君だけの
腕を高く上げて、手を大きく振った。
「またねっ!」
その言葉の意味を、君は知らない。
「……っ、くっ、」
前を向いて、ぼろぼろ泣いた。
顔を下げたら気づかれてしまう。
背筋を伸ばして、しっかり歩いた。
バレてしまったら意味がない。
「っ、ぅ、」
振り返ることはできなかった。
その先に君がいてもいなくても、後悔することに変わりはないから。
だから私はただ前を睨んで、一歩づつゆっくりと足を動かした。
好きだった。
大好きだった。
だからわたしは君から離れる。
『貴女とあの子は違うのよ』
現実はひどく残酷だ。
君はみんなの大きな憧れで。
君はみんなの大きな希望で。
『あの子にもう近寄らないでほしいの』
……わたしはただの邪魔者だ。
君の障害にしかならない存在だ。
『お願いだから、君まで俺から離れないで』
……わたしはただの邪魔者だ。
君の未来には無駄な存在だ。
「待って、まって!こっち向いてよ!」
腕を強く後ろに引かれて、ぐるりと視線が一回転。
「……なんで泣いてるの?」
「っ、」
濡れる視界に君の顔。
悲しそうに眉を寄せて、辛そうに瞳を潤ませて。
今にも泣き出してしまいそうな、そんな表情。
「俺を、独りにするの?」
「……君はみんなの憧れで、君はみんなの希望で、君はみんなに愛されて、君はみんなのものだから、だから、」
「だから、さよなら?」
掴む力を強くして、溢す声を低くして、君はわたしを追い詰める。
「君だけが俺の支えなのに?」
「君だけが俺の希望なのに?」
「君はそれを奪ってしまうの?」
「君は俺が嫌いになったの?」
なにも言わないわたしの頭に、容赦ない言葉が降り注ぐ。
「俺は君が好きだよ」
その声にいつも迷いはなかった。
「君しかいらない」
その瞳はいつもまっすぐだった。
君が壊れたのはいつからだろう。
わたしを壊したのはいつからだろう。
「一緒にいこう、」
それは悪魔の囁き。
「すきだよ、君が」
最後の言葉はどちらのものか。
互いの指を絡めた感触が、今もはっきり思い起こせた。