第8話 ケンム +吹奏楽の大会などについての説明
あっという間に過ぎていった9月も終わり、10月をむかえている。グラウンドや校舎の外壁が夕陽に照らされる時間帯も、2~3週間前と比べれば随分と早くなっているような気がする。5時半近くともなれば、もはや昼よりも夜の方が近い情景となる。
私を含めた吹奏楽部の1・2年生は9月末の体育祭における昼演を無事? に終え、(8月に事実上引退されている)3年生の先輩方が編成上からも正式に引退扱いとなる10月下旬の追いコン(追い出しコンサート)の準備へ、本格的に入っていた。
本日の下校時刻が迫る中、みなが大急ぎで帰り支度を整えていく。同学年の気のおけない吹部の友人たちと一緒に、丘の中ほどにある高校から駅へと向かい坂道を下る。
その側を、びゅんと勢いをつけた自転車組が追い越し去っていく。駅へ着くと、バス組とサヨナラの挨拶を交わす。次いで、駅のホームで上り組と下り組に別れて電車へと乗りこむ。
私を含めた4人は、ちょうど空いていた4人がけシートに座る。最寄駅に着くまでの間、短くはあるものの楽しい時間の幕が上がる。そう、仲良し4人組による、おしゃべりタイムが始まる。
ところが。ふと、隣のシートから話し声が聞こえてくる。聞く気などなかったはずだったのだけれども、私たちはある言葉にピクリと反応した。気がつけば、揃いも揃って4人とも急に口を閉じ、聞き耳を立てるかのように首を少しばかり回し、耳を隣のシートの方へと向けていた。
「どうするんよー。結局、ケンムのどこにするんねー?」
「うーん、ホントは北がええんじゃけど、ちょっと成績が微妙なんよね……。西じゃったら受験勉強は全然せんでもえーんけど、遠過ぎるんもあって親が反対しとるんよ」
「ほじゃったら、前から言うよった通り、うちと一緒に川女へ行こうよ。あのセーラー服に、うちはちょっと惹かれとるんよー」
「でもさー、女子高はなんか恋愛とか無理そうじゃろー」
「あんたー何言いよるんね。甘いわー。ケンムを選んでる時点で何ねむいことを言うよんねー。バレてみんさい。先輩とかにぶち|しごうされる《ハードな練習を受けさせてもらえる》だけじゃろー」
3人のうちの誰かが、いや3人ともが私を小突いてくる。ちょっとみなさん! 落ち着きがないですね! と目だけでこたえる。
隣のシートの、おそらくは中学3年生2人組の会話は続いていく。
「うちが言うよるんは、ほら、中での話なんよ。川女はその可能性を捨てるんよー」
「中でって、どろどろになりたいんね? やまさんとまーちゃんみたいなんはもう見とうないわ。収まるまで、ぶチきつかったじゃろー」
「別れる前提で話を進めんでよ。うちはああいう風にはならんのんよ」
「……まあ、それはそれとして。ほじゃったら、北がんばってみる? あんたにしても、うちにしても成績は似たようなもんなんじゃし。成績じゃったら、うちら東か梅崎は、まず安全圏よね。で、北はちょっと微妙なラインになるんよね」
「ほうよねー。でも、東も梅崎もケンムじゃないんよねー」
「西は、うちも親がええ顔せんじゃろうしね。そうしたら、ケンムで選べるんは川女か北しかないんじゃし。マキががんばるんなら、うちも北を本気で目指してみよう思うんよ。家から適度に近いんもポイント高いんよねー」
「それもあるけど、一緒のとこ行きたいもんねー」
「ほうじゃねー」
聞き耳を立てている4人ともが、うん、うん、といつの間にかうなずいている。
……懐かしくも、とても遠い昔の話に感じられる受験生の会話。その隣のシートに座って、無言のままお互いの目だけで会話をしている私たち4人にしても、ほんの2年前は中学3年生だった。はずなのに……今では本当に遠い世界の出来事のように思えてしまう。
「もう1校あるじゃろ……道陽が」
