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3/22 更新


「ぐ……うっ」


「お主が裏切ることなど、見越しておったわ」


 ガブリエルは突如リードと彼女を襲った光にあたり、吹き飛ばされた。


「爺さん……」


「愛か……くだらん。そのようなもの、自身の弱みに過ぎぬ。力こそ全てよ」


 眩い閃光は天王であった。白いローブに権力者特有の気配を纏わせた、いるだけで敬服してしまいそうな存在感がそこにはあった。


「お主が裏切ったのはいつだったか……。万年か千年か忘れてしまったが、お主を忘れたことは一度もなかったぞ」


「嬉しくねえ告白だ」


「ふん。告白ならこうだ。あの時までお主を信じきっていた儂が愚かであったという一点。愛弟子よ何故裏切った? 何故儂の命令に従わない?」


「あんたが気に食わないからだ」


「何千年も面倒を見てやったというのに……。それにあの時までは儂の命に逆らわなかったではないか」


「むかついてたけどな……あんたのやり方は間違ってる!」


「ほう。なにがだ」


「人間は人間の力で生きていくべきだ! 天使とか悪魔とか関係ない。人間は人間なりの強さを持ってんだ。それを支配だと? 俺は王サマこさえるためにアンタの奴隷にゃなりたくなかったんだ!!」


 短く、天王は笑う。そして言う。


「人間なぞ矮小よ。我らが生まなければ存在しておらん。その脆弱者が脆弱な力で生きていく? はっ。笑わせる。力もない弱いくせに。恐怖に怯える小さいくせに。戦火を通ればすぐ死ぬくせに。よく喚く虫だ。人間など、魂を搾取されるだけの家畜で十分。塵は塵に。灰は灰にかえるのが道理。人間は奴隷として奴隷にかえれ!! 貴様ら悪魔が人間を守る分際で、いくつの天使が命を落としたというのだ!!! お主の祖先もお主と同じクズだった。人間に愛などと戯言よ。死んで消えるがいい!!」





















 数分。いや、数秒かもしれない。二人は互いを見ていた。数千年という莫大な時間が頭を巡りあう。


 リードは落ちた刃を拾う。


 天王も刃を上へと掲げる。


 ゆっくりと構える。


「戦うしかねえのか。やっぱりよ」


「戦うだと? 殺すぞ」


 二人はぶつかる。


 地面がえぐれる。


「oooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!」


「haaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」


 リードの剣技は天王のそれと同じ。初撃から数撃同じだけの攻撃を繰り出す。まるで鏡を合わせたようだ。


「ooooooooooooooooo! ディレイ・エルゥ!!」


 ディレイ・エルゥの効果でリードの技は攻撃が遅れていくつもの斬撃となる。ただの天使ならひとたまりもない攻撃。だが天王は一撃一撃に余裕をもって受け流す。


「遅いぞクリード。これならば儂の方がいくらか速いわ」


「くっそ……!」


 リードは刃の衝撃で押される。


「お主が消えた途端、人間はどうだ。ただ欲望のままに戦いに暮れたではないか」


「それは天界も同じだ……」


「儂らは違う。儂らは正義の蹂躙だ。儂らが治めなければどこもどこの「界」も滅亡していただろうよ。力がなければ制御できぬのだ。制御できぬ力は「界」によって押しつぶされる。死んでしまうのだよ」


 再び切合う。


「だからどうした! 力があるやつが管理するだと? そんなモンがありがた迷惑だ!!」


「生命の有効活用だ。有益であれば利用する。それはどの界のどの種族も同じこと。やはり悪魔の王は人間に危害を加えぬ教育をしているらしいな」


「だからなんだってんだ」


「儂らが魔界を征服しなかったのはお主がいたからだ。何千年もかけてお主に復讐することだけを考えていた。フリードリヒ・クラム・ジズを強くさせる空間としての魔界であったよ。そのお主のいない魔界など価値のない。滅ぼしてやったわ」


 リードは焦る。長い間自分が生かされていたこと。天王の執念の強さ。なにより魔界の滅亡について。


「てめえ!!」


「ぐ……。今の剣は効いたぞ、クリード。なに。魔界の征服は着々と行なっている。お主は気にするな。どうせすぐに滅ぶ」


「クソが!! ぶっ殺す!!!!」


 力の限りリードは斬撃を振るっていく。天王の体から血が溢れ出す。


「はははは!! 楽しい。楽しいぞクリード! こうして死んでいくのだ。お主も、お主の仲間もなあ!!」


「oooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!!」


「haaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」


 叫び声は常に絶叫。ぶつかり合う剣と剣の音は、もはや武器のように相手を攻撃している。それほどまでに力のこもった斬撃だ。


 リードは、一回一回の攻撃に気持ちが高ぶっていった。強い相手と戦えている興奮と、仲間を想う焦りに。その気持ちは徐々に想いに留まらずに体に変化を与えていく。


「gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」


 体を裂くように溢れ出る魔力がリードの力を開放していく。その姿は既に魔人のを超えて悪魔と化す。


「それがお主の正体か、クリード! 力に身を任せた愚かな力か!!」


「違う! 大切なものを守りたい、誇りある意志の力だ!! 俺はリードだ!!! フリードリヒ・クラム・ジズだ!!!! クリードは死んだ。俺はリードだあああああああああああaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa」


 一閃。嗚咽。


 リードはついに天王を切りさった。天王は自身の血だまりに膝を付く。荒々しく呼吸する。


「儂が――負けるのか」


「立てよ。あんたはまだ戦えるはずだ」


 天王は剣先をついて立ち上がる。一息ついて、ゆっくりと立ち上がったのだ。


 すると突如、塔が大きく揺れ出した。暴れまわる動物のような揺れだ。


「この塔は、儂の力で支えていたものだ。もはや儂は、塔を維持するだけの力もなくなってしまった……」


「決着だ」


「力なくしては何もできやしない。「意思がある」お前は人間じゃない。「なれるさ」やつらにお前は理解されない。「それもあるだろう」お前がしてきたこと全てに意味がなくなる。「なくはないさ」無力だな、それは」


「力だけが全てじゃないんだ。人間は強いぜ、爺さん」


「馬鹿弟子が……」


 塔は、崩れた。



決着

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