フリードリヒ・クラム・ジズは隊長です
10/21 更新
「「お疲れ様です一隊隊長、四隊隊長」」
リウと妹はすぐに頭を下げる。
「いやいや、頭を上げなさい二人とも。頭を下げていない奴もいることじゃしな」
俺のこと?
まぁ、俺しかいないよね。ちらりと妹を見れば顔を赤くしてうつむいている。クソ、一族の恥さらしってか。
え? 別に俺、泣いてないし。
いやホント。これは汗です。
目から出た汗だから、涙じゃないよ? ホントだよ?
「あのねぇ、僕は君よりも五百年も昔から隊長をやってるんだ。一隊隊長に関しては僕の倍以上だ。で、元部下の君にこうやって差し入れを入れることは悪いことじゃないでしょ」
くぅ。
隊長になってからも元上司に説教させられるとは……不快だ!!
「い、いえ、四隊隊長。ありがたく頂戴します」
四隊隊長の作るケーキは美味しいのでそれについては文句ない。妹がもっと貰ってこいだの、レシピを聞いて私に作れだのなんだの抜かすぐらいだ。
まぁ、それをしないので俺は家の中で妹に蹴りやらパンチやらされるんだけども。
「ほほ、まぁ、隊長になったからには仕事も増える。いくら責任感のないと言えど、しっかりするじゃろう」
隊長は面倒になったら部下に任せるという手もあるし……隊士よりはマシだ。
だって、四隊隊長にこき使われたもん。それくらい見逃して欲しいって。
「ははぁ、部下に投げるつもりだねぇ。その顔」
「いえ? そんなことは……あ、ありやせんぜ?」
「兄さん、声が裏返ってます。どもってます。言葉遣いがおかしいです」
「動揺しているな」
う、うるさい、妹とリウめ。余計なことを言いやがって。
「で、でも四隊隊長だって部下に仕事をさせてたじゃないですか」
「そりゃあ部下の教育もあるからね。書類仕事もさせるさ」
何が違うって言うんだろう。
「僕のは教育。君のは楽したいだけでしょ。隊長の仕事はあれよりたくさんあるからね」
「え、そなの?」
俺は一隊隊長の方を見る。
「さよう。隊長の仕事は隊士より、ウェイブよりも多いからの」
「マジか」
「隊長は一般隊士の見本になるべき存在。強く、正々堂々としているべきだ。それはリードもわかっているだろう?」
俺はたまらなく苦笑いをする。
「駄目です、三隊隊長。この顔は「めんどくせぇ」と考えている顔です」
バレてるとは……やはり我が妹だな。
「では、そろそろ行きましょうか、一隊隊長、四隊隊長、リード」
「うむ」
「そうだねぇ」
「え? どこ行くんスか?」
その場が、凍った気がした。氷結魔法を使ってもいないのに。
全員の顔を見れば、呆れた表情から腐った魚の目みたいな視線をこちらに向けているのがわかる。
なんとなく、ちょっと前に戻って自分を殴りたくなった。
「リード、おまえは隊長だ」
「そりゃあ任命、受けたし」
「任命式の後には隊長総会がある……と、事前に伝えていたはずだが」
隊長……総会?
「って、今日だっけ?」
「リード君、君はこれから大丈夫かい?」
俺が口を開く前に、妹が全員に謝罪の言葉を伝えていた。実に良い妹だ。
「隊長総会で何をやるかも覚えていない……とは抜かさんじゃろうな、リード」
あ、一隊隊長が怒ってる。絶対怒ってる。だって吐息が炎だもん。
「はっ、隊長の心得から仕事について、さらには報告会をすることであります!!」
俺は大声で報告のポーズをとる。
「よろしい。では行くとしよう」
っぶねー。
咄嗟に隊士だった頃の言葉遣いに戻っちまったぜ! 流石にやばいと感じた。これは二十年ぶりである。
「兄さん」
「なんだ、妹よ。ああ、安心しろ。終わったらまっ先に帰ってくるから夕飯はそれまで待ってくれよ。いやいや寄り道なんて――」
「後で説教です。隊長総会から帰ったら覚えていてください」
ボソっとそんな怖いことを妹は呟いて家に向かって帰っていく。
寄り道……してこうかな?
「フェイちゃん……厳しいよ」
「自業自得だ、リード」
「フェイ・クラム・ジズは三貴族の内の当主。フェイ君は頑張ってるのに君が品格下げてるんじゃねぇ」
四隊隊長は残念な声で言う。
あ、別に泣いてないから。
妹に怒られて泣くとか……グスン……マジないわ。
ねぇ、ハンカチ貸してくれないかな? リウ。
フリードリヒ・クラム・ジズは隊長です
私が怒られると思ったとき、それは大抵フルネームで呼ばれるときですね。
よって……病院は大嫌いです。><