「わー、あるわー。入れるもんなら入ってみんさいやー。中高一貫の男子校に、女子が高校受験でー」
「道陽と言ったら、小学校の6年で同じクラスだったかとう君が……」
あ、話題が脱線してきた。たまたま隣のシートから漏れ伝わってきた中学3年生の女子2人組の会話を聞くのを私たちは止め、帰り道にしていた話題へと戻っていく。
その後、彼女たちは私たちが乗った1駅先で降りていった。
面識のない中学生の2人ではあったものの、まるでよく知っている後輩であるかのような思いで、ドアから降りていく2人の後ろ姿を目で見送る。心の中で、受験がんばれーと応援のエールを送る。
「はーい、この中で川女も受けた人挙手~」親友のサチの声が横から聞こえる。言い終える前に早くも手を自ら挙げている。
サッ。サッ。サッ。手が挙がっていく。
なんのことはない。うん、つまり4人全員だ。
もっとも、高校吹奏楽で普門館(後述あり)のステージに上がることを夢見る私の暮らす市の中3女子は、単願にしろ県立との併願にしろ私立の選択肢が川女以外に事実上ないという、なんともいえないセツナイ現実がそこには存在している。
世の中には、仲間内で通用する言葉や特定の業界のみで通じる用語が数多く存在している。
とても大きな括りでいえば、日本語や英語、フランス語やドイツ語などもそれに該当するだろうし、同じ日本語でも全国各地の方言などもそれに類するものといえる。
スポーツの専門用語とかも業界用語に該当するだろうし、最も小さなくくりでは、家族の間でのみとか、恋人や友達の間だけで通じるいわゆる隠語に近い言葉も存在している。
そういった意味において、先ほどの中学生女子2人組の会話にちらほらと出てきた "ケンム" という言葉は、私が暮らす県の中学・高校吹奏楽部関係者の間だけで意味が通じる隠語のようなもとして通用している。
"ケンム"
兼務でも、日本史の建武(の新政)でもなく、県六。呼び方はケンロクではなく何故かケンム。
県内には高校吹奏楽における強豪校が6校ほど存在している。過去15年以上に渡ってこの6校のうち必ず2校以上が、県のコンクールで支部大会出場権(一金、二金、三金(後述あり))を得ていたりする。3校をケンム勢が占める年も、平均すれば2年に1度の割合となっている。そして、このケンム問題の根はとても深い。
それは県代表の3枠を得た高校が大抵の年において、少なくとも支部代表4枠のうち2つを得てしまうことによる。県代表の3校が支部大会でもそのまま横滑りして代表となって全国へ、という年すらここ15年間で3度もあった。
つまり、私の県の高校吹奏楽部は、傍からみればなんとも妙な状況に陥って久しい。
県のコンクールで生き残ることの方が、支部大会で全国大会行きの切符を掴むよりも、実質的な難易度が高いのかも? 、という逆転現象が常態化しているのだ。
私の暮らす市と近接市にある県西部の4校(道陽、川内女子、高宮西、高宮北)に、県東部の三葉、県北部の山吉の2校を加えた6校。通称ケンム。
どこかが突出した実績を残しているのであれば、三出制度(後述あり)によって、実質的な枠が増えることもあるのだろう。
けれど、1校たりとも3年連続で県の代表に選ばれたことはなく、必然的に全国大会へ3年連続で出場という偉業を成し遂げた高校もない。
いわゆる、黄金期を6校ともに県高校吹奏楽の歴史に刻んだことがない。例えるなら、飢えた6頭の獣が、互いを攻撃しながら、血を流しながら、のた打ち回っているようなものであった。満ち足りた記憶がないので、過去に甘い夢を見ようがなく、現実を直視し続けるしかないのだ。学校関係者も指導者もOG・OBも現役生徒も。
結果、六つ巴という、どうしようもない泥沼状態が連綿と続き、恐らくは7~8年前あたりから、6校を指してケンムと呼ばれるようになった。
