理不尽
11/22 更新
「で、忙しくなりそうなの? 兄さんは」
「うん、そうなの。あとあと、これからお料理しなくちゃいけないからその足をお兄さんの頭からどけてくんないかな?
いつまでも床と口づけしたくないなぁ、お兄ちゃんは」
「……わかりました」
総会の後、リウと七隊隊長と話をしていたら帰宅するのが遅くなってしまった。
急いで帰ってくれば『腹減った』と一言告げて、ドロップキックを仕掛けてきやがったので大変遺憾である。
文句は言えないけど。
「わかりました。遅くなった理由はきちんと聞きました」
うんうん。
「これからも帰るのが遅くなりそうなこともわかりました」
うんうん。
「しかし――」
「うん?」
「食事が遅くなることは許しません」
「ええー!? それって横暴じゃない? 僕、隊長。仕事、忙しい。アーユーオーケー?」
「忙しくてもなんでも食事をつくりに一旦屋敷に帰りなさい。これは当主命令です」
「……理不尽だ」
とても理不尽かつ、これでは仕事が長引いてしまう。かと言って放棄は出来ない。当主命令となれば従うのが屋敷の人の運命です。
「わかりました、従いますよ。当主様」
妹は「よろしい」とにっこり笑って腕を組んだ。まるで人間界の女王様の格好で、何となくそれが似合っているから困る。
「んじゃ、夕飯を作るかね」
ウチ、ジズ家にはメイドも執事もいない。それはなぜか……。
簡単にいうとお金がない。雇うお金がない。家を改築するお金がない。
とにかくお金がない。
「父上があんなに博打にはまらなければなぁ」
父はなんだか知らないが、賭け事をやり出し始め、財産が底をつくと自殺した。まったくもって意味がわからん。
金に関して言えば、母もそうだ。母上もよくわからない金儲けに性を出し、気がついたら破産してこれまた自殺。自殺の仕方が自宅で自爆という……迷惑極まりない行為で死んだので――、
「メイドと執事、庭職人の何人かはガチで死んだからなぁ。かろうじて生き残った奴は泣きながらどこかに行ったし、ウチの家は自分たちで作る羽目になるし、ホント最悪」
と、夕飯のハンバーグを作っている俺の城にギリギリと低い音が鳴る。
「緊急召集……か? おーい、妹よ。兄は緊急招集に行くから料理を――」
「兄さん、行くのは構いませんが……完成させるか、分身を置いて作らせるか、使い魔に作らせなさい。私をご飯抜きにさせたら減給です」
…………。
妹とは思えない。むしろ鬼か悪魔か。
「マッハでハンバーグならなんやらを作れ。んでもって、できたら皿によそってフェイに渡せ。いいか、マッハだぞ!」
使い魔を呼び、俺は召集場所へ向かうことにする。
「すみません、俺が最後っすか……」
転移魔法を使ったが召集される城の内部は魔法が無効化されるため、門の前までしか使えない。つまり、召集会場の地上千メートルまで走るしかない。
ばかやろう。飛んでったら撃ち落とされるに決まってんじゃんか!!
俺は息を整えながら聞く。
『…………』
「? あれ? どう、したんスか? 何か元気ないっスけど」
「リード君、遅かったじゃない」
「あ、すいません。急いだつもりだったんですけど」
「リードよ、今までどこにいたのじゃ?」
「……? 何言ってんですか、一隊隊長。俺は自宅に――」
「いました」……と言おうとして気づいた。
「副……隊長? あの、なんでここに副隊長が……えっと、その……五隊副隊長がどうして血だらけで?」
『…………』
誰も答えない。
「リウ? どういうこと……なんだい?」
リウに視線を向けると、鋭い目付きと銀髪が少し揺れて言った。
「五隊隊長、フリードリヒ・クラム・ジズ」
「うん」
「お前を――」
「うん」
「拘束する」
「うん……え、コウソク?」
コウソク……校則……拘束?
「拘束ぅ!?」
これはマズイ。とてもマズイことである。
と俺、フリードリヒ・クラム・ジズは鈍感ながらもそう思った。
そして意味不明。
理不尽
理不尽な出来事って起きるときは連続で起きますよね?
なんなんでしょうね、人生ってやつは。(;;)