧れた世界で生きたかっただけなのだ。

 自然の中に生きる動物達。街に住み、喜怒哀楽を持って生きる

人々。そこには辛い事も悲しい事もあるだろう。

 だが今までとは違って、孤独じゃない生き方が出来るかもしれな

い。笑い会える友人や、愛し合える恋人に出会えるかもしれない。

そんな憧れを持って、あの時あの部屋を飛び出したのだ。それが外

を出て二日足らずで崩れ去ってしまった。


(納得できるわけがないっ……!)


「おい、宇佐美。この世界は元に戻るのか? 納得いかねぇんだよ

 こんな世界。やっとだ…… やっと外に出れたんだよ! それな

 のに、世界は変わりましただと?人間は住む場所を追われました、

 それで地上には危ない存在がウロウロしていますだと!? はい

 そうですか。じゃ俺の気が収まらねぇんだよっ!」

自分の言葉が激しくなっている。だが気付いていても止められない。

止めない。嫉妬で世界を変えたどこかの博士も気に食わない。

 でも、それより我慢出来ないのは、何もせずに今を受け入れる事

だ!不安や恐れからの汗じゃない、もっと違った汗がクロウの掌を

湿らせている。


 今まで見た事の無いクロウの姿に、アリアは一瞬ビクッと体を震

わせたが、一呼吸置いてから、黙って彼の横に寄り添った。

それが、自分はクロウと一緒に居るという彼女の意思表示だと、

三人にはすぐに分かった。

「この世界を元に戻す方法か。新世界システムを弄ってやれば戻れ

 るんじゃない?」

独特の、落ち着いている中に飄々とした雰囲気を持つ口調で、宇佐

美が言った。

「それで本当に元に戻せるんだな?」

真剣な表情で宇佐美を見るクロウ。

「ん~、正直なところなんとも言えないってのが本音だね。でもさ、

 クロ君……」

と、そこで雛子が割って入ってきた。

「アンタはどっちかわからへんからって、指咥えてここで待ってる

 人間なんか?」

悪戯っぽくニヤッと笑う。

「いいや、そんなわけねぇな。手掛かりがその聖母システムっての

 しか無いなら、そこに行くしかねぇよな!」

お返しとばかりに、白い歯を見せて笑うクロウ。雛子はもちろん、

宇佐美やアリアもクスクスと笑っている。

「ってことでだ、俺はそのテクラなんたら研究所ってとこに行こう

 と思うんだが……」

「私はクロと一緒に行くよ」

アリアはぎゅっとクロウのシャツを掴んでいる。

「もともと僕はこの世界を元に戻す事を目的に、これだけのコンピ

 ューターを使って情報収集していたんだ。だから一緒に行動させ

 てもらうよ」

お得意のクスクス笑いをしながら宇佐美は言った。

「うちもこんな世界嫌やしなぁ。それに、アンタらと居ったらおも

 ろそうや!」

雛子は何故か腰のバールを取り、それをブンブン振り回している。


 利害の一致とはいえ、一緒に行動してくれる仲間が出来たことが

クロウは嬉しかった。自分は今までずっと一人だったのだから……。

 そんな事を考えて居た時───


ガシャァァンッ


不意にガラスが砕ける音が四人の表情を一変させた──

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