更に、実績でケンムに迫りつつある新興勢力となりつつある高校が県東部から登場しており、県八という新たな隠語が出来てしまう可能性もある。
そういった事情により、先ほどその会話を耳にしてしまった中学3年生2人組のように、
高校吹奏楽で普門館を目指す県西部に暮らす受験生にとって、高校の選択肢はとても限られてしまう。
「やっぱ、そうなるんよねー」と言いながら、サチがうんうんとうなずいている
「うちは川女に行こうかと思っとったんじゃけど、やっぱり共学の方が希望あるもんね!」と主張するナオコ(同学年の女子)の声が聞こえる。
「恋の可能性すらないんは、寂しいもんねー。恋せんでも、ドキドキくらいは必要よねー」と、サチがつぶやいている。
「吹奏楽部内での恋愛なんて……上手くいっている時は良いけど、別れたりしたらもう血みどろのグチャグチャになることも多いんよ。周囲も大変なんよ。さっきの中学生の話じゃないんじゃけどね」と、これはナオコの声だ。
「そんなん!」私とサチの声が重なる。「知っとるんよー」
女社会である吹奏楽部における常識みたいなものだ、と思う。
ちなみに、吹奏楽部において、基本的に男子は異性ではない。同性ではないだけ、という存在であって、扱いもそれに準じている。
本物の男は別にいて、パーカス(Perc 打楽器全般を指す)の女子勢の中にいる。
ただ、同性ではないだけの生物学上の男にしても男子には違いないので、部内恋愛は発生しやすい。何しろ、大げさな表現をすれば、女の中に(生物学上の)男が1人、という状況に近いものがあるので。
そして、上手くいっている時はいいけれど、ちょっとしたことで嵐の季節が部内にはあっけないほど容易に嵐がやって来る。
いかに最小限の被害で収めるか。これは演奏技量とは全く別なものの、非常に重要なスキルとされている。
人間関係は人数が増えれば増えるほど複雑になる。
吹奏楽部はただでさえ大人数を抱え、文化系なのに体育会系要素も含み、学内における男女比率に比べれば部内のそれは歪なほど女子が多い。これで問題が起きないと思える方がどうかしている。そして、当たり前の話だけど、その中に身をおく以上は誰もが避けて通れない。
「もうホンマあれは何なんじゃろうね」私のクラスメイトでもあるシノミが顔をしかめながら言っている。
私たちの高校でも恋愛騒動は0ではないし、小さな騒ぎは何件かは起きてはいるけれど、口調から察するに恐らくはそれらのことに対して苦い顔をしているわけではないらしい。
「中学の時にね……えっと、何でも……」シノミがちょっと話し辛そうにして、口を閉じた。
いや、そこまでほのめかすのなら言おうよ、とつかの間思ったりしたものの、シノミの出身中学を思い浮かべれば、ピンとくるものがあった。多分、サチも同じなのだろう。目と目が合う。
口を開きかけたもののシノミの幾分ためらっていた感じが、私は少し気にはなって押し黙る。
「分かっとるよ、青の廊下騒動でしょ」
早い。あっという間に、サチがズバっと核心へ斬り込んでいた。
「あと雨の討ち入り事件」
前へ、前へ。相手の懐へと大胆に、躊躇をみせない……ように思えてしまうけれど、サチの一線を越える超えないの線引き感覚は抜群だ。今までにミスらしいミスをした現場に、私は遭遇したことがない。
サチの目が私を見ている。えっと、これはシメを任されてしまったわけですね、はい。私は口を開く。
「それと赤木下の乱」 ……だったよね。赤木さんには自信があるのだけれど、木下さんだったような、木本さん……ではなかったような。でも、やっぱり赤木本だったかも?
あ、私がこんな感じであやふやに覚えているということは、サチもきっと同じなのでは?
