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Out of the cage  作者: 瓢箪独楽
一章 -Crow to hatch-
2/27

出会い

 ── 轟音が響く。

クロウは乱立する大木に背中を預け腰を下ろしていた。

「――ったく、まいった。かなりまいった」

暫く走り続けたせいで息が上がってる中、誰に言うでもない独り言

を呟いてクロウは目線を下に向ける。そこには、少女が抱きかかえ

られていた。

「なんだってんだ。子供一人抱えてヤツ(・・)らから逃げるって

 のは、少々酷だぞっ」

文句を垂れながらクロウは、一時間程前の事を思い起こしていた。

部屋から出て外に向かう途中にあったもう一つの部屋。クロウはそ

こで少女に出会った。




 部屋の中を(うかが)い、言葉を失った彼が見たものは、仄暗い

部屋の隅で幾つもの機器に囲まれ、そこから伸びる大量のケーブル

に繋がれた少女の姿だった。実際クロウが見たのは、数多のケーブ

ルの隙間から辛うじて見える、少女らしき姿。何十本もあるケーブ

ルが小さな身体に集まってる様は、彼女を哀れむよりも先に、クロ

ウを恐怖させる代物だった。


「な…… んだ…… これ……」


 現実離れした光景を目にして、回転を忘れた脳内。その状況でギ

リギリ発した言葉だった。無駄だと解っていながら、それでも状況

を把握するために部屋をグルりと見渡す。

「ん?」

少女の前の機器が目についた。その画面には『ARIA』と映し出

されていた。

「アリア……」

それがこの少女の名前らしい。

 多少落ち着いてきた頭が仕事を始める。

「つーか、名前は分かったが何をすればいいか全然わかんねぇ。何

 が行けば分かるだ……」

愚痴を言えるくらいには平静を取り戻せている。そこで、何かしら

取っ掛かりがないだろうかと、彼女の名前が表示されているモニタ

周辺を眺める。


「なんだこれ?」

モニタの右側に、指一本を突っ込めそうな穴の開いた小さな機械が

あった。

「んー…… 指紋認証的なアレか?」

部屋に置いてきたカラクリ丸で見た指紋認証ロックと、何となく似

ている気がした。

「やっぱ突っ込んでみるしかないよなぁ」

流石に不安は隠せないが、先に進めなければ外には出られない。

渋々クロウは人差し指を挿し込んでみた…。


何かを読み込んでいるような音が聞こえる。

「お? 当りか…… な?」

挿し込んだ指と穴の隙間から赤い光が洩れ始め、認証作業は着々と

行われている様だ。

 するとモニタにあったARIAの文字が消え、その後連続して文字が

映し出されていく。


 password…



 loading…



 success…



 Open the World's Lock.


 最後の言葉が映し出された瞬間、目の前の少女に繋がれたケーブ

ルが、一本、また一本と速度を上げて外れていった。

 徐々にその姿が露わになっていく。

少し青みがかった長い銀髪に、ゆっくりと開いた双眸は薄い紫色を

している。背丈はクロウの丁度胸の辺りだろうか。

 全てのケーブルと言う名の鎖から開放された彼女は、ゆっくりと

クロウの前まで歩を進める。そして彼の目の前まで来たところで、

ゆっくりと言葉を発した。


「ねぇ、あなた…… だれ? あなたがわたしをおこしたの?」


「え? あ、ああ…… お、俺が起こした…… と思う」

どこか眠そうな瞳で見上げられたクロウは、慌ててそう答えた。

「なまえ……」

「え? あー俺の名前か、俺はクロウ。君は…… えっと…… ア

 リアでいいのかな?」

「ク…… ロ? うん。アリア」

「そっか。あとクロじゃなくて、クロウな」

「クロ」

「あー…… うん。それでいいや」

元々、便宜上付けられた名前だ。この際、鳥だろうが色だろうが構

わないか。

 それより先にする事があった。裸の少女をこのままにしていられ

るわけもない。

(何か無いかな。)

部屋を見渡すと、アリアが繋がれていた機器とは反対の壁に、クロ

ウが今身に付けている病衣の様な服と同じ物が掛けられている。

サイズもアリアに合わせて作られているらしい。それを手にとり、

「とりあえずこれ着てくれないかな?」

そう言ってアリアに手渡した。アリアがそれを着ている間、

もう一度ざっと機器や辺りを見渡してみるが、そもそもこういった

モノの知識があるわけでもなく、新しい発見はなかった。


「ん」

短い声。どうやら着替え終わったらしい。

「よし、ちゃんと出来たみたいだな。少し聞きたい事があるんだが、

 いいかな?」

アリアが首を縦に振るのを見て、クロウはさっきから気になってい

る事を質問し始めた。

「まず一つ。アリア、君は一体何者なんだ?」

「わたしは…… アリア」

「いや…… うん、それはもう知ってるんだけど…… もしかして

 それ以外のことは何も分からないのか?」

コクリとアリアは頷く。

「そ、そっか。そいつぁまいったなぁ……」

(この子に聞けば、この施設の事とかもわかったかもしれないが、

この様子じゃ難しそうだな)

色々聞きたいことがあったが、一つ目の回答でその全てが無駄にな

った。

 そこはかとない脱力感に見舞われるクロウをアリアは静かに見上

げている。

(まいったなぁ、早く外に行きたいんだが……。流石に置いていく

 訳にも行かないよなぁ)

若干呆け気味に考えていると、ふいに名を呼ばれた。

「クロ」

「お? ああ、すまんすまん。えーっとあのな? 俺はこれから外

 の世界に行くんだよ」

「そと?」

「そう外だ。ここみたいに狭い所じゃないんだ。もっともっと広い

 んだぞ」

「ひろい……」

「あぁそうだ。色んな生物が居てな、山や川や海、そういった自然

 が一杯あって、人間だって一杯居るんだぞ。俺はこれからそんな

 世界で生きていくんだ」

自分が少々興奮気味に喋っている事に気付き、クロウはなんだか少

し気恥ずかしい気がした。

「ねぇクロ。わたしもいってみたい……。いい?」

クロウは驚いた。提案の内容にではなく、それを聞いて驚かない自

分に。

(そうだよなぁ。小さな女の子一人ここに置いていける訳ないんだ。

 ってことは連れて行ってやるしか…… よしっ!)

「そっか。じゃぁ一緒に行くか!」

「うん」

その時クロウは、初めて彼女が笑った気がした──。

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