ふと、そんな疑惑が頭をよぎる。ちらりとサチを見る。ちょっとした視線の動かし方と口元の微妙な動きには、心当たりが充分すぎるほどある。だてに幼稚園の頃からの付き合いではない。
そんなサチと私の声を聞いていたナオコが、同意を示すようにうんうんと大きくうなずいている。どうやら、3問目も正解だったらしい。
「あれー? うち、話したことないん思うんよー」とシノミが少しばかり戸惑いをみせている。
幾分信じられないという表情をしているナオコが言う。
「その3点セットは、この地域の中学で吹奏楽やっとった同学年の子ならみんな知っとると思うんよ」
「顔とかまでは知らんけどねー。内容のインパクトの凄さがねー。当時、情報が駆け巡っとたんよ」と、これはサチの声だ。つい先ほどまではイマイチ確信を持てていなかったはずなのに、そんな気配なんて微塵もただよわせてなどいない。私がそれと分かったのは付き合いが長いから、理由はそれだけだろう。
「3つが複雑に絡んどるんよね」と私は言う。
「そっか、みんな知っとたんじゃね」そう言ったシノミは、少し気が晴れたとでもいうような表情をしていた。「言いふらすようなことじゃないし、仲良うなっても3人とも全然このことを聞いてこんし」
サチの声が聞こえる。
「うちらもそんな話、聞きにくいわー。言うてくるまで、この話題に触れる気はなかったんよ。でも、中学の時にってさっきシノミが言いかけたし。これは! とうちは思うたんよ」
「そっか。気つかってくれて、ありがとね」とシノミはそっとつぶやいている。
「梅二(梅崎第二中学校。シノミの出身中学)って全国行くくらい強かったのに、うちらが3年の時は県で銀じゃったじゃろ。おまけに、(高校)1年の時の最初も梅二出身であまりかたまってなかったし。というか、バラバラだったし。それにうちらの代だけ梅二出身の人数が妙に少ないし」
よく見ているなー、とサチの観察力に私は感心してしまう。
「ほら、知っとる思うんけど、うちとサチの中学はぶち弱かったけーね。3年の時のコンクールでびっくりしたんよ。なんと梅二が銀だって。それで、梅二の3事件の話が伝わってきたんよ」
「うちら、気にしとらんよ!」とナオコが明るく言う。
「ほうよ。中学は中学なんよ。大事なんは、今なんよ!」
「で、シノミの気になる人は誰なんね? 白状しんさい」
サチのこういう切り替えしは、ホント凄いなって思う。
「えー、吹部にはおらんよー」と、さっきまでとは違う、随分とすっきりした表情のシノミが言っていた。
「には? ということは、おるんじゃねー」
電車が私とサチの最寄り駅に近づいている。
「気になるわー。シノミもナオコもちょっとここで降りんさいや。じっくり聞くべきと思うんよ」サチがそう言いながら、早くも2人の鞄に手を伸ばしている。
今日の帰宅時間は遅くなりそうだけど、こういう時間は必要だと、私は思う。
「話すけど! あんたらの駅前、コイバナ出来そうなお店はあるんね? 初披露するんよ。それなりの格式いうもんを、うちは要求するよ」とシノミが小さく叫ぶように言う。
う……私とサチはかたまってしまう。
「き、喫茶店があるんよ」とサチがぽつりとつぶやく。
「サチ……あそこは中学の先生のたまり場みたいになっとるじゃろ……」
「お好み焼き屋なら2軒あるんよ……」サチが粘っている。いや、うん、分かるけど、フォローしてあげたいけれど、私には難易度が高過ぎる。
「ほじゃったら」黙って3人のやり取りを聞いていたナオコが、ポンと両手を叩いて言う。「明日の土曜は早う帰れるじゃろ。(高校の)帰り道からちょっと外れるけど、シフォン(ケーキ屋兼喫茶店)でお茶しながらにしようやー」
「それがええね」私はお好み焼き屋よりもケーキ屋でコイバナを聞きたい。「サチもそれでええよね?」
「ほうじゃね。私もお好み焼き屋でコイナバは、ホントはどうかと思うとったんよ」
さすがサチ。あっさりと前言撤回している。
「ほじゃったら、明日ね。いうても、あれよ。うちが話すからには、みんなのも聞かせてもうらうけーね!」
「しょうがないなー。たーさんの話をそんなに聞きたいんね」
ちょっとサチさん! いつの間に私の恋のライバルになったのでしょうか。
「それはわざわざ明日聞かんでもええわー。今まででお腹いっぱいじゃし」
ちょっとナオコさん! 私の大事な彼の扱いがひどくないですか。
「ほうじゃね。テーマは、アキ以外のコイバナってことで」
ちょっとシノミさん! 参加資格を剥奪しないでください。
「みんな、あれじゃね。うちには分かっとるんよ。もっと聞きたいゆう裏返しなんじゃね!」
駅についた電車のドアがプシューという音を立ててゆっくりと開く。私とサチは、シノミとナオコにサヨナラをして、ホームへと降り立つ。
明日の帰宅時間は遅くなりそう。だけど、こういう時間は必要だ。と、私は思う。
■■申し訳ありません。少しばかり説明的なものを記載します。ホントすみません■■
題して。吹奏楽の大会とその用語について。
これまでにも、ちらちらと出てきたダメ金や銀賞、支部大会。この8話文中に登場した一金、二金、三金、三出制度なども含めています。
吹奏楽部の人にはなじみある用語とその意味だと思いますが、そうでない方々にしてみれば聞いたことがなかったり、恐らくは誤解を受けそうな意味を持つ用語や制度が作中には登場します。
しかしながら、主人公やその周囲の吹奏楽部関係者にしてみれば常識用語なわけで……おまけに一人称物語。かといって、用語が登場するごとにこれはこういう意味があると記載するのもいかがなものかと。
そういった理由もあり、作中で語らせる話を書いてはみたものの、私の表現力では冗長の極みというか、説明の為の説明のような出来となってしまいました。
よって、作中での記載は諦め、このような形で別扱いの補足とさせていただいております。
中学や高校の吹奏楽部の一大イベントである団体コンクールは、県、支部、全国(高校野球でいうなら甲子園みたいなもの)の順番で開催されます。
夏に県レベルの大会が開催されるコンクールなので、通称は夏コン(これは全国共通的な表現ではないのかもしれません。吹コンのほうがメジャー?)
県代表のみが支部大会へと進み、支部代表のみ(県も支部も1校ではなく複数校)が、全国大会への出場資格を得ます。
都道府県によっては県大会の前に地区大会があるところもあります。なお支部=いわゆる○○地方とは必ずしも同一ではありませんが、概ね同じだと考えていただいても、今作を読む上では特に問題はないかと思います(北海道、東京、東関東、西関東が、上記支部うんぬんに関しての例外扱いとなります)。
県の大会そのものは人数別にA、B、C編成(A編成が最も人数多い)と分けられています。支部大会以上が開催されるのは、A編成のみとなっています。
それぞれの大会は、一発勝負(課題曲と自由曲を演奏します)で順位がつけられ、コンクールですので、当然ながらトーナメント形式ではありません。
出場校が同じ日(参加校の数により、複数日に分けられる場合もあります)に、同じ会場で演奏して、その場で結果が分かります。
なお、順位というか優劣はある程度まで、(他競技に比べれば)けっこうおおざっぱに知らされます。
金賞、銀賞、銅賞。
この3つしかありません。賞のランクごとにおよその受賞校数らしき目安はありますが、例えば全体で30校なら、金10校、銀10校、銅10校というように、金銀銅の校数そのものが固定されているわけでもないです。
全ての学校が演奏を終えると番号(いわゆる演奏)順に、金か銀か銅かが会場で発表されます。
銅賞は参加した時点で貰えます。銅にもレベル差はあるのですけれど、受賞校は等しく銅賞扱いとなります。
銀賞は金賞と銅賞の間です。説明不足では? と思われてしまわれるかもしれませんが、金と銅の間としか言いようがなかったりします。銅と同じように、銀にも演奏完成度の差は存在しているももの、受賞校はおしなべて銀賞扱いとされます。
厳密にいえば順位はついています。ですが生徒たちが最初に結果を知ることとなるコンクール会場の場では、金か銀か銅であることくらいしか分かりません。
さて、問題は金賞。これがなかなか面倒というか独特というべきか、何それ? と吹奏楽になじみの薄い方々は思われてしまうのではないでしょうか。
まず、上述のように銀や銅と同様に金賞とだけ公表され、その後に本年度の代表校は○○高校と△△高校といった感じで発表されます。
金賞は、同じ金賞の中で、天と地ほどの格差が存在しています。今小説の主人公の暮らす県で説明させていただきますと、支部大会への進出枠が基本的には3つに設定されています(府県によって差があります)。
この上位3校を上から、一金、二金、三金と呼びます。
そして、それ以外の金賞は……四金も五金も十金も十二金も、全てダメ金と呼ばれます。
三金とダメ金特に4番手や5番手あたりとの差は、山よりも高く谷よりも深いです。大げさな表現ではなく、本当にものすご~~くめちゃめちゃに凄まじい差としか言いようがありません。
※三金以上狙いではなく、初めから金賞受賞そのものを目標としている学校も当然ながら少なくないことは記載しておきます。
ここで具体的なイメージを出したほうが捉えやすいかな? と思い、TVや新聞などで最も目にする機会が多そうな高校生の部活動、硬式高校野球で例えてみます。
一金……県大会で優勝。決勝戦はエースが2安打完封して、打線も全員安打全員得点と大爆発。12-0で磐石の勝利。
二金……県大会で優勝。決勝戦はエースを7回で降板させる余裕をみせたりしながら、終始に渡り点差以上に相手校を圧倒して、7-2で勝利。
三金……県大会で優勝。決勝戦は得点差こそ僅差なものの、終わってみれば一度もリードを許すこともなく試合巧者ぶりを見せつけ5-4で勝利。
ダメ金……ベスト8もしくは16あたりで敗退。ガチンコで優勝を狙っていたのでしたら残念賞になりますし、当初から準々決勝進出あたりを現実的な目標としていたのでしたらベストな結果といえます。
銀……2~3回戦で敗退。
銅……1回戦で敗退。
※あくまでも都道府県の団体コンクールにおける私個人のイメージです。支部大会や全国大会では、当然ながら金銀銅の価値はまた異なるものがあります。
と、このように。
一般常識的な意味における、金賞=1位、銀賞=2位、銅賞=3位 とは随分と認識に違いがあることをご理解いただけたことと思います。
なお、話はややそれますが、"きん"と"ぎん"は、音が似ていますので、金賞だけは単に"きん"ではなく、「○番 ○○高校 ごーるど きん」と発表されます。
更に、ややこしいことに予選免除みたいなシード権が与えられて代表枠数が実質増えたりする年もあったりします。少し上のほうに記載した、金賞の中の差 のところで"基本的には"と書いたのはそういった理由によってです。
最後にもう1つ。摩訶不思議としか言いようのない制度があります。
その名は、三出制度(2013年で廃止されたもよう)。
これは、初めてこの制度の仕組みを耳にされた人の頭の中が? ? ? と疑問符だらけとなることは、間違いないのではないでしょうか。
普門館つまり全国大会へ3年連続で出場を果たした学校は、なんと翌年は地区や県レベルですらコンクールへの出場資格そのものを喪失します。
3年連続で全国へ進むという超が2つ3つ付くくらいな強豪校においてレギュラーの座を3年生時に得ても……演奏旅行や記念公演はあるものの、コンクールに参加することすら認められないという……なんとも言いようがないルールです。
一応、三出制度に関しては、予測がある程度は可能です。
○○○休○○○休○○○休 白丸は出場、休はお休み
例えば、中学3年生の年に三出により欠場中の高校に入学……超ラッキーです。少なくともその高校に在籍している3年間は"お休み明け"となるので、コンクールへの参加資格がある日突然取り上げられてしまうことはありません。
なお、上記以外に関しては、高校3年生時に三出に嵌まらなければ、気持ち的にはもっていきようがあるのでは? と、あくまでも個人的な見解ですがそのように思います。
都道府県にもよりますし、年によってもずれたりはしますが、概ね8月上~中旬に都道府県大会。8月下旬~9月上旬に支部大会。10月下旬に全国大会という日程が組まれています。
つまり、全国大会へ2年連続出場中の高校の2年生は、8月下旬~9月上旬に開催される支部大会の結果次第で、3年生時の運命がどうなってしまうのかが決まってしまいます。
高校に入学した時点で3年生時はコンクール出場不可だよ、と知らされているのならともかくとして、高校2年の途中にそれが判明することとなります。
吹奏楽に限らず全ての部活動は、それぞれの競技の大会の為だけに練習をしているわけではないでしょう。
しかしながら、大会は大きな目標であることは否めない、と思います。
何も優勝を目指すだけではなく、それぞれのレベルに応じて最高の結果を出すべく日々練習に励むわけですし。特に3年生は最上級生かつ最終学年で終われば引退という立場で臨むわけですので、文字通りに3年間の集大成の場だと思います。
高2の秋になって突然来年の参加資格を、不祥事などではなく強豪過ぎるがゆえに強制的に失ってしまうという。
ただ、吹奏楽は1人や少人数の天才演奏者が在籍していたとしても、どうこう出来るようなものではなく、集団による積み重ねた音がものをいう面が大です。ゆえに、一概に悪平等ともいえなかったりもします。
まあ個人的見解としては、…………な制度です。
以上。吹奏楽の大会とその用語についての説明を終わります。